『宇宙ミサイルの脅威(2)』

トップドームから着地すると、すぐに健が作戦を話し始めた。
「俺とジュン、ジョーと甚平に別れよう。
 それぞれ別の場所から潜入する」
健が今考えられる最良の策を指示として出した。
「OK!何かあったら連絡する」
ジョーも二つ返事で答えた。
「ああ、そうしてくれ。
 甚平、ジョーの足を引っ張るなよ!」
「大丈夫だよな、甚平。
 こいつは小回りが効いて機転も利く。
 お前が一番良く知っているだろう?
 心配するな、大丈夫だ」
ジョーは甚平の頭に手を置いた。
甚平はみんなのアイドルだ。
いつも皆に可愛がられている。
だが、それだけではなく、一人前の科学忍者隊として一目置かれる存在だった。
僅か11歳とは言え、その敏捷性と闘いのセンスも素晴らしい。
皆はその事を買っているのだ。
「よし、みんな、行くぞ!」
健が腕を上げて、彼らは二手に別れた。
「甚平。遠回りだが、山の反対側へ回るぜ。
 警備が厳しいだろうから、気をつけろよ」
「ラジャー」
甚平が殊勝に答えた。
ジョーのスピードにもちゃんと着いて来る。
時折敵襲を受けながらも2人は無事に山の向こう側へと着いた。
「思ったよりも、こっちは警備が手薄だな。
 ミサイルが向こう側を向いているからだな。
 だが、甚平。油断はするな。
 手薄と見せかけて、俺達を誘い込んでいるのかもしれねぇ」
「うん、解ってるよ、ジョーの兄貴」
「あの爺さんが生きている内に訊きてぇ事があるんだ。
 早くこの任務を終わらせてぇ」
「パパとママの事?」
甚平が切なそうな顔をした。
「あ、すまねぇな。悪い事を言った……。
 親父とお袋の事なんて、今話す事じゃなかった」
「ううん、いいんだよ。
 ジョーの兄貴には訊く権利があるよ。
 おいらの事なんか気にする事はないよ。
 あのお爺さんから話を訊けるように、おいらも頑張るからね」
「へへっ、ありがとよ」
ジョーはまた甚平のヘルメットを撫でた。
「行くぜ」
「ラジャー」
2人は同時に岩に穴が空いている出入口に突入した。
即座にギャラクターの隊員の「ギャー」と言う悲鳴が木霊した。
ジョーと甚平の活躍が始まった。
「ゴッドフェニックスで上から俯瞰した限りでは、こっちの方がミサイルに近い。
 ただ、健達の方が先に突入しているから、早く着くかもしれねぇな」
「おいら達も負けちゃいられねぇや!」
甚平が細い腕で力瘤を作った。
小さいのに筋肉質な身体が出来上がっている。
ジョーは羽根手裏剣を唇に咥えて、エアガンを構え、甚平はアメリカンクラッカーをぐるぐると回している。
それらの武器でどんどんと敵を凌駕して行った。
甚平は小さくてすばしこいだけに、大人の行動とは違って、彼らの意表を突くらしい。
ギャラクターの隊員達が翻弄されているのを見て、ジョーは笑った。
「甚平1人でも充分な活躍だな」
そう呟きながら、負けじと羽根手裏剣を繰り出し、敵兵に肉弾戦で迫って行くジョーであった。
「甚平、先を急ぐぞ。着いて来いよ!」
ジョーは加速度を付けて走り出し、彼が通り抜けた後には敵兵が左右に倒れて道が出来ていた。
「相変わらずすっげぇや!」
甚平は感嘆してから我に返り、急ぎ走り始めた。
 
実はこの基地には、彼らの他にもう1組侵入者がいた事を、科学忍者隊は知らない。
それは、南部博士からの要請を受けたレッドインパルスの生き残りの2人だった。
これは心強い助っ人となるだろう。
彼らにもまた健と同様に『V2計画』の事が頭にある筈だ。
必ず計画の実行を押し止めようと覚悟を決めて乗り込んでいる。
公私共に慕っていた隊長が生命を賭けて地球を救う事になったのは、ギャラクターのせいだ。
彼らの恨みもまた大きかった。
自分達の生命を散らしてでも、この任務を遣り遂げようとするその思いは、科学忍者隊と何ら代わりはなかった。
彼らは科学忍者隊より少し早くに潜入していた。
ギャラクターの隊員に変装して上手く入り込んだのだ。
彼らは既にミサイルの製造工場まで辿り着いていた。
完全に科学忍者隊の先を越していたのである。
そうとは知らず、健とジュンも、ジョーと甚平も、敵を蹴散らしながらひたすら駆け抜けていた。
レッドインパルスの2人は南部に連絡を取る余裕がなかったのだ。
横の連絡が取れていないのは止むを得なかった。
だが、彼らも科学忍者隊が此処に向かっている事は知っていた筈だ。
上手く連携出来るように様々な大人の観点から検証している事だろう。
だが、子供目線の方が思いも掛けない効果を齎す事がある事を、彼らは正確に知っていた。
だから、科学忍者隊を子供扱いにしつつも、実はそれなりに高く評価していた。
今、「科学忍者隊よ、早く来い」と願っているのは、この2人だった。
そして、遠い病床で、あのザイナス博士もそう願っているに違いなかった。

「甚平、前を見ろ。バズーカ砲のお迎えだぜ」
「ジョーの兄貴、後ろからも来たよ」
「いいか、俺が合図をしたら散れ!
 そして、バズーカ砲の射出口にそのアメリカンクラッカーを喰らわせてやれ!」
「ラジャー。でも、こっちは一門だけど、そっちは数が多いよ」
「任せておきな。流れ弾に当たらねぇように気をつけろ」
ジョーはそう言うと、「甚平っ!」と叫んだ。
2人は飛び退って離れた。
ジョーは眼の前の三門のバズーカ砲目掛けて、連続してエアガンを撃ち込んだ。
そして、それと同時に射手に向けて、羽根手裏剣を飛ばし、その喉元に喰らい付いた。
「甚平、伏せろっ!」
射手が倒れると共に、バズーカ砲は暴発し、周囲は爆発と煙に包まれた。
甚平の方も同様の効果があり、バズーカ砲は破壊し尽くした。
2人はマントで身を守り、爆発に巻き込まれずに済んだ。
「行くぜ、甚平」
「あいよ」
甚平とのコンビネーションは上手く行っていた。
自分が11歳の時に此処まで働けたか、とジョーは思う事がある。
それだけ甚平の事は買っていた。
甚平も兄貴と慕う健とジョーが同等の身体能力を持っている事を知っている。
リーダーの判断力・決断力とはまた違った行動力を持っているのも解っていた。
だから、ジョーの事も時折反発する事はあっても、慕っているのだ。
本気で健とジョーの事をかっこいいと思っていたし、2人のようになりたいと願っていた。
2人と竜と言う3人の兄貴分の良い処を取った大人になるんだ、と決意している。
ジョーの打たれ強さには、甚平も共感する処が大きかった。
(おいらも強い人間になる)
と思っていた。
2人は勢い良く、通路の先へと進んだ。
途中で通路が二手に分かれた。
ジョーは迷った。
甚平と別れるべきか、二者択一で2人で先に進むか……。
ほんの一瞬だが、ジョーは迷った。
だが、これだけの働きをする甚平だ。
彼を1人にしても大丈夫だろう。
「甚平。此処からは別れるぜ。
 気をつけて行けよ」
「おいらは大丈夫さ。
 ジョーの兄貴も気をつけな」
「こいつぅ…」
ジョーは苦笑いをしてから、「行けっ!」と命じて、自分は左手の方に走り始めた。




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