『蝉型複合メカ鉄獣(3)』

ジュンのマシンは横転して、まだタイヤが空転していた。
横転時の衝撃を物語っている。
バイクは倒れてから時間が経っていないのだろう。
(無事ならいいんだが…)
ジョーは思いながらそこを駆け抜け、待ち受けた敵兵をエアガンと羽根手裏剣で倒して行った。
回転して蹴りを入れ、次の瞬間には別の隊員に膝蹴りを喰らわせている。
相変わらず華麗な闘い振りだった。
そこに前方からバードスタイルの甚平が姿を現わした。
「甚平!」
甚平は気を失った女の子を背中に背負っていた。
「無事だったか?」
「ごめんよ、ジョー。
 ガスを嗅がされて長い間気を失っていたみたいなんだ。
 おいら、10cmぐらいの蝉型メカが複合したメカ鉄獣を見たんだ。
 その時、この子が襲われそうになってさ」
7〜8歳の女の子だった。
この子を救う為に甚平は捕まってしまったのだ。
意識が戻って、此処まで自力で脱出して来た。
「幸い一般人だと思われて、ローブで縛られてただけなんで、簡単に縄抜けが出来たんだ」
「甚平。ジュンを見掛けなかったか?」
「ううん。お姉ちゃんとは逢ってないよ」
「やはり何かあったな…。
 見ろ、あそこにマシンが横転している」
ジョーは振り返って指を差した。
「お姉ちゃん、おいらを助けに来て…」
甚平がじわっと涙を浮かべそうになった。
「とにかくこれから健達も追って来る。
 おめぇはこの子を連れて一旦ゴッドフェニックスに避難させろ」
「ラジャー」
「ジュンの事は俺達に任せな」
「ごめんよ、ジョー」
甚平はさっきと同じ言葉を言った。
完全に動揺している。
「心配するな。早く行け。
 くれぐれも気をつけろよ」
「うん。おいら、部屋に爆弾を仕掛けて来たから気をつけて!」
「おう、さすがだな、甚平!」
ジョーは甚平の頭に手を乗せた。
甚平は頷いて踵を返し、出口へと向かった。
その甚平を襲う敵兵をジョーが羽根手裏剣で牽制した。
途中で健達とかち合うに違いない。
健がリーダーとしてその後の事を判断するだろう。
女の子を連れての脱出は困難だが、甚平なら行ける、とジョーは信じた。
「健!甚平は自力で脱出して来た。
 途中でかち合うだろう。
 それよりジュンに何かあったらしい。先を急ぐ。
 甚平の事は頼むぜ!」
一方的に通信して、ジョーは連絡を終えた。
敵兵を薙ぎ払うように突き抜けて行き、部屋に入ると、ジュンが壁に磔になっているのが見えた。
ジュンはバイクを爆弾で弾き飛ばされて転倒し、一瞬気を失っている間に捕らえられてしまったのだ。
手足が広がるように鎖で固定されていて、下着が見えていた。
ジョーは見ていてジュンが気の毒になった。
(女の子にあんな事をしやがって…!)
此処は恐らく甚平が監禁されていた部屋だろう。
だとすればこの部屋には既に甚平の手によって爆弾が仕掛けられている筈だった。
ジョーは敵兵の攻撃を避けながら、ジュンを救い出さなければならなかった。
「ジュン、怪我はねぇか?」
「大丈夫よ。失敗しちゃったわ。迷惑を掛けるわね」
気丈な声が返って来た。
火炎放射器の洗礼はマントで上手く避けたようだ。
彼女のバードスタイルは何故か腕と大腿が出ているので、ジョーは彼女の負傷を心配していたのだ。
見た処、火傷を負った形跡はない。
「甚平は無事に自力で脱出した。心配するな」
ジョーはそう言いながら、羽根手裏剣を投げつけて、まずジュンの利き腕を拘束している鉄の輪を弾き飛ばした。
続いて、エアガンで左腕も解放した。
「ありがとう、ジョー。後は自分で何とかするわ」
「ああ、此処には甚平が爆弾を仕掛けている。早くしろ」
「解ったわ」
ジョーは戦闘を続けた。
敵兵は爆弾と聞いて怯んでいる。
その中にジョーは走り込み、長い脚で重い膝蹴りを喰らわせた。
そのまま振り子のように脚を振り回し、回転しながら敵兵を纏めて倒して行く。
彼の脚力は侮り難い。
力技で何人もの敵を蹴り飛ばした。
続いて側転しながら、敵兵の中に踊り込んだ。
そこに健が到着した。
健はすぐにブーメランを飛ばし、ジュンの両脚の拘束を解いた。
「ジュン、大丈夫か!?」
「大丈夫よ。それより甚平は?」
「竜が合流して、無事にゴッドフェニックスに戻った。
 此処は甚平が爆弾を仕掛けているから、もういい。
 脱出するぞ。これからメカ鉄獣が出て来るに違いない。急ぐんだ!」
「ラジャー」
健がジュンの手を引いた。
ジョーはそれを見て黙って背を向け、先陣を切って駆け出した。
敵兵を切り拓いて行く役目を自ら引き受けたのだ。
だが、既に敵兵に戦意はなかった。
爆発に巻き込まれるのは避けたい。
ギャラクターの隊員達からは覇気が消えていた。
「此処は俺に任せろ!」
ジョーは健とジュンに先を急がせた。
ジュンのG−3号機を回収して合体させ、メカ鉄獣との対戦に備えなければならないからだ。
健のその辺りのジョーの思いを正確に理解したが、「ジョー、時間がないぞ」と促した。
「解ってるって!」
ジョーは居残るつもりなど全くない。
健とジュンを先に行かせておいて、自分もさっさと敵兵を倒しながら引き上げるつもりだ。
健は科学忍者隊のリーダーとして先に戻って何が起こっても的確な判断をする必要がある。
2人を先に戻らせる正当な理由が、ジョーにはあったのだ。
そこはサブリーダーとして考えるべき役割だった。
彼には野心はない。
健と対立する事はあっても、自分がリーダーの器ではない事は良く解っている。
健と言う存在があるからこそ、自分も本領を発揮出来る。
そう思っていた。
ジョーはサブリーダーと言う立ち位置が気に入っていたし、彼にはそれが居心地が良いのだ。
彼は伸び伸びと闘った。
へっぴり腰になっている敵兵など、ジョーの敵ではなかった。
すぐに片付けて、健達を追った。




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