『ダイエットの勧め・3』

「健、竜が電気ショックでやられた!
 運ぶのを手伝ってくれ!」
ジョーがブレスレットで健を呼び出したのは、敵基地に潜入していた時の事だった。
既にそれぞれに爆弾を仕掛け、脱出するだけになっていたのだが、竜が罠に掛かってしまった。
鋭い電気ショック攻撃が来たが、ジョーは辛くもジャンプして避ける事が出来た。
「竜が重たくて持ち上がらねぇんだ」
『脚だけで竜をキャッチしたお前がか?』
健は『イブクロン』戦の時の事を言っている。
そう言いながらも敵を掻き分けて駆けつけてくれている様子が窺えた。
『ジュン、甚平!
 事情は聴いていただろう?
 俺とジョーの援護を頼む!』
『ラジャー!』
健の命令に答える2人の声もブレスレットから聴こえて来た。
頼もしい仲間だ。
ジョーはニヤリと笑った。
竜を運ぶのに適任なのはどう考えてもリーダーとサブリーダーしか居ない。
そうなれば、ジュンと甚平に援護を頼むしかなかった。
竜を運ぶ事になれば、防衛が疎かになってしまう事は確実だった。
健の指示は的確だ、とジョーは思った。
健が来るまで、ジョーは羽根手裏剣を放ちながら、竜を守った。
マシンガンを咆哮させようとしている敵には、容赦なくエアガンで撃ち倒した。
「ジョー!大丈夫か?」
やがて健が到着した。
ジュン達もすぐに応援に現われた。
「健、俺が何とか上半身を持つから、脚を頼むぜ。
 どんなに揺すっても目覚めねぇんだ」
「全く竜ったら仕方がないわねぇ…」
ジュンが眉を顰めた。
「電気ショックから醒めるにはまだ時間が掛かるだろうぜ。
 とにかく運び出さねぇ事には、全員お陀仏だ」
「よし、ジョー、運ぶぞ」
「おう」
全身が弛緩した人間は特に重い。
2人は顔を顰(しか)めて気合を掛けながら竜を持ち上げた。
「兄貴、ジョー、周りの警護はおいら達に任せておきな!」
甚平が威勢良く言って、早速アメリカンクラッカーを投げて敵兵を倒した。
甚平が前を、ジュンが後方を守りながら、竜を運び出した。
ゴッドフェニックスのトップドームに戻った頃には、さすがの健とジョーも肩でぜぇぜぇと息をしていた。
ジュンが「お疲れ様」と軽く2人の肩を叩いた。

帰りのゴッドフェニックスは竜が床に投げ出された状態だったので、ジョーが操縦した。
何時の間にか随分と上手くなっている。
以前甚平に酷い操縦で生きた心地がしなかった、と言われたのを根に持ったのか、竜の操縦を眼で盗んでいたのだ。
元々マシン系には強い。
慣れてはいないが、何とか操縦をこなす事は出来た。
戦闘時ではないのが幸いだ。
基地へ帰還するだけなら問題はない。
「ジョーの兄貴も随分ゴッドフェニックスの操縦が上手くなったね。
 陸が専門なのにさ」
甚平が感心した。
「俺は負けず嫌ぇでな」
ジョーが減らず口を叩き、一同は笑った。
竜が懇々と眠っているのが気になっていたのは、その時点ではジョーだけだった。
ゴッドフェニックスが基地に無事に戻っても、竜はまだ眠っていた。
これはおかしい…。
ジョーは健に目配せをした。
健も頷いた。
「ちょっと喝を入れてみるか」
ジョーは健の協力を得て、竜の上半身を起こした。
背中に喝を入れる。
「……駄目だな」
「ジョー、早く運び出して竜を博士に診て貰おう」
「ああ、それがいい。
 ジュン、甚平、担架を頼む」
すぐに担架が用意された。
4人でそれに竜を乗せる。
健とジョーとで担架を水平に持ち上げた。
身体を持つよりは楽だった。

処置室から南部博士が出て来た。
「電気ショックだけではなく、脳波をコントロールされて動けなくなっているようだ。
 だが、心配は要らん。
 今、点滴をしているから終わる頃には意識も戻るだろう」
「博士、有難うございます!」
全員がホッと胸をひと撫でした。
だが、そうなると収まらないのがジョーだ。
「健。あいつ、また太ったんじゃねぇのか?」
「そうだな……」
健が同調した。
2人とも、彼の重さには相当辟易したらしい。
「健、明日から竜にダイエットさせようぜ」
「ああ、そうしよう」
健が全く否定をしなかったので、ジュンと甚平は本当に重かったんだな、と深く実感した。
「ダイエットは食事療法に運動療法。
 竜の場合は生活習慣を変えさせなければならないな」
健が腕を組んだ。
「あら、今回の健はジョー以上に熱心ね」
「実際、ジョーは同じ攻撃を避けている。
 竜は反射神経を鍛える必要があるし、身体も軽くせねばなるまい」
健は科学忍者隊のリーダーとして、忍者隊全体の事を考えていたのだ。
ジョーのように、ただ竜が重かったから、と怒っている訳ではない。
ジュンと甚平は思わず頷いてしまった。
なる程、さすがはリーダーだ。
個人的感情ではなく、忍者隊を纏める立場から考えている。
「ようし、健。今夜は『スナック・ジュン』で訓練メニューの打ち合わせだ。
 今日はこのまま寝かせておこうぜ。
 明日から地獄の特訓が始まるとも知らねぇで、今日はのんびり過ごしやがれ!」
ジョーの捨て台詞がおかしくて、他のメンバーは失笑してしまった。

翌日から訓練室で、健とジョーから攻撃を受ける羽目になった竜はヒイヒイと言って逃げ回っていた。
「これはいい訓練になるな」
健がニヤリとジョーに笑って見せた。
ジョーも同様にニヤっと笑って、「とうっ!」と竜に攻撃を仕掛けるのであった。




inserted by FC2 system