『宇宙ミサイルの脅威(3)』

甚平と別れたジョーは、念の為ブレスレットで健に状況を連絡した。
『こっちもジュンと別れた。
 中が迷路のように込み入っていて、ミサイルが設置された場所にはなかなか辿り着けないようになっている』
「やっぱりか……。
 とにかく何か見つけたら連絡する」
『頼むぜ』
「おう」
通信が切れた。
また敵兵がマシンガンを手にわらわらと現われた。
ジョーは全身を使ってのびのびと闘った。
長い腕、長い足……。
リーチが長い分、遠くまで攻撃が届く。
相手は距離を見誤って、ジョーの餌食になるらしい。
手足を繰り出す時間も早い。
コンマ数秒で相手に到達するから、相手はジョーの動きを見切る事が出来ないのだ。
唯一見切られたのは、あのブラックバード隊の精鋭部隊だった。
まるで瞬間移動のように、シュッと敵兵の前に現われるジョーに、彼らは翻弄され、そして、気が付けば倒されている、と言った感じだ。
敵に膝蹴りを入れながら、次の敵に羽根手裏剣を放っている。
こんな行動はジョーにとっては至極当たり前の出来事である。
ジョーにとって、と言うより科学忍者隊全員がそうだろう。
ただ、次の敵を既に見切っている点では、斬り込み隊長のジョーが一歩優れていると言っていい。
5人で乗り込んだ時、一番敵の密度が高い場所にジョーは行く。
健は全体を見渡せる位置へと移動する。
それが2人の役割分担になっていた。
ジョーは敵兵を蹴散らしながら、エアガンの三日月型のキットでタタタタタンッと小気味良い音を立てて、纏めて敵兵を薙ぎ倒した。
羽根手裏剣も既に繰り出されている。
ピシュッと風を切るような音がして、敵兵が何人か倒れた。
喉元に羽根手裏剣が刺さっている。
ジョーはそのまま前へと進んだ。
妙な機械音を感じたのは、その時だった。
一旦歩みを止めて、耳を澄ます。
規則的な音だった。
(もしかしたら……?)
ジョーは辺りを見回した。
大きな鉄製の扉が見えていた。
そこから飛び出して来る敵兵を見た時に此処がその場所だと確信をして、ジョーはバードスクランブルを他の3人に向かって発信した。
ジョーはバーナーをエアガンにセットして、丸く焼き切ろうとしたが、体良く敵兵が現われた。
そいつに手刀を与えておいて、するりと開いた扉から中へと潜り込んだ。
聳え立つミサイルが垂直にではなく、80度程度の角度に設置されていた。
空の空間は空いている。
ギャラクターの隊員に身を窶していたレッドインパルスが、ジョーに攻撃を仕掛ける振りをしながら、含み声で「正木と鬼石だ」と言った。
「レッドインパルス……」
ジョーは攻撃態勢を取りながら、相手と対峙する風を装いながら答えた。
「あのミサイルの発射装置はこの地下にある。
 そいつを破壊すれば、このミサイルは無用の長物だ。
 この場で爆破してしまえばいい」
正木が言った。
「なる程。仲間達が今、此処に向かっている筈だ。
 何とかしよう。
 しかし、驚いた。
 博士がレッドインパルスまで送り込んでいたとは……」
「君達より先に私達に指示が出ていたのだ。
 さあ、怪しまれる。
 私達に攻撃を仕掛けるのだ。
 我々は上手く隊員達に紛れる」
「解った……」
丁度その時、敵兵がジョーをずらりと囲んだ。
「おい、早く攻撃しろ」
と部下だと思ってレッドインパルスの2人に声を掛けた異形の男が、どうやら隊長らしい。
ミサイルに手足を付けたような奇妙な着ぐるみを着ているかのように見えたが、動きが緩慢になる事はないらしい。
レッドインパルスは攻撃を始めた敵兵に上手く紛れて、地下へと行こうと画策しているようだった。
勿論、ミサイルの発射装置を停める為だ。
ジョーは敵兵に囲まれながらも、彼らの気を引いてレッドインパルスを行かせようとした。
マシンガンをマントで避け、敵兵の中へと飛び込んで行く。
薙ぎ倒す、薙ぎ倒す、薙ぎ倒す。
彼の身体能力はどこまで鋭く鋼(はがね)のようなのかと見惚れる程の華麗な美しい動きだった。
動きに無駄がない。
まるで演舞を見ているかのようだし、香港映画の早回しのアクションを見ているかのようでもある。
SFXを使ったワイヤーアクションかと思わせる程の動きだが、全くこれを生身でやっているのだから、科学忍者隊の能力には恐れ入る。
ジョーが孤軍奮闘している時に、反対側の壁からバキバキと言う音がして、甚平が奪った蟹型戦車を使って壁を突き破り進入して来た。
「おう、甚平!」
ジョーが嬉しそうに呼び掛けた。
やはり機転が利く子供だ。
馬鹿には出来ない。
甚平は蟹型戦車で敵兵を跳ね飛ばし始めた。
これは効果的に敵兵の戦力を削いだ。
それに続き、甚平が空けた穴から、健とジュンも侵入して来て、これで役者が全部揃った。
「健、レッドインパルスの2人が来ている。
 ミサイルの発射装置を停める為に地下に侵入したようだ。
 こっちは俺達に任せて、おめぇもそっちに行ってくれ」
ジョーはブレスレットに向かって告げた。
『解った。頼んだぞ!』
健の声が少し弾んだ。
父親の部下だった男達と仕事をするのは、嬉しいのだろう。

健が地下へと潜入すると、レッドインパルスの2人は、例の赤い制服に戻っていた。
人目を引くが、何ともスタイリッシュだ。
「ガッチャマン。待っていたぞ」
鬼石はギャラクターに喉を抉られて口を聞く事が出来ない。
正木が振り返らずにそう言った。
気配で健だと察したのだろう。
先程対したジョーとは違うオーラが健からは発せられている。
正木と鬼石は、ジョーからは復讐の炎を感じ取っていた。
健からはもう復讐の2文字は消えていた。
ただ、悪は許さない、と言う境地に達していた。
自分はリーダーとして冷静にならなければ、と自分を律している様子が窺えた。
父の死を漸く乗り越えたのだと、彼らは感じていた。
健は成長したのだ。
「私達はこの発射台に爆弾を仕掛けるから、ギャラクターの攻撃を交わしていてくれ」
「解りました」
健は爆弾についてはこの2人に任せておけばいい、と思った。
走り出て来た敵兵に向かって、空手のようなポーズを取って、敵意を露わにした。
勿論不退転の決意で、絶対にこの場を守り切ってやると言う意志に満ちていた。

階上のジョー達も健に負けてはいない。
敵兵を蹴散らすのには3人いれば充分だった。
甚平は蟹型戦車で敵兵を跳ね飛ばし、面白がっている風だった。
G−4号機はそんな使い方をしない。
「甚平。面白がっている場合じゃねぇぞ」
ジョーは釘を差す事も忘れなかった。
『そうよ、甚平。適当な処で降りてらっしゃい』
ジュンも調子に乗っている甚平を窘めた。
「ジュン、地下へ流出する敵兵を出来る限り此処に押し留めるんだ。
 下は恐らく健1人で守り、レッドインパルスは爆弾の処理に専念しているだろう」
『解ったわ。レッドインパルスなら爆弾処理はプロだから、私が行かなくても大丈夫ね』
「ああ、とにかくミサイルの発射装置を破壊すれば、こいつはただの張りぼてのようなもんだ。
 しっかりやってくれ」
『ラジャー』
ジュンの頼もしい答えが返って来る。
闘いの中に於いては、彼女が女性であろうとなかろうと関係がなかった。
立派な科学忍者隊の一員として、男達と同等の働きをする。
なかなかこれで蹴り技など大したものだ、とジョーは思っていた。
頭がいいので、機転も利く。
ヨーヨーを使った攻撃も多種多彩な使い方で敵兵を凌駕する。
ジョーは今回の闘いで仲間達を改めて見直していた。
解っていたつもりだが、再認識したと言って良い。
「早い処、仕上げに掛かるとするか。
 あの爺さんに話を訊きてぇしな」
ジョーは呟いた。




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