『隠密行動(3)』

ジョーは不敵な笑みを唇に貼り付けたまま、ブラックバードの1人に立ち向かった。
先程右膝の回転カッターを破壊した方の相手ではない。
1人ずつ戦力を削いで行くよりも、まずはそれぞれに少しずつ回転カッターを破壊し、それから正攻法で闘う事にした。
通路は狭い為、事実上は2人同時には攻撃しづらい筈だ。
ジョーはその事を計算に入れて、同士討ちの問題がない自分の利を上手く利用した。
とにかく挟み撃ちにならないよう、気をつけなければならなかった。
自分の位置取りに気を配った。
ジョーは早速エアガンのワイヤーを伸ばして、敵の右腕を掠め取った。
その瞬間に羽根手裏剣で手甲の回転カッターを破壊した。
羽根手裏剣はなかなかの破壊力がある。
切先が鋭いから回転に上手く嵌れば、それを故障させる事など容易い事だった。
だが、この男は左利きだったらしい。
ジョーの耳元を唸りを上げて手甲が攻撃を仕掛けて来た。
辛うじて後ろに跳び退りそれを避けたジョーは、相手の腹に隙が出来たのを見逃さなかった。
そこにエアガンを向けた。
案の定、その衝撃で敵は吹っ飛び、倒れた。
これで1人は倒した。
余りにもあっさりだったので、ジョーは拍子抜けした。
彼の見立てでは此処にいるブラックバード隊は特に精鋭部隊だ。
罠かもしれねぇ、と倒れている敵にも気を払いながら、もう1人と対峙した。
念の為、腹部を踏んでみる。
全く反応はない。
どうやら1人に集中しても良さそうだ。
ジョーはその男を足蹴にして、強い脚力で後方へと押しやった。
もう1人の右膝のカッターは使用不能になっている。
倒れている仲間の武器を取り付けないようにと、ジョーは彼から遠ざけたのである。
男が意識を取り戻した場合、挟み撃ちに遭う危険が高かったが、ジョーはそれまでの時間は稼げるだろうと計算した。
その判断は正しかった。
まさに眼の前に居る敵はその事を狙っていたのだ。
「あっ」
と敵が呻いている隙に、ジョーは左膝の回転カッターをエアガンのドリルを発射して破壊した。
そのついでに敵はドリルで左足を砕かれて、倒れざるを得なかった。
何と言う事だ。
その男は突然、右の手甲についた回転カッターで自分の首を掻き切ったのだ。
戦闘を続けられないと判断したら、その場で死を選ぶ。
戦士としてしか生きられない気の毒な奴だと、ジョーは思った。
さすがのジョーも眼を逸らす事はなかったが、凄惨な場面を見続けている事はせず、健が監禁されていると見られる部屋のドアを壊しに掛かった。
体当たりで転がり込んでみると、壁に鎖でぶら下げられている健がいた。
脱出を試みていたが、なかなか上手く行かなかったようだ。
手首・足首を丸い鉄輪で固定されている。
「健っ!」
ジョーは健の四肢を固定している鎖の鉄輪をエアガンの見事な手腕で弾き飛ばした。
健の喉から思わず声が漏れた。
「すまねぇ、当てちまったか?」
「いや、拷問の時に左腕をへし折られた」
「おめぇ、その状態でバードスクランブルを発信してたのか?」
ジョーは呆れたようにリーダーを見た。
「さすがは健だぜ。
 だが、随分やられたな。
 唇も切れてるぜ」
「なぁに、外側だけだ。
 腕以外は大した事はない。
 ジョー、済まない。助かった」
健は事も無げに言って、『バード・GO!』と虹色に包まれて変身した。
「まあ、待て。腕を固定しねぇと…」
ジョーは部屋の中を見回し、高窓に縦に貼られている木の板に眼を付けた。
それを慎重に周囲に目配りしてから取り外そうとする。
「ジョー。気をつけろ。
 そこには高圧電流が流れている筈だ」
「解ってるって。
 今、解除スイッチを探しているのさ」
スイッチは部屋の入口のガス取り出し口にあり、ジョーはそれを解除してから、板をもぎ取った。
「こんなのを使うのは不快だろうが、仕方がねぇな」
ジョーは健が縛られていた鉄輪に着いていた鎖を引きちぎり、それで健の左の二の腕を添え木を当てて固定した。
「マントで上手く隠しておくんだな」
「ああ、有難う、ジョー」
「で、盗まれたデータってのはどうした?」
「掏り取って隠してある」
健はニヤリと笑った。
彼のブーメランの頭の部分の空洞にマイクロフィルムに入ったデータを隠し持っていたのだ。
「ほう〜。さすがだな。
 これなら見つかりっこねぇ」
ジョーはまた感心した。
「なぜ俺にだけバードスクランブルを送った?
 みんなに見られたく無かったのか」
「違う」
健は言下に否定した。
「相手がブラックバード隊の中でも特に精鋭部隊だからだ」
「なる程、俺の事を頼りにしてくれた訳だな」
悪い気持ちはしなかった。
「ジョー、此処の電波塔の地下に大掛りな基地があるに違いない」
「みんなを呼ぶか?」
「一旦出直そう。妙に静かだ。
 俺達に場所を知られたので惜しげもなく爆破するかもしれない」
「言えてるな。カッツェの事だ……。
 しかし、もう夜が明けるが、テスト飛行は中止だな」
「敵が出て来るとすれば、テスト飛行が行なわれる時だ。
 予定通りテスト飛行はやる」
「その腕で冗談言うなよ」
ジョーが呟いた時、 残りのブラックバード隊と雑魚兵達がわらわらと部屋に入って来た。
その足音を聞くとジョーはエアガンのワイヤーを高い天井に伸ばした。
「健、俺の足首に捕まれっ!」
健が捕まったのを確認して、ジョーは「回転するから耐えろよ」と言った。
竜巻ファイターのような効果が出た。
その衝撃はすさまじく、まさに嵐のようだった。
ブラックバード隊は跳ね返されて、床や壁に叩き付けられた。
エアガンのワイヤーが切れて、2人は床に落ちた。
「健、大丈夫か?」
「大丈夫だ。受身を取った」
「さあ、急ごうぜ」
ジョーは健を抱き起こし、脱出を始めた。




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