『宇宙ミサイルの脅威(4)/終章』

「ジュン、ミサイルだけが爆発する量の火薬を仕掛ける事は可能か?」
闘いの最中(さなか)にジョーがジュンに訊いた。
「モチよ〜。私に任せといて」
「ようし、頼んだ。敵は俺と甚平に任せておけ!」
甚平はジュンに言われて、蟹型戦車から降りて来ていた。
「ラジャー」
ジョーが自分の判断で命令した事だが、ジュンもそれがいいだろうと思ったのだろう。
そのままさっと移動して作業に入った。
ジョーは甚平と背中合わせになった。
科学忍者隊一の身長差があるコンビだが、敵にとっては、甚平もジョーと同様の大きさに見えた。
それだけこのおチビさんはなかなかの強敵だと言う事が、彼らにも知れ渡っている。
「甚平。ジュンの作業を邪魔させねぇように援護してやってくれ。
 こいつらは俺が……っ」
言った瞬間にはジョーはビュンと音を立て高く跳躍していた。
長い脚で敵兵に蹴りを入れ、積極的に攻撃を仕掛ける。
敵兵はその度に次から次へと薙ぎ倒されて行く。
ジョーがシュッと姿を消したと思ったら、一瞬の内に別の場所で悲鳴が上がっている。
彼の身体能力はどこまで高められているのか?
科学忍者隊の能力は本当に侮れない。
今、敵兵達はギャラクターの隊員になった事を後悔しているかもしれない。
甚平は行動力とそのすばしこさで、ジュンを援護し、敵兵を翻弄している。
見ていて(こんなに面白い事はねぇな)とジョーは笑った。
だが、彼も眺めている訳には行かない。
油断のない派手やかな闘い振りを発揮していた。
後は健とレッドインパルス、ジュンの作業が終わるのを待って脱出するだけで良い。
今回はカッツェも出て来ないし、此処にはいなかったのか、既に逃げたのかどちらかだろう、と思った。
羽根手裏剣を華麗に飛ばし、長い脚で回転して敵を一気に薙ぎ倒し、エアガンを見事に取り扱う彼の闘い振りは今回も健在だった。
自らの身体を縦横無尽に無駄なく使いこなす。
その方法を彼は十二分に知っていた。
疲れを知らない肉体は、暴れに暴れまくってその本領を余す処なく発揮していた。

やがて、爆破の準備が完了し、科学忍者隊の4人とレッドインパルスが脱出して岩陰に隠れた時、山1つが崩れる程の爆発が起きた。
これでギャラクターの驚異的な作戦は無事に阻止出来た事になる。
何よりもザイナス博士の情報のお陰だった。
終わってみると、急に爺さん−−−ザイナス博士の容態が気になった。
健がブレスレットで南部博士に報告をしていると、博士はこう言った。
『皆、ご苦労だった。良くやってくれた。
 ジョー、君はすぐに病院に行きなさい。
 ザイナス博士が危篤状態にある。
 君に話がある、と言っているそうだ。
 私もこれから向かう』
「えっ?……解りました」
ジョーは動揺を隠せなかった。
彼はG−2号機でゴッドフェニックスから途中で分離し、変身を解いて急ぎ病院へと向かった。
病室の前で南部博士とかち合った。
かち合ったと言うよりも、博士は先に着いてジョーを待っていたらしい。
「君の口から無事に作戦を阻止したと話して上げなさい」
博士はそう言うと、病室のドアを横に開け、ジョーの背中を押した。
弱々しくチューブに繋がれ、酸素マスクを付けたザイナス博士がジョーを待っていた。
「爺さん…。約束通り生きて待っていてくれたな」
ジョーは笑って見せた。
ザイナス博士は震える手で酸素マスクを外そうとした。
南部博士がそれを手伝った。
もう駄目なのだな、とジョーは思った。
ザイナスは力なく微笑んで見せた。
「ああ、あんたに1つだけ言いたい事があってな。
 伝言ではなく、きちんと伝えたかった……」
「爺さん。お陰でギャラクターの作戦は阻止出来たぜ」
「あんた、科学忍者隊なんだろ?」
ジョーは南部博士と顔を見合わせたが、南部博士は頷いて見せた。
「ジョー、もういい。否定する事はない…」
医師や看護師達は遠慮をして、部屋を出ていた。
ザイナス博士が人払いをしたのだ。
「ジョーとやら。
 いや、ジュゼッペの子なら『ジョージ浅倉』だね。
 あんたの両親はあんたの為に足を洗おうと考えた。
 それだけは本当の事だ。
 いいかね?子供の事を考えてやった事だ。
 ジュゼッペとカテリーナは悪事を働くギャラクターと言う組織に嫌気が差したんだ。
 それに手を貸している自分達に、な……。
 そう、今のこのわしのようにだ」
「爺さん…」
「だから…両親の事は恨んじゃいかん。
 解ったな…?」
ザイナス博士はそれだけ言うとあっさりと眼を閉じた。
機械類が鳴り響き始めた。
博士が頚動脈に触れて、ナースコールのボタンを押した。
「ジョー、ザイナス博士は安らかに天に召されたよ……」
小さな穏やかな声でそう言って、ジョーの肩に暖かい手を乗せた。
ジョーはもっと両親の事を訊きたかったのだが、それは叶わなかった。
両親と自分がどんな暮らしをしていたのか、記憶は限られている。
だが、ザイナス博士は自分の言いたい事だけを言って死んで行った。
しかし、これは真実なのだろう。
ザイナス博士と同等かそれ以上の地位に両親はいた。
ギャラクターの大幹部と言われたからには、相当の地位だった筈だ。
当然ベルク・カッツェとも謁見出来る立場にいた事だろう。
両親の暗殺を命じたカッツェへの憎しみが燃え滾った。
医師と看護師が入って来た。
南部博士が二言三言話をして、ジョーの背を押した。
「さあ、ジョー。お暇しよう……」
そのまま博士に背を押されて病室を出た。
ジョーの背中が震えている事に博士は気付いていた。
そっとしておいてやろう、と思った。
「ジョー、私は公用車で来ているから、後は自由にしたまえ。
 ご苦労だった」
労わりを込めて肩をポンっと叩くと、博士は踵を返した。
ポツリと残されたジョーは、病院の中庭へと出て、ベンチに座り、花壇をボーっと眺めた。
「ザイナスさんのご親族の方ですか?」
暫くして看護師に声を掛けられた。
「いえ、俺は…。
 ザイナス氏は俺の両親を知っていたようです。
 それだけの事です」
「そうですか…。縁者はいらっしゃらないと言っておられましたが、所持品の中にこんな写真があったので、貴方がご親族の方かと思いまして……」
看護師が差し出した一葉の写真には、若き日のザイナス博士と、ジョーの両親の姿があった。
「親父っ!お袋っ…!」
ジョーはその写真に驚愕した。
その様子を見て、看護師は黙ってその場を辞した。
写真を持つ手が震えた。
この写真は多分、永遠(とわ)の別れをする寸前の物だろう。
8歳のジョーも一緒に映っていた。
『あの時』着ていた服と帽子を纏って……。
ザイナスは2人がギャラクターを裏切る事を知っていて、黙って暖かく送り出してくれたのだ。
「そう言う事だったのか、爺さん……」
ジョーは写真を手にさめざめと泣いた。
「爺さん。2つのプレゼントを有難うよ……」
1つはギャラクターの作戦の壊滅、そして、もう1つはこの貴重な写真だ。
L版の何の変哲もないこの写真は、後にジョーによって2Lサイズに引き伸ばされ、額に入れてトレーラーハウスにひっそりと飾られた。




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