『異種混合メカ(2)』

2人は早速トップドームへと出た。
「甚平、不満そうだったなぁ…」
健が笑って見せる。
闘いの渦に飛び込んで行く前にしては、この2人は余裕だった。
磐石のコンビだから、と言うのもあるだろう。
「まあ、仕方がねぇさ。
 あの強く吐き出す力に逆行するんだ。
 甚平の体重じゃあ耐えられねぇだろ?」
「ああ、俺もそう思う」
2人はニヤリと笑みを交わした。
「竜、上手く敵を誘導し、イカ墨を吐かせたら、すぐにトップドームを開けてくれ」
健がブレスレットで指示を出した。
「健、甚平にはああ言ったが、俺達でもキツイかもしれねぇぜ」
「解っている。でも、他に適任者がいないからな」
「おう。一か八かだ。やってみようぜ」
ジョーが言った時、イカ墨が吐き出された。
健がすかさず指示を出す。
「来たっ!竜!」
『解っとるっ!』
トップドームが開いた。
2人は既に携帯型酸素ボンベを口に咥えていた。
イカ墨の勢いに体重が軽い2人は翻弄されたが、それでもそれぞれの膂力を使って海中を泳ぎ、イカ墨の吐き出し口へと進んだ。
時には身体が回転してしまう事もあったが、無事な方が相手の手を引いたりして、助け合って目的地へとひたすら泳いだ。
正直辛い潜行だった。
吐き出し口に着いた時には、2人とも肩で息をしていた。
入口が閉じたので、酸素ボンベを外して腰に戻す。
「…健、大丈夫か?」
「お前こそ…」
お互いに相手の無事を確認し、ニッと笑った。
「さあ、行くぜ、ジョー」
「おうっ!」
2人は一目散に走り始めた。
案の定イカ墨攻撃に紛れて潜入した2人には、まだ敵方は気付いていなかった。
「戦力を分散するより、2人で司令室を目指すのがいいだろう」
健は冷静に判断した。
3人以上いれば、分散して動力室を狙う事も可能だが、2人では共に行動した方が何かと危機に直面した時にいいだろう。
「電磁波の発射装置は今の内に破壊しておく必要があるぜ。
 空に出られたらゴッドフェニックスは一溜まりもねぇ。
 司令室の位置を想像するに、やっぱり電磁波発射装置と同じ頭部にあると考えるのが妥当だろうな」
「そうだろう」
「俺は電磁波発射装置を何とかする」
「解った。任せたぜ」
健はそう言うと、ヒラリと白いマントを翻した。
ジョーも同様に蒼いマントを華麗に舞わせて、2人は同じ方向へと向かった。

途中でまだ油断している敵兵と遭遇した。
彼らの侵入を知らなかったので、メカ鉄獣が戦闘中であるにも関わらず割とのんびりとしていた敵兵は慌てふためいた。
ジョーは跳躍して長い脚で蹴りを決め、健は「バードランっ!」と叫んでいた。
思い通りに自分の手中に戻って来るブーメランだ。
2人のコンビネーションは確立されていた。
事前に話し合った訳でもない。
阿吽の呼吸と言うべきか、その動きには無駄がなく、2人が交錯して相手の戦闘を妨害する事もない。
役割分担が自然に出来ている。
長年共に訓練を受け、闘って来た者だけに備わるものなのだろう。
背格好もほぼ同じで、戦闘能力も伯仲している。
この2人はお互いに相手を信頼していたし、いざとなれば生命を預ける事も厭わない。
まさに科学忍者隊のリーダーとサブリーダーに相応しい闘い振りだった。
ジョーは羽根手裏剣とエアガンを交互に使い敵兵を薙ぎ倒し、更に肉弾戦に持ち込んで、打撃を与えて行く。
健も様々な技を使って肉弾戦を切り抜けて行く。
彼は格闘技の技をミックスして闘って行くのだ。
ジョーはそれを見て惚れ惚れとする事がある。
自分は派手な技は使わない。
地道に肉体でぶつかって行くのみだ。
彼の肉体は全身が武器と化す。
だが、それを外から見ると非常に華麗な技なのである。
無駄な動きが全くなく、全て計算し尽くされた動きのように見える。
その闘い方の違いにはそれぞれの性格が出ていたが、健は健でジョーの闘い振りに舌を巻いていた。
お互いに相手の闘い振りを見ている余裕がある時はそれ程ある訳ではないが、互いの力を認め合っている間柄にはそう言った自分の眼で見分した部分が大きい。
この2人に雑魚兵などが通用する筈もなく、ズンズンと先へと進んで行った。
「問題はカッツェが乗り組んでいるか、と言う事だな」
健が闘いのさなかに呟いた。
「いると思うか?健……」
「いる。そんな気がする」
「ようし。竜!もしロケットか何かがこのメカ鉄獣から飛び出す事があったら、バードミサイルで撃ち落とせ!」
ジョーがブレスレットに向かって叫んだ。
『解った。水圧がどう影響するか解らんがその時はやってみるぞい』
竜の明快な回答があった。
「駄目なら何処までもレーダーで追跡しろ!
 ……出来れば、生け捕りにしたいもんだな。健」
「ああ、それは当然だ。
 俺もお前もカッツェには私怨があるからな。
 それに、本部の場所など聞き出さなければならない」
「ああ、カッツェが捕らえられた処で、ギャラクターが悪事をやめるとは思えねぇからな。
 第二第三のカッツェが出て来やがる筈だ」
ジョーは羽根手裏剣を正確に敵の首筋に投げつけながら言った。
この頃の彼らはカッツェの後ろ盾に『総裁X』と言う黒幕が居る事はまだ知らなかった。
ジョーは身を低くして何人もの敵の足払いをして一気に倒す。
次の瞬間には飛び上がり、別の隊員に膝蹴りを喰らわせている。
そんな事をしながらの余裕の会話である。
エアガンの活躍も忘れてはいない。
三日月型のキットを繰り出して、敵の顎を続け様に砕いて行く。
敵兵は悲鳴を上げる事すら出来なかった。
「健、これから敵が増えやがるぜ」
「ああ、油断をするなよ」
「言われなくても解っとるわい」
ジョーには竜の口真似をする余裕があった。
彼の長い脚から繰り出されるキックは重く、強い衝撃を敵に与えた。
着地をする前に羽根手裏剣を放っている。
相変わらず次の敵を見切るのが早いな、と健は感心した。
「よし、ジョー、少し急ごうぜ」
「ああ」
2人の動きは急に加速した。
全く風のようだ。
息はぴったり合っている。
まだ全力を出してはいなかったのだ。
「こんな処で遊んでいる暇はねぇんだ。悪りぃな」
ジョーはそう言うと、敵兵の首筋に手刀を打ち込んだ。




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