『隠密行動(1)』

何故だろう?
その日の夜は寝付けずにベッドのサイドランプを点けたまま、Tシャツにジーンズ姿でジョーはベッドに寝転んでいた。
嫌な予感があった。
今夜は出動があるような気がする。
地球は広い。
今此処が夜中だろうが、ギャラクターは全世界で悪事を働くので、時間など関係なかった。
いつ出動命令が来てもおかしくはなかった。
ジョーは起き上がり膝を抱え込んだ。
こんな夜は何かが起こりそうな気がする……。
案の定、ブレスレットが鳴った。
「こちらG−2号」
『起きていたのか?反応が早いな』
南部の声だった。
「嫌な予感がしてまして……。
 で、博士、何か?」
『実は明日のテストパイロットの仕事の為に、健にISOに泊まり込んでいて貰ったのだが、彼が行方不明になった』
「何ですって!?」
『誰かを尾行していたらしいと言う目撃情報もある。
 だが、何も連絡がないと言うのがおかしい』
「解りました。すぐに行きます」
『頼んだぞ。まだ君にしか連絡をしていない。
 健が行方不明となっては他の諸君は動揺するだろうからな』
「解りました。
 隠密に行動します」
『待っている』
ジョーはすぐにISOの南部博士の処へと向かった。
各所に備え付けられている赤外線防犯カメラの画像を2人で見せて貰った。
ジョーは暗い映像の中でも、敵の動きを見逃さなかった。
「博士、あれは…ブラックバード隊ですね」
その後ろをそっと追って行く健の姿も微かに映っていた。
「何か機密事項を盗み出しに来たのでしょう。
 それに気づいた健が追って行った……。
 しかし、ブラックバードが1人だったとは限りません。
 他のカメラの映像も見せて下さい」
それから2人は眼を皿のようにして、各映像を解析した。
「停めて下さい!少し巻き戻してスローで再生して下さい」
ジョーの指示にエンジニアがその通りに作業した。
「博士。あれです。天井から飛び降りて来た影が健の後ろに降り立っています。
 何か銃器のような物を背中に押し付けているようにも見えます」
「では、健は敢えて敵の懐に飛び込んだと言う事か?」
「恐らくは…。健はそんなに簡単に捕まるような奴じゃありませんよ」
「それもそうだな」
博士は顎に手を当てた。
「とにかくブラックバードの潜入を許すとは、なかなかのザル警備ですね。
 どこから逃亡を図ったのか、他の映像も……」
ジョーが呟いた時、バードスクランブルが光った。
健だ!
「博士、健が呼んでいます。
 俺はすぐに向かいます」
「ジュン達もすぐに応援にやろう」
「いえ、俺1人の方が好都合です。
 健も恐らくは俺にだけバードスクランブルを送ったのではないでしょうか?」
確かに他のメンバーからジョーや博士に何やらの通信は入って来ない。
「健にも何かの考えがあると言う事だな」
博士は顎から手を離した。
「ジョー、危険かもしれないが、やってくれるか?」
「勿論です。では!」
ジョーは眼にも見えない速さで部屋から消えたので、エンジニアが唖然としていた。
「頼むぞ……」
博士が祈るように眼を閉じた。

ジョーは健の電波を辿って、バードスタイルになってG−2号機を飛ばした。
深夜の事だ。
走っている車は少なかったし、すぐに山道へと入ったので、最高時速も出す事が出来た。
発信地点の500m手前で、ジョーはG−2号機から降りた。
眼の前に見えるのは、山中にある巨大な電波塔だった。
「敵はブラックバード隊だ。
 なかなか手強いぜ……」
ジョーはそう呟いて、自分の心を強く戒めた。
油断は絶対に禁物だ。
「健が追って行った処を見ると、盗まれたのは明日のテスト飛行に使う飛行機のデータか…?」
ジョーはひとりごちながら、ヒラリヒラリと前へと進んで行った。
電波塔全体が基地になっているのか、それともその地下に基地が造られているのか、全く解らなかった。
慎重にならざるを得ない。
ジョーは出入口となっている金網から慎重に中を覗いた。
内側に警備員が倒れていた。
殺されている。
ジョーは此処全体がギャラクターの管理下にあると言う事を実感した。
博士に報告を入れる。
『ジョー、1人で大丈夫かね?
 健からは案の定、他のメンバーへの連絡は入っていない模様だ』
「応援が必要なようならすぐに連絡します」
『必ず連絡するんだぞ。
 連絡が取れない状態でも何としてもバードスクランブルを発信したまえ』
「ラジャー」
ジョーは金網を軽々と乗り越えた。
金網に触れると電気が流れる仕組みになっている事は看破していた。
マントが触れないように充分に高度を取って飛び越えていた。
中はシーンとしている。
だが、どこからブラックバードが襲って来るかは解らない。
健からのバードスクランブルはまだ続いている。
彼の無事を証明すると共に、この近くに健がいる事を示唆している。
健がまだ生かされて捕らえられているとすれば、ブラックバードからデータを取り返し、健がどこかに隠していると言った可能性もある。
だとすれば、激しく痛めつけられているかもしれない。
そんな姿は誰にも見せたくないだろう。
健が自分だけを呼んだのはそう言った理由からなのだろう、とジョーは思った。
ブラックバード隊はギャラクターの精鋭部隊だ。
健が取り返しの付かない状況に陥っていないか、とジョーはふと心配になった。
何しろ健はバードスタイルではない筈だ。
生身で痛めつけられているのでは、どこまで耐えられるのか気に掛かって仕方がなかった。
(俺の嫌な予感がまた当たったな……)
たまには外れてくれればいいのに、と唇を噛みながら、ジョーは建物内へと侵入した。
ブラックバード隊がすぐに出て来る事はなかったが、中は完全にギャラクターに占拠されていた。
早速敵兵のお出ましだ。
ジョーはすかさず戦闘体勢に入った。
羽根手裏剣はもう唇にある。
勿論エアガンは既に抜いている。
左肩から敵兵に体当たりをして態勢を崩させておきながら、ジョーはエアガンの三日月型のキットを放った。
タタタタタタタっといつものように小気味良い連続音が響いて、敵兵が倒れて行った。
次の瞬間には羽根手裏剣がピシュっと音を立てている。
羽根手裏剣に敵が呻いている間には、ジョーは敵の腹に膝蹴りを喰らわせていた。
その辺りの動きはいつもの通りで、相変わらずキレがいい。
彼の動きが素早過ぎて、敵兵がジョーの動きを見切れないのだ。
気がついたら眼の前にいるジョーにやられている。
ギャラクターの雑魚兵達は恐れをなして、及び腰になっている。
ジョー1人にこのやられっぷりだ。
身を低くして、敵兵に足払いを喰らわせ、ジョーはそのまま更に前に進もうとしていた。
その時、ジョーはハッとして一瞬足を停めた。
天井から降って来る者がいたのだ。
健のあの映像と同じだ。
ジョーはそれに逸早く気付いて、後方に飛び退った。
そう、ブラックバード隊の1人が眼の前に現われたのだ。
ジョーには遺恨があるだろう。
以前『チーム護衛』の事件の時にジョーに完膚なきまでにやられているからだ。
ジョーが眼を潰した敵ではなかったが、憎しみのオーラを隠さずにメラメラと燃やしていた。
ジョーもそれに負けずに睨みつけて、2人は緊張感溢れる中対峙した。
彼の後方にはギャラクターの雑魚兵もいる。
不利な状況である事は間違いなかった。
ジョーは却って闘志を燃やすのだった。




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