『ジョーの受難』

「昨日は大変だったろ?」
『スナックジュン』にジョーが来るなり、健が声を掛けて来た。
「ああ。ダンボールにわんさかと本が来たぜ。
 この前チョコレートを貰って歩いたばかりなのによ。
 全く恥を掻いたぜ」
「ご苦労な事だな」
「でも、ジョーの兄貴は2月2日と2月22日だけだろ?
 兄貴はもっとあるじゃん!」
甚平が顔を上げた。
「俺にも来るには来るんだが、ジョー程ではないな」
「困ったのがこの本なんだ…」
ジョーは分厚い手製の本を2冊カウンターの上に置いた。
「この『コンドルの羽根手裏剣』とか言う本がよ。
 1冊1冊手製なんだよ。
 捨てるに捨てられねぇじゃねぇか?」
「どれどれ…?」
健が手に取ってみた。
「うわぁ、本当に分厚いなぁ。
 それに細かい文字が連なってる」
「だろ?任務の間に読めってのか?」
「でも……」
ジュンが話に割り込んだ。
「捨てられない、って言うのが、意外だわ。
 ジョーも優しい処があるんじゃない」
「作者は真木野聖。こいつは侮れねぇ。
 うっかり捨ててみろ。何を書かれるか解らねぇぜ」
「ああ、現在進行形で毎日のようにお前のストーリーを書いている女か」
「そうなんだよ……」
ジョーは頭を抱えた。
「これを無下に出来るか?」
その分厚さを改めて仲間に見せた。
「ジョーへの愛がたっぷりだのう…」
「愛なのかよ?」
ジョーはへっ、と言った。
「小説を書く為のリハビリに利用してるって話だぜ」
「いいじゃないか。利用されていたって。
 お前の事を良く書いてあるんだから。
 ある事ない事を悪意を持って書いている訳じゃないんだろ?」
「そりゃあまあそうだがよ。
 これって、ISO的に大丈夫なのか?
 此処での出来事まで書かれている。
 想像で書いているらしいんだが、当たってるから恐ろしいんだよ」
「どこかにスパイでもいるって事かしら?」
「それは解らねぇ」
ジョーは頭を抱えた。
「この店に良く来るジョー目当てのお客さんの中にその人がいるかもね」
ジュンは科学忍者隊しかいない店内を見回した。
「まあ、悪事を働く訳じゃなし、いいんじゃないの?」
甚平が取り成すように言った。
「何かよう、ストーカーに憑かれているみてぇで気持ちが悪いぜ」
「その気持ちは解るなぁ」
「だろ?健だって同じ筈だ」
「お前程じゃないがな」
「ジュンだってそうだろ?」
「そうね。3月3日には男性から少なからず本が来るわ」
「おいらは来ないよ」
「おらもじゃ」
「どうして?4月4日も5月5日もちゃんとあるのに?!」
話の矛先が変わって来た。
ジョーはそそくさと本をしまった。
「甚平。エスプレッソを頼むぜ」
そう言ったきり、故郷の新聞を広げて話をいきなり打ち切った。






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