『宇宙ミサイルの脅威(1)』

科学忍者隊の5人はいつものように『スナック・ジュン』に集まってコーヒーを楽しんでいた。
勿論、竜のようにガツガツと食べている者もいる。
それを呆れて健やジョー達が眺めている。
いつもの光景だった。
そんな空気を壊すかのように、よろよろと店に入って来た爺さんが突然血を吐いて倒れた。
ジョーはすかさず爺さんの脇に片膝を着いた。
「こいつは胃の病気だな。
 胃から吐く血はどす黒いって言うぜ」
「あんた…レーサーのジョーかい?
 南部博士にこれを…」
爺さんはマイクロフィルムをジョーに預けて意識を失った。
ジョーは他の4人と顔を見合わせた。
どう言う事情で彼にそんな物を届けに来たのかが全く解らなかった。
ジョーはマイクロフィルムを健に預け、爺さんを抱き上げてガレージへと向かった。
勿論病院へ運ぶ為である。
その間に健が博士の元にそのマイクロフィルムを届ける事になった。
爺さんは胃癌と言う診断だった。
ジョーはそうではないかと思っていた。
もう80歳を超える高齢なので、進行は遅く、長く患っていた筈だった。
本人も自分の病いを知っていた事だろう。
意識を取り戻した爺さんは、付き添っていたジョーにポツリポツリと話し始めた。
ギャラクターの科学者だったが嫌気が差して裏切ってネタを売りに来た。
南部博士が引き取ってレーサーになった若者があの店にいると知って訪ねたのだと。
「それで俺にマイクロフィルムを預けたのか?
 心配するな、あれは信頼の置ける仲間が既に南部博士に届けている。
 それにしてもギャラクターを脱け出して来るとは爺さんもやるじゃねぇか。
 下手をしたら『これ』だぜ?」
ジョーは首に平手を当てて見せた。
「解っとるわ。どうせ胃癌で死ぬんだから、そうなっても構わん。
 もうギャラクターの悪行が嫌になってな。
 もっと早くに脱け出すべきだったのさ」
「爺さん……。俺の親はそれで殺されたんだぜ」
「何?」
「ジュゼッペ浅倉とカテリーナ夫妻を知っているか?」
「おお、そう言えば面影がある。
 ジュゼッペにそっくりじゃ。
 当時8歳の子供も一緒に殺されたと聴いていたが、生きていたのかね?」
「南部博士に助けられてね」
ジョーが尚も父親の事を訊こうとした時、南部博士からの呼び出しが入った。
「南部博士が呼んでいる。
 また来るから生きてろよ、爺さん!」
ジョーはそう言って病室を出て行った。

「博士、マイクロフィルムには一体何が?
 まさか偽物って事はないですよね?」
「うむ。罠の可能性も考えながらチェックしたのだが、フィルムは本物だし、中身にも信憑性が高い。
 これを見たまえ」
ジョーだけではなく、仲間5人が呼ばれていた。
スクリーンが降りて来る。
「これは何ですか?何かのミサイルですか?」
健が訊いた。
「宇宙に……金星に向けて発射する準備をしているようだ。
 金星を消滅させて引力で地球を引き寄せようと言う作戦らしい」
「あの爺さん、ギャラクターの科学者だと言っていました。
 胃癌で死期を悟り、自分のしている事に嫌気が差したと。
 このデータを金で売るつもりだったみたいですが、金の事は一言も言いませんでした」
「恐らくはギャラクターに一矢報いる覚悟なのだな。
 高齢だと言うではないか」
「病院によると、84歳だと…」
ジョーは自分の両親の事をその爺さんが知っていた事は言わなかった。
「あの爺さん、生命を狙われるんじゃないですかね?」
ジョーがふと不安を口にした。
両親の事を知っている事で、何となく他人には思えなかった。
「情報部に護衛は依頼したが、重篤なので病室までは入れないそうだ」
「え?さっきまで俺は病室にいましたよ」
「その後、病状が悪化したそうだ」
「爺さん……」
「名前は何と言ったかな?」
「ザイナス…、ザイナスと言ってました」
「ううむ。噂は聞いた事がある。
 宇宙電子工学の有名な科学者だったらしい。
 ある日突然忽然と姿を消したと言われている」
南部が顎に手を当てた。
「じゃあ、ギャラクターに誘拐されて無理矢理?」
健が組んでいた腕を解いた。
「その可能性は充分にあるな」
南部博士は憂い顔でスクリーンを改めて見た。
「とにかく諸君にはこの計画を阻止して貰わなければならない。
 ザイナス博士の事は、私が後で様子を見に行くとしよう」
「でも、博士の身にも危険が及びます。
 行く時は俺が同行します」
ジョーが博士を止めた。
「それもそうだな。
 ザイナス博士の容態が落ち着いてからにしよう。
 さて、このミサイルの位置だが、このマイクロフィルムのデータによると、北アルプスの山岳地帯にあるようだ。
 これを見てくれたまえ」
博士は気を取り直して、作戦の指示を続けた。
「この地図によると、ミサイルはRX−353地点に設置されているらしい」
「真っ直ぐ上に向かって聳え立っているって感じですね。
 こんな大胆な事をしたら、衛星写真にも撮られてすぐにバレるでしょうに」
健が言った。
「どうやら妨害電波を出して、衛星写真には捉えられないようにしてあったようだな。
 情報部員もこのデータは得られなかったのだ。
 この大きな情報をザイナス博士が持ち出したのは、科学者としての良心がそうさせたのだろうな」
博士は瞳を閉じた。
「何とか無事に安穏な死を迎えさせてやりたいものだ」
最後の述懐は少し寂しげだった。
同じ科学者として、ザイナスの名を知っていた事もあり、身につまされる物があったのだろう。

科学忍者隊は早速RX−353地点へとゴッドフェニックスで向かった。
「どうもV2計画の事を思い出してしまって、嫌な予感がしてならないな…」
「健……」
ジョーはそっと健の肩を叩いた。
「それ以上は言うな。
 おめぇの気持ちは俺が一番良く解っている……。
 あのザイナスって爺さんは俺の両親の事を知っていたんだ。
 俺にも今、あの忌まわしい記憶が甦っている……」
「ジョー……」
「今は傷を舐め合っている時ではない。
 とにかくこの金星消滅作戦を阻止してやろうじゃないか」
「ああ!」
2人は握手を交わし、ゴッドフェニックスのスクリーンへと向き直った。
北アルプスの山岳地帯が見えて来た。
まずは全員が任務に向けて意識を強く持ち、スクリーンを睨み付けるようにして見つめた。
「情報が漏れたとギャラクターが気付いているとしたら、いつミサイルが発射されるか解らない。
 急がなければならないぞ!」
健が全員の意識を引き締めた。
「竜を残して潜入しよう」
「そうだな。生命に賭けても絶対に阻止してやるぜ!」
ジョーが言葉に力を込めた。
「竜、基地の手前1kmの地点に着陸してくれ」
「ラジャー」
竜はぼやく事をしなかった。
留守番もまた重要な任務だと言う事に彼も気付き始めていたのだ。
ゴッドフェニックスが着陸すると、竜を除いた4人がトップドームから飛び降りた。




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