『隠密行動(2)』

ジョーはまず自分に襲い掛かるピンチを切り抜けなければならなかった。
もう健が監禁されていると見られる場所のすぐ近くまで来ているのだ。
どのような状況かは解らないが、早く救出しなければならない。
健は素顔なのだ。
恐らくは仲間達にも見られたくない程、痛め付けられているに違いない。
ジョーはそう思った。
まずは眼の前に現われたブラックバードを何とかする事だ。
後方にいる雑魚兵などはどうでも良かった。
今はとにかく一点に、眼の前のブラックバードだけに集中した。
ブラックバードは油断がならない。
どこからどう攻撃して来るのか、さすがのジョーでも読みにくい。
ギャラクターの雑魚兵の相手をしているのとは違って来る。
しかし、身体能力では勝っている筈だ。
先方が余程の訓練を積んでいない限りは……。
健はブラックバードが強敵である事を考えて、敢えてジョーしか呼ばなかったのかもしれない。
サブリーダーとしてそこまで信頼してくれているのなら、それに応えなくちゃな、とジョーは内心で呟いた。
ブラックバードに負けない敵愾心がジョーにもある。
両親を眼の前で殺された恨みは今も褪せる事は決してない。
敵愾心と敵愾心が激しくぶつかった。
雑魚兵達には火花が散ったように見え、何が起こったのか解らなかった程だった。
2人がぶつかった瞬間に、ジョーはブラックバードの面に羽根手裏剣の切先で傷を付け、それを割っていた。
少し時間を置いて、カランと音を立てて、面が2つに避けて落ちた。
ブラックバードは素顔を見せたその時点で負けを認めるべきだった。
30代ぐらいの男だった。
だが彼は、手甲と膝から鋭く回転する刃を出して、ジョーに迫って来た。
ジョーは素早くバック転をしながら辛うじてそれを避ける事が出来た。
彼の日頃の鍛錬と見切りの能力の高さ、そして類稀なる運動神経の賜物だった。
ジョーは床に手を着いた瞬間に右手をそこから離し、素早く唇に咥えていた羽根手裏剣を2本、的確に放った。
それは突進して来るブラックバードの両足の甲を確実に貫き、まずはブラックバードの動きを封じ込めた。
ジョーはその間に体勢を立て直し、ジャンプしてエアガンの銃把でブラックバードの首筋を打った。
これで気絶しない者はいない。
いるとすればロボットかサイボーグだ。
ブラックバードは敢え無く床へと崩れ落ちた。
ギャラクターの兵士達はジョーの圧倒的な強さにたじろいだ。
だが、ジョーに対して攻撃を始めざるを得なかった。
此処で侵入を許せば、『カッツェ様』にどんな罰を受けるか解らない。
マシンガンが容赦なく咆哮した。
滅茶苦茶な向きから撃って来るので、中には同士討ちもあった。
ジョーはそれを鼻で笑いながら、素早い動きでそれを避けて、気がつけば敵の懐に入っている、と言った感じだった。
肉弾戦に持ち込む。
敵の中に入ってしまえば、マシンガンは使えない。
その事をジョーは計算に入れていた。
素晴らしい動きで、敵にダメージを与えて行く。
全身を武器にして、重いパンチやキック、時には膝蹴りを交えて、長い手足で縦横無尽に働いた。
敵兵を倒すのに、方法など選んでいる場合はない。
自分の持てる力を全て発揮する。
ジョーは無駄のない動きで、敵を足払いし、羽根手裏剣を舞わせ、エアガンで倒すと言うその作業を1人でやってのけた。
その動きたるや、まるで演舞を見ているかのようで、綺麗に華麗に技が決まって行く。
ジョーの長い手足は伸び伸びと活躍していた。
ビュンと音を立てて、姿を消したかと思ったら、もう遥か離れた先の地点で別の隊員と遣り合っていた。
少しでも早く、健の居場所に辿り着きたい。
ジョーの気持ちはそれだけだった。
だが、決して油断はしない。
逸る気持ちを必死に抑えた。
早く行きたい気持ちはあったが、その為に油断が生じるような事になってはならない。
それはジョーが科学忍者隊での任務の中で、一番身に沁みて良く知っている事だ。
ジョーだけではなく、他のメンバーも心している事に違いない。
(健っ!無事でいてくれよ!)
健の無事を示す唯一のバードスクランブルはまだ点灯していて、ジョーを安心させてくれている。
健も恐らくはジョーの潜入に気付いている事だろう。
彼の周りも騒ぎになっているに違いない。
ジョーは一旦身を低くして、バネを使って跳躍した。
敵兵の頭の上を走るような形で通り抜ける。
ジョーの脚を掴もうとする奴には、羽根手裏剣を容赦なく浴びせた。
敵陣はあっと言う間に崩れ去った。
しかし、まだジョーの行く手は阻まれた。
健の発信地点と見られる部屋の前にはブラックバードが2人待ち構えていたのだ。
これは先程の者よりも強敵かもしれなかった。
ジョーは1人ずつ倒すしかないだろうと考えた。
だが、攻撃は2人同時にやって来る。
交わしながら、どちらかに隙が出来るのを待ち構えるしか手はなかった。
ジョーは敵の隙を見逃す筈もなく、慎重に辺りを俯瞰した。
まずはこの2人以外に隠れている敵はいないかと探ったのだ。
隠れている者はいない様子だった。
さすがにブラックバード隊はギャラクターの精鋭部隊だ。
自信を持ってやって来た2人なのだろう。
ジョーは覚悟を決めた。
此処でやられては健を救い出す事は出来ないのだ。
やるしかなかった。
ジョーは跳躍して、1人の攻撃を避けた。
相変わらず手甲と膝に武器を備え付けているのは変わらなかった。
あれで斬られたらバードスーツでも一溜まりもない。
直撃を喰らえば手足を切断される位の威力はある。
ジョーは意識をそこに集中した。
だがそこに集中し過ぎても他の攻撃に遭わないとは限らない。
やはり強敵である事には間違いなかった。
ギャラクターの一般隊員は殺さない程度に痛めつければ良かったが、この場合はそうは行かなかった。
自分の生命が掛かっている。
死ぬか生きるかの境目に、まさに今、ジョーは居た。
必ず此処を切り抜ける必要がある。
ジョーは相手の出方を見た。
1人が攻撃を仕掛けて来た。
やはり武装している武器が武器だけに、2人同時の攻撃は難しいらしい。
同士討ちになる事を恐れていると見られる。
だとすれば1対1と何ら変わりはねぇ、とジョーは思った。
ただ、敵は2人。
1人の攻撃が終わった段階で次の1人が休みなく攻撃を仕掛けて来ると言う事だ。
その間に自分に隙を作ってはならない。
最初の攻撃は難なく避けた。
だが、次の男がもう眼の前に来ている。
ジョーは咄嗟に羽根手裏剣を繰り出した。
それは敵の手甲に当たって跳ね返された。
敵の膝にある回転カッターがジョーの首に迫ったが、ジョーは下に沈み込み、敵の足を払った。
敵はドウっと音を立てて、床に倒れ込んだ。
回転カッターが床を切り裂いた。
それ程の威力だと言う事が改めて知れた。
バードスーツなど一溜まりもない筈だ。
ジョーは次に襲って来たブラックバードの回転カッターを、エアガンで狙い撃ちした。
右膝のカッターを止める事に成功した。
だが、敵側にはまだ7個の回転カッターがある。
これらを全て破壊しなければならない。
ブラックバード隊は科学忍者隊に対抗するかのように良く訓練されている。
2人掛かりならジョー1人などどうと言う事はないと踏んでいるのだ。
実力的には2人掛かりで倒す事は可能、と言う計算だった。
リーダーのガッチャマンと同等の身体能力を持つ事を知っていても、だ。
部屋の中に捕らえているのがそのガッチャマンだとは知らずにいる。
今頃健はジョーの気配に気付き、脱出を試みている事だろう。
何時の間にかバードスクランブルが消えていた。
健にもしもの事があったのか、脱出をする事に専念しているのかどちらかしかない。
ジョーは後者に賭けた。
(ガッチャマンがそう易々と殺られる筈がねぇからな!)
信頼と自信がジョーを不敵にニヤリと笑わせた。
「こいつ、笑ってやがるぜ。
 頭でもおかしくなったか?」
ブラックバードの1人が呟いた。
「さあて、どうかな?
 その回転カッターを全て破壊されても同じような寝言を言っていられるかな?」
ジョーは更に不敵な表情を見せた。
バイザー越しで敵には解らないだろうが、その不敵な口元は見えている事だろう。
ジョーは「とうっ!」と気合を掛けて跳躍した。




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