『微生物の侵入(前編)』

『スナック・ジュン』に現われたジョーは心なしか顔色が悪かった。
健が左腕の異常に気付き、すぐさま手に取る。
先日の任務で如意棒のような物で叩かれた場所が蒼黒く熱を持ち腫れ上がっていた。
「ジョー、どうした?痛みはあるのか?」
「いや、今朝から急に腫れ上がり始めたんだが、痛くも痒くもねぇぜ」
「あら、でも湿布はしておいた方がいいわよ」
ジュンが救急箱を用意した。
しかし、健は「いや、いい」と言った。
ジョーの肘から先は変色し、熱を持っている。
痛みはないとは言え、南部博士に診せておく必要があると言うリーダー判断だった。
「南部博士。こちらG−1号。
 今、どこにいらっしゃいますか?」
健が驚くジョー自身をよそにブレスレットで南部に連絡を取っていた。
『別荘にいるが、どうした?』
「ジョーが先日受けた傷が熱を持って青黒く腫れ上がっています。
 何事もなければいいのですが、博士に診て貰いたいんですが」
『解った、すぐに来たまえ』
健はそれを聞いて、ジョーの異常のない右腕を引っ張った。
健にはある懸念があったのだ。
「ジョー、リーダー命令だ。
 一緒に来い。
 痛みはなくても何か違和感は感じないか?」
「そう言えば、何かが蠢いているような嫌な感じはする」
健はジョーの額に掌を当てた。
「熱も出ている。
 これから何か起こるかもしれないぞ」
とにかくそのままジョーをガレージに引き摺るように連れて行き、G−2号機のナビゲートシートの方に乗せた。
「おい、俺の愛機だぜ」
「途中で意識を失う事になってもいいのか?」
「何?」
「南部博士から聞いているんだ。
 最近、お前のような症状になって、骨を全部微生物に喰われちまって死んでいる人が増えている。
 その事と関係があるかもしれない」
「もし、俺がその症例なら、その人達を救うワクチンが作れるかもしれねぇって事か」
「察しがいいな。急ぐぞ」
健が思った通り、ジョーは途中で意識を喪った。
此処に来るまでにそうなっていたら大変な惨事を起こしていた事だろう。
健の判断は正しかったのだ。 レントゲン写真を前に、南部博士は腕を組んでいた。
「ううむ。まさに例の症例に間違いないな。
 ジョーは敵の武器を左腕で受けて避ける時に、微生物の侵入を受けたのでは、と言うのが健の見方なのだな」
「はい。それ以外には考えられません」
「だとすれば、これはギャラクターの陰謀と言う事になる」
「そうでしょうね……」
「ジョーには抵抗力があるので、此処まで発症しなかったのだ。
 骨にも異常がない。
 一般人であれば、すぐに斃れてしまうだろう」
「う…」
ジョーが眼を醒ました。
「ジョー、悪いが傷口から微生物の採取をさせて貰うよ」
南部が柔らかい声を掛けた。
「構いませんよ。いっその事全部取り切る事は出来ないんですか?」
「それは無理だ。少しずつ体内に拡散しつつある。
 君は抵抗力があるからまだやられていないだけだ」
「微生物が苦手とする光線を探し出す。
 それを君の身体に照射する。
 恐らくはそれで微生物を排除出来るだろうが、ジョー、これから苦しくなるかもしれんぞ」
「仕方がありません。
 そんな物にやられる俺ではありません。
 採取をお願いします。
 麻酔など要りません」
ジョーはどこまでも気丈だった。
微生物が体内に入り込み、彼の骨を食べ尽くそうとしているが、ジョーの抵抗力が強い為に未だ威力を発揮していない。
今の内に対処しておくのがベストだろう。
南部は念の為に部分麻酔を掛けた。
いくらジョーが気丈だとは言え、どんなショックが彼を襲うか解らないからである。
ジョーの身体に異常が出たのは、麻酔を打ってすぐの事だった。
ジョーにはアレルギー体質はなかった筈だが、急激にアナフィラキシーショックを起こしたのである。
「信じられん。ジョーの身体にこんな異変が……」
南部が汗を拭った。
「有り得ない事だ。この微生物が関連しているに違いない」
微生物の採取に成功し、傷口は一旦何針か縫った。
南部は何やらアンプルを取り出し、ジョーへ点滴の準備を始めた。
スタッフを呼び、ジョーの容態の管理をさせながら、自身は早速検体の検査を始めた。
完全防備をして充分に警戒している。
顕微鏡で微細に拡大しながら核となる部分を探している。
それでもこの部屋を出ないのは、ジョーの容態を心配しているからであった。
ジョーは部分麻酔だったのにも関わらず意識を喪失し、自力呼吸も出来なくなり始めていた。
酸素マスクが取り付けられた。
「博士、自発呼吸が不能になっています。
 それから全身への発疹が見られます」
スタッフが告げた。
博士は治療の指示をしながら、検体の検査を続けた。
一刻も早くこの微生物の苦手な物質を見つけて、ジョーの身体に照射する事が、彼を救う一番の道であった。
引いてはこの被害に苦しむ人々を救う事にもなるのだ。
健は心配そうにジョーを見守っていたが、此処で彼が出来る事と言えば、手を握っていてやる事しかない。
だが、それもスタッフの邪魔になると解ると、最後にギュッとジョーの手を握って静かに退室した。
部屋の外で待つしかなかった。
外に出るとジュン、甚平、竜も居ても立ってもいられずに駆けつけていた。
健は今までの状況を説明する。
「ジョーがアナフィラキシーショックだなんて、信じられないわ」
「それがギャラクターの作戦なのだろう。
 ジョーだから此処まで持っていた。
 今、博士が懸命に微生物の弱点を探している」
「おいら達の誰がこうなってもおかしくはなかったんだね…」
甚平が心配そうに、健の後方の扉を覗き込んだ。
中の様子はバタバタしている感じが解るだけだ。
「ジョーの奴、鍛えているから大丈夫だとは思うんじゃが……」
竜も不安そうに下を向いた。
「今、俺達に出来る事は待つ事しかない。
 そして、ギャラクターが出て来たら、ジョーの分まで闘うしかない」
健が決意を込めた眼でそう言った。




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