『異種混合メカ(3)』

「健、おめぇは先に行け。此処は俺に任せろ!
 おめぇはリーダーだ。
 最前線に逸早く到達してくれ。
 俺もすぐに追いついて、電磁波の発射装置は俺が何とかする。
 おめぇはカッツェを頼むぜ」
ジョーはニヤリと笑って、その場で跳躍した。
敵兵を一掃する為だ。
此処で時間を喰っているより、健を先に行かせる方が得策だと考えた。
「……頼むぜ、ジョー。やられるなよ」
「おめぇもな」
ジョーがニヤリと笑った。
此処で2人は別れた。
健が翻す白いマントを見ながら、ジョーは
「てめぇらの相手はこの俺だ。
 さっさと片付けてやる!」
と敵兵の群れに向かって叫んだ。
そのままその中に走り込む。
その間にも健はズンズン先へ進んでいるだろう。
リーダーを先に行かせるのは自分の役目だが、彼を助ける為にも出来るだけ早く此処を片付けたい。
ジョーにはサブリーダーとしての自覚が芽生えていた。
自分勝手に行動する以前の彼ではない。
健のサブに回る事で科学忍者隊が円滑に回る事をより深く理解したと言えよう。
健を立てて、必要な処は自分が出る。
そのバランスの掴み方が絶妙になって来たようだ。
健を先に行かせて、自分が雑魚を引き受けるのもそう言った気持ちから来ていた。
本当は自分がいの一番に駆け付けたい。
彼はそれを抑える事を知った。
回し蹴りを繰り返しながら、周囲の敵を蹴散らすと、ジョーはエアガンを取り出して、三日月型のキットで連続して打撃を与えた。
次の瞬間にはいつものように羽根手裏剣がピシュッと音を立てて、彼の耳元を過ぎて行く。
絶妙な闘い振りは今日も健在だ。
羽根手裏剣が思い通りの弧を描き、敵兵の戦力を削いで行く。
羽根手裏剣が手の甲に刺さっただけで、敵兵はその痛みに気力を失うものだ。
それだけで充分だった。
殺す必要はない。
戦力を削いでしまえば充分だった。
ジョーは敵兵を薙ぎ倒しながら、健を追って行く。
凄まじい戦闘能力で、自分の行く先の道を切り拓いて行くのだ。
それが科学忍者隊であり、コンドルのジョーだった。
長い脚で膝蹴りが繰り出された。
これを受けた者は暫く気を失い、また、痛みで動く事が出来ない。
身体が海老のように丸まってしまう。
それ程に強烈だった。
仲間達がその男を引き摺って退却して行った。
「すまねぇな。遊んでいる暇はねぇんで、手加減している余裕がねぇのさ」
ジョーは渋く語ると、また羽根手裏剣を3本同時に飛ばして、敵を一蹴した。
更に進んで行く。
カマキリとイカが合体したようなメカの司令室には階段を上がって行くしかない。
本当はエレベーターがあるのかもしれないが、それを探すよりは、階段を駆け上がる方が結局は効率的なのだ。
上から下から攻撃して来るが、ジョーにとっては敵ではなかった。
ジョーが後方の敵を片付けてやった事で、健は少しでも早く司令室に到達出来るに違いない。
もしかしたらもう着いているかもしれねぇ、とジョーは思った。
健の力は侮れない。
ジョーはリーダーを信頼していた。
だからこそ、1人で行かせた。
しかし、急がねば、と思った。
1人より2人がいい。
その為に2人で侵入して来たのだから。

ジョーが司令室に飛び込んだのは、それから3分後の事だった。
健がベルク・カッツェと対峙していた。
「ジョー、ご苦労だったな。
 まずは任務を頼むぜ」
「おう。健、カッツェを逃がすなよ」
ジョーはニヤリと笑って、付近を俯瞰した。
電磁波の発射装置はカマキリの眼の部分、窓のようになっている部分の下に2箇所あった。
砲台のような物があり、敵兵が1人ずつ付いていた。
ジョーはその2人に同時に羽根手裏剣を放った。
結構2人の距離はあったのだが、上手い事右手の指1つでコントロールするのだ。
砲台の2人が崩れ落ちた瞬間に、ジョーは身を沈めた。
そして腰のエアガンから2発ワイヤー付きの銛を発射した。
1基を破壊し、一旦手元に戻ったワイヤーをもう1度撃ったのだ。
「竜、もう電磁波の心配はねぇぜ」
ジョーはブレスレットに向かって叫んだ。
『ラジャー!助かった…』
必死に電磁波を避けていたらしい竜のホッとした声が聴こえた。
健とジョーが侵入している間に、敵のメカ鉄獣は空へと出ていたのだ。
海の中では電磁波が弱ると言う判断だったのだろう。
ゴッドフェニックスはそれに翻弄されていたようだ。
「くそぅ。科学忍者隊め!」
健と対峙していたカッツェが呻いた。
何時の間にか、健はカッツェの喉笛に、背後から羽交い絞めする形でブーメランの刃を押し付けていた。
ジョーはカッツェの前に躍り出た。
羽根手裏剣を静かに唇に咥える。
この時、カッツェはこれまでにない恐怖感に襲われたに違いない。
科学忍者隊のリーダーとサブリーダーに前後を抑えられている。
これは完全な危機的状況だった。
部下に『何とかしろ』と目線を送っているが、隊員達もどう動いたら良いのか、解らずに戸惑っている。
下手に動けばカッツェの生命はないだろう。
「この役立たずめっ!」
カッツェはごちたが、ジョーは、
「それはおめぇの事だろう。
 簡単にガッチャマンに掴まって部下達を困らせてるじゃねぇか」
と揶揄した。
「いつもおめぇに見捨てられてばかりの気の毒な隊員達だ。
 此処で逆におめぇが見捨てられても文句は言えねぇな」
「か…カッツェ様に何て事をっ!」
敵兵の隊長が叫んだが、健がそれをキッとした眼で射た。
「こんな奴に守る価値があるのか?
 お前達はいざとなったら使い捨てられる運命にある事を知らないようだな」
健は相変わらずカッツェの首からブーメランを外さない。
ジョーの羽根手裏剣はいつでも放てるように準備されている。
万事休す、と言っていい。
その時、敵の隊長が動いたのを、健もジョーも見逃さなかった。
ジョーは一瞬で健に『任せておけ』と以心伝心で伝えた。
持ち出したマシンガンが咆哮する前に、隊長の額に羽根手裏剣が刺さっていた。
「悪りぃな。手加減する暇が無かった……」
ジョーの言葉が終わると共に、隊長はドサリと音を立てて倒れた。
雑魚兵が一瞬にして引いた。
「さて、カッツェ。俺達の捕虜になって貰おうか?
 俺もこの男もお前に訊きたい事が沢山あるんだ」
健はカッツェの首を更に絞めた。
「健、殺すなよ。俺もこいつを殺してぇ気持ちは同じだがよ」
「ああ、解っている。ギャラクターの本部を吐いて貰わなきゃならないからな」
「その他にも同時進行で多くの悪事を働いている筈だぜ」
ジョーはエアガンのワイヤーを使って、カッツェをぐるぐる巻きにする事にした。
「健、ちょっとだけ脇にずれてくれ」
ジョーの意図を察した健は、自分まで巻き込まれないように、上手く避けた。
後はジョーの腕ひとつだ。
勿論、ジョーの事は信頼していた。
ジョーはカッツェの身体だけを上手くワイヤーで絡め取った。
魔法のように、ワイヤーがカッツェの身体の回りを勢い良く何周もしたのだ。
健はそれでもブーメランをカッツェの喉元から離さなかった。
そのままカッツェを引き摺るように後ずさりを始めた健を見て、ジョーはまた援護へと回った。
敵兵の攻撃を避ける為だ。
彼の方から攻撃を仕掛け、健の退路を作った。
司令室を出ると、ジョーは最後にお土産として踵から爆弾を取り出して放り込んだ。
大規模な爆発が起こった。
カッツェを含めた3人は床に伏せて、身を守った。




inserted by FC2 system