『異種混合メカ(1)』

KOS国でギャラクターが傍若無人な破壊活動をしている、科学忍者隊が集められたのは、ある朝の事だった。
甚平などは欠伸をしている。
本来は全員休暇の予定だった。
貴重な休みを潰されるのは仕方がない事、と年長組みは諦めているが、甚平はまだ幼い。
「甚平」
ジュンがむくれている甚平をいつも窘める。
「甚平。俺達は遊んでいるんじゃねぇんだ。
 もう諦めろ。
 俺達だって約束を反故にしたり、バイトをサボったりして来てるんだ」
「ジョーの兄貴、約束を反故って、女の人との?」
「馬鹿!静かにしやがれ」
本当はフランツと共に走ると言う約束があった。
だが、彼は解ってくれるとジョーは思っていた。
手軽に連絡の出来る時代ではなかった。
ジョーが来なければ何かあったのだろうと斟酌してくれる筈だった。
本来はジョーが約束を守る人間だと言う事をフランツは知っている。
彼が来ない時は何かあったのだ、と言う事も……。
南部博士が入って来ると、全員がシンとなった。
「諸君、これを見たまえ。
 KOS国を襲っているメカ鉄獣の全貌だ」
スクリーンが下りて来て、街を破壊しているドリルのような手足が着いたメカ鉄獣が現われた。
イカのように足が8本あり、それが自由自在に動き、街の中の道路やビルなどを破壊している。
だが、上半身はカマキリのようで、更に鋭い刃のついた両手があった。
「イカとカマキリの化け物か?」
竜が思わず呟く。
「ゲゾラと違って可愛げがねぇな」
ジョーもごちた。
「とにかくあの動きはしなやかで素早いですね」
健はさすがにリーダーらしい事を言った。
「そうなのだ。国連軍は既に出ているが、太刀打ち出来ない状態だ」
スクリーンの中には撃墜されて行く国連軍の戦闘機も映し出されている。
「手足を合わせて10本だ。
 あの触手に翻弄されている。
 また、手からはミサイルも発射出来るようだし、その手自体が鋼鉄の刃になっている。
 国連軍飛行部隊は善戦はしたのだが、生還者は1名もおらぬ」
「国連軍は殉職者が後を絶たない。
 正直言って、死の出撃ですよ。
 時間稼ぎにしかならない。
 人の生命を無駄にしているだけです」
ジョーは言葉に力を込めた。
「こんな事なら、最初から俺達が出動した方が……」
「情報が集まるのをある程度待たなければ動けないだろう、ジョー」
健が呟いた。
「健の言う通りだ。国連軍には気の毒だが、もっと兵器を開発して、腕を磨いて貰うしかないのだ。
 何時までも君達だけに頼り続けている国連軍には、私も警鐘を鳴らし続けているのだが……」
「ちぇっ。犠牲者が出るのを黙って指を咥えて見ていろと言う事ですか…」
ジョーは焦りを隠さなかった。
「国連軍の問題にISOはこれ以上手を出せないのだ」
「でも、何かあれば科学忍者隊の出動を要請して来るのも、また国連軍である事は事実です。
 ジョーの言っている事は決して的外れではありませんよ」
窘めるかと思った健はジョーの擁護に回った。
彼も常日頃から同じ事を思っているのだろう。
「敵は口から謎の電磁波を出している。
 それに注意したまえ」
南部はジョーと健の言葉を無視して、出動を命じた。
「ギャザーゴッドフェニックス発進せよ」
「ラジャー」
全員が走りながら『バード・GO!』とバードスタイルに変身し、格納庫へと急いだ。

「問題はあの足と手だ。
 1本1本もいで行くしかねぇだろうが、また生えて来る事も考えられるぜ」
ジョーはレーダーをいじりながら呟いた。
「竜。とにかく10本の手足、それから口から吐き出すと言う電磁波に気をつけろ」
「言われなくても解っとるわい」
竜のいつもの言葉が返って来た。
ゴッドフェニックスは一路KOS国へと向かっていた。
コックピットでは敵の動きを知る為にデータを集めていた。
「健、街が破壊されて行く。
 このままいつまでも手を拱いている訳には行かねぇぜ。
 此処はゴッドフェニックスが囮になって、敵を街からこっちに引きつけるしかねぇんじゃないのか?」
「解っている。だが、闇雲にそうする訳には行くまい」
さすがに健は冷静だ。
ジョーの言う事も解っているが、闇雲に引きつけてただやられるだけでは能がない事も解っている。
「健、水中に入ったらどうだ?
 もしかすると、カマキリとして機能している部分は使えなくなるかもしれねぇぜ」
「確かにそうだともそうではないとも言い切れないな」
健はジョーの言葉に腕を組んだ。
「問題は口から吐くと言う電磁波ビームだろ?
 水の中では伝わり方が違うんじゃねぇかな?」
『諸君、ジョーの言う通りだ。
 水の中では抵抗があって、電磁波のスピードがぐんと落ちる』
突然スクリーンに現われた南部がそう告げた。
「よし、竜、潜行だ」
そうしてゴッドフェニックスは海へと潜行した。
イカの足の部分の動きが活発になった。
「竜、あいつに絡まれないように気をつけろ。
 ジョー、1本ずつ足をバードミサイルでぶった切れ」
「水圧に影響されるから、上手く行くかどうかは解らねぇがやってみよう」
この時期、各メカに新装備がされる前だった。
バードミサイルも旧タイプのものだ。
果たして役に立ってくれるのか?
ジョーは赤いボタンの前に立って、発射準備をした。
「まず1本…」
ジョーは狙いを定めた。
「発射!」
発射したバードミサイルはイカの足に絡め取られて、投げ返された。
「竜、避けろ」
「解っとるわいっ!」
ゴッドフェニックスは辛くも避けた。
「バードミサイルを受け取られた。
 やはり水圧の問題か……」
ジョーが腕を組んだ。
「健、海中にいれば、少なくとも街を破壊される事はねぇ。
 このままで何か打開策を考えようぜ」
「ああ、それしかないようだな」
「イカ墨攻撃だ。一旦上昇するぞいっ」
ゴッドフェニックスが急展開した。
甚平は勢いに耐え切れずひっくり返っている。
「健、イカ墨の吐き出し口がある筈だ。
 携帯酸素ボンベを付けて、あそこから潜入しよう」
「そうか、イカ墨に紛れれば気付かれにくい」
「俺が思いついたんだから、俺が行くぜ」
「待て、俺も行く。
 ジョー1人では何かあった時に危険だ」
「信頼がねぇなぁ」
「そうじゃない。万全を期すだけだ」
健が強い眼でジョーを見た。
ジョーは黙って頷いた。
「竜、もう1度潜行だ。
 わざとイカ墨を吐かせるんだ」
「ラジャー」
「ちぇっ、2人で行くのかい?」
甚平が不満そうに言った。
「甚平、イカ墨の威力はなかなかなもんだ。
 いかにバードスタイルでもおめぇでは体重が軽すぎる」
ジョーが慰めるかのように甚平のヘルメットに手を置いた。




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