『蝉型複合メカ鉄獣(2)』

「うむ。このメカは鉄筋コンクリートを『食べる』と言うよりは、粉々に粉砕しているのだな…」
科学忍者隊が持ち帰った10cm程の大型蝉メカを調べた南部博士が呟いた。
「このメカの体内にはコンクリートの破片はない。
 竜が撮って来た写真で街の残骸を見た限りでは、建物の質量は減っていない」
南部は蝉メカの写真をスクリーンに映し出した。
「見たまえ。この蝉には鋭い刃が付いている。
 危険なので近づく事は出来ない。
 目的は飽くまでも街の破壊にあるようだが、万が一人間に危害を及ぼすような事になったら、より大変な事になる」
「甚平…。大丈夫かしら?」
科学忍者隊はバードスタイルを解いている。
ジュンが心配そうに湿った声を出した。
泣いているのか、と一瞬ジョーは思ったが、ジュンの瞳には涙はなかった。
心配ではあるが、甚平を信頼する気持ちも大きいのだろう。
他の皆よりも幼くても、機転が利くし、子供の目線で年長組が思いも付かないような事を実行に移す。
甚平は科学忍者隊の中でそんな存在だった。
一人前の忍者隊として扱われているのはその為だ。
「とにかく甚平が何かしらの方法で連絡を試みてくれねぇ限り、どうしようもねぇ!」
ジョーが右手の拳で左の掌をパシっと叩いた。
「いや、この蝉を修理して、どこに帰るのか追尾したらどうだ?」
健が提案した。
以前、蟻型メカを同様に追った事がある。
「どうですか?博士」
博士は頷いた。
「良かろう。修理をする技師に危険が生じる可能性もあるので、修理マシンで処置をしてみよう。
 発信器を付けるので、科学忍者隊にはそれを追って貰いたい」
「ラジャー!」
4人は声を合わせて答えた。
そうして、南部博士は10cmの蝉メカを機械で制御しながら別室から触手を出す形で修理して空に放つ事にした。
勿論、その間にはG−4号機の修復も急ピッチで進められ、出動出来る状況が整った処で、科学忍者隊に出動命令が出された。

健と竜はゴッドフェニックスで待機しながら空から追尾し、ジョー、ジュンの2人でそれぞれのGメカで発信器の電波を追う事になった。
地上からは追えないようなとんでもない場所に飛んで行った時には、上空の健達が追い掛ける手筈になっていた。
『2人とも、蝉メカから逆襲を受けないように敵の攻撃には充分気をつけてくれ』
健から指示が飛んだ。
「ラジャー!」
ジョーは軽快に答えた。
もし襲われたとしても、蝉メカをG−2号機の最高時速1000kmで振り切る事は可能だろう。
喰らい付かれても、時速1000kmの中ではいつまでも持ち堪える事は出来ないに違いない。
最低限度の被害で済むと思われる。
今度は作戦上、エアガンで撃ち抜く訳には行かない。
いざとなったら、そうして振り払うより他ないだろう、とジョーは考えていた。
そのように常に先の事をある程度シュミレーションしている。
「ジュン、おめぇも気をつけろよ。
 直接攻撃されたら危険だぜ」
『あら、危険なのはジョーだって同じよ。
 あの蝉は鉄筋コンクリートを食べるんですもの。
 G−4号機だってあの始末よ』
勝気なジュンの言葉が返って来た。
この分なら大丈夫だ。
甚平の事を心配する余りに我を失って冷静さを欠くような事はジュンにはない。
ジョーには解ってはいたのだが、それを改めて確認してニヤリと笑った。
「動き出したぜ」
檻から放たれた蝉メカを眼とレーダーで追いながら、ジョーはG−2号機を出発させた。
ジュンと並んでスタートしたが、やがては別ルートを辿る事になるだろう。
当然だが、G−3号機の方が小回りが利く。
ジョーに手が負えなくなったら、ジュンに任せるしかない。
そして最後の手段はゴッドフェニックスだ。
その為の役割分担だった。
解放した蝉メカはビル街に向かって行く可能性もあり、冷や冷やしながらの追尾だったが、今、仲間の蝉メカが活動していると言う報告はない。
科学忍者隊が追っている発信器付きの蝉メカは、街ではなく、山の方角へと飛んで行くのが確認出来た。
これならジョーのG−2号機でも追えるだろう。
山道に入りながら、ジョーは油断のない眼を蝉メカとレーダーに向けていた。
時折木々に阻まれて視界から消える事はあったが、レーダーにより捕捉は可能だった。
ジョーは慎重に追尾を続けた。
突然敵メカが攻撃に転じないとは限らない。
仲間が現われる可能性だってあるのだ。
油断だけは絶対にならなかった。
甚平を助ける為にも、自分達が必ず敵基地へ辿り着かなければならない。
仲間である自分が斃されては意味がないのだ。
甚平が助かっても、ジョーやジュンが死んでは仲間内では収まらない。
全員無事で帰還しなければならなかった。

やがて蝉メカは、ある山道の崖と崖の間の狭い道に入り、その途中にある横穴へと潜り込んだ。
ジュンはそのままG−3号機で追ったが、ジョーはその横穴には入れず、手前でストップした。
『ジュン、くれぐれも気をつけろよ!
 俺達も追って行く!』
健の声がブレスレットから聴こえた。
ジョーはそのままG−2号機を飛び降りて、横穴に駆け込んだ。
何が待っているか、解らない。
ジュンは自分のマシンで駆け抜けたが、大丈夫だろうか?
罠が仕掛けられていなければ良いのだが…。
いや、ジュンには上手く危機を避ける能力がある筈だ。
中に入ると、その途端に火炎放射器がジョーを襲って来た。
ジュンはG−3号機で一瞬にして通り抜けたのだろうが、マシンがないジョーはそこで歯止めを喰って時間を取られた。
火炎放射器の様子を見ている内にある規則性に気付いたジョーは、ほんの一瞬全ての火炎放射器が黙る瞬間を狙って、中に飛び込んだ。
マントが焼けるかと思ったが、辛うじてセーフだ。
「健、入口の火炎放射器に気をつけろ。
 タイミングを計れば大丈夫だ」
『解った!ジョー、気をつけろよ』
「ああ。それよりマシンで乗り込んだジュンが心配だ。先に行く」
ジョーは通信を切って、先に進んだ。
先の侵入者に取り掛かっていた敵兵が、ジョーに気付いて攻撃を仕掛けて来た。
簡単に屈するようなジョーではない。
敵兵を足払いしながら、エアガンと羽根手裏剣で縦横無尽に反撃をして行く。
エアガンの狙いは相変わらず正確だ。
羽根手裏剣で敵の手の甲を狙ったりマシンガン自体をエアガンで弾き飛ばしたりしながら、敵兵の戦力を削いで行く。
止むを得ない時を除いては、科学忍者隊は敵を殺さない。
敵基地を爆破する事によって、人命は失われているだろうが、その手を汚す事は出来るだけ避けるように南部博士から言われている。
だが、闘いの最中にあっては、そんな事を言っていられない事もある。
自分が生きるか死ぬかの時には、羽根手裏剣が喉元を抉って死なせる事もあった。
ジョーは、だから、自分は死んだら地獄に行くと思っていた。
この年でそんな風に自分の人生を達観している部分があった。
科学忍者隊としての使命を全うする以上、仕方のない事だと思っていた。
闘いを切り抜けながら道を拓いて行くと、やがて、ジュンのG−3号機が横倒しになっているのが見えた。
「ジュン…!」
ジョーは危機感を感じて辺りを見回した。




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