『異種混合メカ(4)/終章』

爆風を避けて起き上がった時、健は違和感を感じた。
カッツェの身体が先程までの男らしい身体付きでは無くなっている。
(まさか、入れ替わったのか?)
健は咄嗟にカッツェのマスクを剥ぎ取った。
『カッツェ』は抵抗をしなかった。
それを見たジョーも不審に思った。
姿を現わしたのは、短髪の髪を金色に輝かせた女だった。
顔に仮面を被っていた。
「貴様、何時の間にカッツェと入れ替わった!?」
「ふふふ。さあ、私も気が付かなかったわね」
低い声で答えたのはデブルスターだった。
これがカッツェの変装だとはさすがの2人も見抜けなかった。
ただ、逆上した。
「健!やられたな。この女はどうする?」
「置いて行け。このメカと心中すればいい」
ジョーは溜息をついて、ワイヤーを外した。
健はそのままジョーを促し、走り始めた。
ブレスレットに話し掛ける。
「竜、何か飛行物体がこのメカ鉄獣から出なかったか?」
『いんや、3人で見とるがまだ何も出とらんわい』
『レーダーにも反応は無くってよ』
竜とジュンの答えが返って来た。
「よーく見ておいてくれ。カッツェがデブルスターと入れ替わった。
 俺達はこれから脱出する!」
『ラジャー』
「くそう、何時の間に入れ替わりやがった!?」
ジョーが悔しげに唇を噛んだ。
「とにかく脱出装置がどこかにある筈だ。
 ゴッドフェニックスから見張っておき、それを追跡しよう」
「おう、そうするしかねぇようだな」
2人は歩度を早め、全速力で走った。
解っている事だが、その走る速さ、飛翔能力には素晴らしいものがある。
あっと言う間にイカ墨の吐き出し口となっていた部分まで戻った。
既に爆弾は誘爆を繰り返している。
ゴッドフェニックスのトップドームに戻った2人は、すぐさまコックピットへと降りた。
疲れも見せない2人はメインスクリーンの前へと走り寄る。
「もう爆発するぞい。
 出るとしたら、もうイカのような下半身しかねぇわ。
 カッツェはまだ出ないのう」
「おかしいな。いつもならもうとっくに脱出してるぜ。
 俺達が網を張っている事に気付いているのか?」
ジョーが組んだ腕の上で、指をとんとんと動かした。
苛立っているのだ。
先程まで眼の前にいたのは、確かにカッツェそのものだった筈だ。
それがあのメカ鉄獣と心中するとは絶対に思えない。
どこからか出る筈だ。
メカ鉄獣は明らかに操縦されているかのように海へと落下を始めた。
「竜、潜行しろっ。海の中に逃げるかもしれん」
健がすかさず指示を出した。
「ラジャー」
竜は操縦桿を引いて、排気口も閉じた。
潜行の準備に取り掛かり、ゴッドフェニックスはすぐさま海中へと飛び込んだ。
敵のメカ鉄獣が落ちて来るのが見えた。
「ジュン、レーダーをしっかり見ていろよ」
「ラジャー」
まさかその時、カッツェが脱出用パラシュートで海面に着いているとは知らない科学忍者隊であった。
海面には何時の間にやら一台の手漕ぎボートがあった。
これではレーダーには引っ掛からない。
ゴッドフェニックスが海中に飛び込んだ時に煽られて浸水していたが、何とか海水を掻き出して、カッツェを引き上げて逃走した。
そんな事を知らずに海底で待機していた科学忍者隊は何とも哀れなものであったが、カッツェはいつも彼らの裏を掻く。
一隻の小さな船に気付かなかった彼らの失態であったが、止むを得ないだろう。
こうしてカッツェはまたしても逃げ果せた。
爆発した異種混合メカをいくら凝視し、レーダーでもカッツェの逃走を捉えられなかった彼らは、南部にその事を報告し、引き上げる事になった。
カッツェがメカ鉄獣と運命を共にするとは到底思えない。
もっと早い時点で脱出していたのか、とゴッドフェニックスに残っていた3人も、メカ鉄獣に乗り込んでいた2人も悔しい思いを噛み締めていた。
「何とも拍子抜けな終わり方じゃねぇか」
ジョーが述懐したのも仕方の無い事だった。
メカ鉄獣を倒した喜びよりも、カッツェを逃がした事の悔しさの方が何倍も悔しい。
「おらが見逃したんかいのう…」
竜がしょげると、
「そんな事ないわ。私も甚平もレーダーをずっと見ていたのよ」
「だが、おらは鉄獣の攻撃を避けるのに必死だったから気がつかんかったのかもしれねぇわ」
「俺がカッツェを捕らえていた時は確かにカッツェは男の身体だった…」
健が腕を組んだ。
「だが、その時点で別人だった可能性もあるぜ」
ジョーが言った。
「最初からカッツェはいなかった、と言うのか?」
健が燃え盛る瞳でジョーを射た。
「その可能性もある、って言ったのさ」
健は腕を組んで、下を向いた。
「確かにそうかもしれない。
 だが、俺はジョーよりも前からカッツェと対峙していた。
 あれが別人だったとは到底思えない。
 だとすれば、俺達がどこかで奴を見逃した事になる。
 俺の戦略ミスだ……」
「健……」
ジョーは健の肩に手を置いた。
「先の事を考えようぜ。次の闘いでは絶対に見逃さねぇ。
 反省は必要だが、時間は戻せねぇんだぜ」
「そうだな。俺はちょっとトップドームへ出て風に当たって来る」
「健…」
ジュンが席から立ち上がったが、ジョーが目顔で止めた。
健がトップドームへ出て行くと、ジョーが呟いた。
「あれが別人だったかもしれねぇ、と言ったのは嘘さ。
 あれは間違いなくカッツェだった。
 健の気持ちは良く解るぜ。
 親父さんを亡くしてからまだそれ程経っちゃいねぇんだからな。
 そっとしておいてやれよ」
ジュンはその言葉に黙って頷いた。
健の気持ちを今一番正確に理解しているのはジョーなのだと、彼女はそう思った。
ジョーの過去は詳しくは知らないが、自分の両親はギャラクターに殺されたと言っていたのを知っている。
「悔しいのはおいら達だって同じだよ。
 レーダーで捉えられなかったって事は、何かがある筈だよ、ジョーの兄貴」
「そうだ!機械物でなければ捕捉出来ねぇ筈だ。
 甚平の言う通りだぜ」
ジョーは甚平の頭を撫でた。
「竜、メインスクリーンの画面を早送りで再生してみな。
 俺達が侵入した後から全部だ」
「解った」
操縦している竜を除く3人が、サイドスクリーンに映った映像を眼を皿のようにして観た。
「これだっ!竜、少し巻き戻せ。ああ、そこでいい」
竜はジョーの言葉を聴いて、メインスクリーンにそれを映し出した。
有視界飛行から計器飛行に切り替えている。
「見ろ。ゴッドフェニックスが海中に飛び込む寸前、右下に手漕ぎボートが映っている。
 竜、拡大してくれ」
竜がジョーの指示でボタン操作をした。
ボートが大写しになると、手漕ぎボートにはギャラクターの隊員服を着た男が2人乗っていた。
「くそぅ。カッツェの野郎も考えやがったな」
ジョーがチッと舌打ちをした。
「これじゃあ、レーダーに引っ掛かりっこねぇ」
右手で左の掌を打ちながら、呟いた。
「健が戻って来たら全速力で帰還しようぜ。
 ジュン、これじゃあ、誰も気付きようがなかった、と後で健に言ってやれ」
ジョーはそう言って、自席に着き、腕を組んでそれっきり考え込んでしまった。
イライラしている表情だった。
(今度こそこっちが奴の裏を掻いてやらなければならねぇ。
 健の気持ちは良く解るが、いつまでも悔しがっているより、次を考えるしかあるめぇよ)
そう決意を新たにした時、凜とした健がコックピットに下りて来た。




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