『蝉型複合メカ鉄獣(1)』

『科学忍者隊の諸君、速やかに集合せよ!』
南部博士の号令が掛かった時、ジョーはサーキットからの帰り道だった。
「G−2号、ラジャー」
と応えながら、レースが終わった後で良かった、とホッと一息ついた。
ナビゲートシートには優勝トロフィーがある。
運転席前の収納スペースには賞金も置いてある。
ジョーは辺りを見回すと、「バード・GO!」と虹色に包まれて変身した。
機体毎姿を変える。
スピード違反を問われないように、山道へと入る。
G−2号機は悪路走行性が高い。
そこで飛ばして竜のヨットハーバーの方向へと急いだ。
専用艇を使えば自力で基地に行く事も出来るのだが、竜と合体してしまった方が手っ取り早い。
「竜、今そっち方面に向かっているから俺を拾ってくれ」
『ほいよ、任せとけ』
竜も素潜りをしてG−5号機に辿り着いていたらしく、すぐさま返事が返って来た。
そうして、科学忍者隊は20分程で集合した。
だが、そこに甚平の姿がない。
ジュンが心配そうにオロオロしていた。
「ジュン、説明してくれたまえ」
博士が促した。
「はい。みんな、甚平が仕入れに出たまま行方不明なの」
「遊びに行ったんじゃねぇのか?」
ジョーが言ったが、ジュンは涙を零した。
「違うの。何かおかしな物を見たらしいのよ。
 その連絡は貴方達にはなかった?」
「俺にはなかったな。ジョーと竜は?」
「ねぇな」
「おらもだ」
「博士にも連絡は入っていないの。
 じゃあ、私にだけ連絡して来たのね」
「変な物を見たってだけじゃのう…」
竜がぼやいた。
「甚平がジュンに最後の発信をしたのがこの地点だ」
南部がスクリーンの地図を示した。
「この地点を中心におかしな物を見たとの目撃情報が相次いでいるのだ」
「おかしな物とは?」
健が組んでいた腕を解いた。
「街中に10cm程の蝉が大量に現われたと言うのだ。
 まだ写真は入手出来ていないのだが……」
『南部博士!』
その時、アンダーソン長官からの通信が入った。
『大型の蝉の写真が送られて来たので、そちらに転送します』
「解りました。お願いします」
すぐにアンダーソン長官の姿はスクリーンから消え、大型蝉の写真が大写しにされた。
『この蝉がビルを喰い尽くして行くと言う。
 大量発生しており、たった今、1つの街が消滅した』
「で、人々への被害は?」
『人間は食べないらしいが、倒壊したビルの下敷きになった人々が犠牲になっている』
「解りました。科学忍者隊を調査に出動させます」
『宜しくお願いします』
アンダーソン長官との通信はそれで切れた。
「G−4号機が喰われてなけりゃいいですけどね…」
ジョーが呟いた。
「うむ。鉄筋コンクリートがやられている。
 Gメカはそれよりも強い鋼鉄で作られてはいるが……」
博士はそれっきり黙り込んでしまった。
「甚平!応答して!無事なの?」
ジュンが溜まらずブレスレットに呼び掛けたが、応答はなかった。
「博士、ゴッドフェニックスが喰われる可能性もあるんかいな?」
竜が気になる処を訊いた。
「今、急いで特殊樹脂で覆う作業をしている。
 それが終わり次第出動して貰う」
「じゃけんど、G−4号機が合体していないんじゃあ、普段通りの力は発揮出来んわい」
「その通りだ…。火の鳥もバードミサイルも使えん。
 まずは現地の調査に行って、データを集めて来て欲しい」
「解りました」
健が答えた。

G−4号機は無惨な状態で発見された。
その中に甚平はいなかった。
取り敢えず原型は留めている。
G−4号機を竜が回収して、その間に他の3人が地上に降り、甚平の行方を捜した。
「おかしいわね。長官は人は食べないって言っていたのに…」
ジュンの表情が曇った。
「甚平は何かを追って行ったのかもしれないな」
健が呟いた。
「或いは何かまずい物を目撃して拉致された可能性も否定出来ねぇ」
ジョーが眉を顰めた。
「まだ蝉の化け物がそこら辺に潜んでいる可能性もあるぜ」
「ああ、手分けして甚平と蝉の化け物を探し続けよう。竜!」
健は最後の言葉はブレスレットに向かって言った。
「そっちからは上空からの写真を隈なく撮影してくれ。
 それが終わったら赤外線フィルタを掛けて、街を観察してくれ」
『ラジャー』
4人はそれぞれ手分けをして、作業を開始した。
「キャッ!」
ジュンの悲鳴が聴こえたのはその直後だった。
ジュンは虫が苦手だった。
健とジョーがすぐに駆けつけた。
10cm程の蝉のメカが蠢いていた。
シャカシャカと音を立て、コンクリートの残骸を食べていた。
「けっ!ジュン、こいつはメカなんだぜ」
ジョーはエアガンを抜くと、飛んで逃げようとする蝉メカの背中から身体のど真ん中を撃ち抜いた。
蝉は急降下して道に落ちた。
「爆発しないでくれて助かったぜ。
 健、こいつを博士の所に持ち帰ろう」
「ああ。後は甚平の行方だが……」
「俺は一旦これをゴッドフェニックスの保管ケースに入れて来る。
 2人は甚平を探してくれ。俺もすぐに戻るぜ」
「解った。だが、ある程度探して見つからなければ捜索は中止する」
「健……」
ジュンが瞳に涙を溜めて詰るように健の名を呼んだ。
ジョーがそっと彼女の肩を叩いた。
「甚平はそう簡単に死ぬような奴じゃねぇ。
 敵の基地に潜入していて連絡が取れねぇって可能性もあるぜ。
 拉致された振りをしてな」
「ジョー……」
ジュンは頷いた。
その後、3人で周辺を散々捜索して、生きている人を何人か救助出来たが、甚平は見つからなかった。
「後は国連軍に任せて、一旦帰還する」
健の命令が出た。
ジョーもジュンも止むを得ないと思った。
だが、ジュンは心残りがあるように周囲を俯瞰しながら、ゴッドフェニックスのトップドームへと跳躍した。
(健はこう言う時に気が利く玉じゃねぇからな…)
コックピットに戻ると、ジョーはジュンを慰めた。
「ジュン。甚平は生きている。俺はそう信じているぜ。
 おめぇがそれを信じなくてどうするんだ?
 あの機転が利く甚平がそう易々と殺されてなるものか!」
「そうよね…。有難う、ジョー」
ジュンは涙を拭った。




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