『蝉型複合メカ鉄獣(4)/終章』

ジョーも洞窟のような崖の出口から飛び出した。
G−2号機に飛び乗り、崖をほぼ垂直に登って行く。
2つの崖に挟まれた地形なので、ゴッドフェニックスに拾って貰えないからだ。
ジュンは先に同じように崖に登り、既に合体を完了していた。
悪路走行性を誇るG−2号機も少し苦戦したが、何とか崖の上に上がり、オートクリッパーによって回収された。
「甚平の話によると、大型蝉メカは合体して巨大な複合メカ鉄獣になるらしいぞ」
コックピットに戻ったジョーに、健が告げた。
「ああ、そうらしいな…」
ジョーは怪我1つなく無事に戻った甚平を見下ろした。
助けた女の子は甚平の席でまだ眠っている。
「この子がいる限り、火の鳥は出来ねぇぜ」
「蝉メカの数を考えたら、火の鳥が一番有効なんだがな。
 バードミサイルをぶち込んでも、解体されたら意味がない」
健が腕を組んだ。
「油田にでも引き寄せたら?」
甚平が提案したが、それはすぐに健によって却下された。
「馬鹿だなぁ。油田が爆発に巻き込まれて大惨事になる」
「あ、そっか…」
「おい、いよいよ敵さんが出て来るぜ」
崖がゴゴゴゴゴと怪しい音を立てていた。
ジョーが全員の注意を喚起する。
「この子をどこかで国連軍に引き渡すか…」
健が呟いたが、そんな時間がない事は彼にも解っていた。
「このままでどう闘うか考えるしかねぇぜ」
ジョーがそう言っている間に、崖の1つが崩れ去り、例の蝉メカが合体した複合メカが現われた。
巨大な蝉だ。
「こいつを分散させると面倒だぜ。
 全体を何かで包み込む事が出来ればいいんだがよ」
ジョーの呟きに、健が閃いた。
「海だ!ギャラクターのメカ鉄獣は、元となった生物の特徴をそのまま引き継いでいる事が多い。
 必ずしもそうだとは言えないが、蝉なら海は苦手かもしれない。
 甚平、少女にシートベルトを!」
「賭けだな…。だがやってみる価値はあるだろう」
ジョーもそれに応えた。
「竜、おめぇの双肩に掛かっているぜ。上手く誘導しろよ」
「任せとけって!」
竜は舌なめずりをするような仕草をして、巧妙に蝉型複合メカ鉄獣に絡み始めた。
「竜、2時の方向80km先に海があるわ」
ジュンが言った。
「ラジャー」
竜は答えて操縦桿を力強く引いた。
メカ鉄獣はゴッドフェニックスに翻弄されながら、誘われるかのように段々と海の方角に引き寄せられて行った。
海上に出ると初めてそれに気づいたかのように、慌てる気配があった。
健の目論見通り、ゴッドフェニックスに巻き込まれるように急降下した蝉型鉄獣は、海に沈み込んで羽をバタバタとしている。
「ジョー、超バードミサイルだ。
 恐らく敵は分散出来ない筈だ!」
健がGOサインを出したので、ジョーは堂々と超バードミサイルの赤いボタンの前に立った。
充分引きつけて狙いを定め、超バードミサイルで完全に粉砕した。
「竜、急速上昇!」
「ラジャー」
ゴッドフェニックスは虹を伴って海上へと出た。
その一瞬後に爆発が起き、海が盛り上がった。
爆発が落ち着いてから海を見下ろすと、濁っているように見えた。
「また海が汚れるわい…。
 海中で爆発を起こす事で、潮位にも変動が出る。
 魚の生態系が変わるかもしれんわ…」
竜のぼやきが聴こえたが、仕方のない事だった。
この問題は南部博士に動いて貰う他なかった。
実際、博士は国連軍の特殊部隊を動かして、ギャラクターのメカ鉄獣の残骸を出来る限り回収するように依頼している。
そうして、ギャラクターが使っている鋼鉄の種類を割り出したりする事も出来るし、環境保護にも役立つ。
国際科学技術庁は、いや、南部博士は本当に忙しい。
『諸君、良くやってくれた。
 今回は、甚平。危なかったな』
「すいません、博士…」
甚平がしょげ返った。
『まあ、いい。少女を守っての事だろう。
 その子はまだ目覚めんのかね?』
「突然、強力なガスを浴びたんで…」
甚平が頭を掻くような仕草をした。
実際はヘルメットがあるので掻く事は出来ない。
彼はある程度息を止めていたのだが、それでもやられた。
少女は完全に大量のガスを吸っている筈だ。
防ぎようがなかった。
『では、ISO付属病院に搬送しよう。
 X−230地点に救急車を要請するから、その子を降ろしてやってくれ』
「ラジャー」
健が答えた。
「この子、名前も解らなかったな…」
甚平よりも幼くて可愛い子だった。
甚平は少し残念そうに呟いた。
「甚平。まさか恋しちゃったの?」
ジュンが甚平の肩に手を置いた。
「おいおい、ホントかよ?ませてるなぁ」
操縦席から竜が揶揄するかのように言った。
「そんな訳ないじゃん。全然話もしてないのに」
甚平は鼻の下を頻りに擦っていた。
「こいつは案外本気かもしれねぇぜ」
ジョーが笑って、甚平のヘルメットに手を置いた。
「一目惚れって奴だな」
ジョーは甚平の顔を面白そうに覗き込む。
「何だよ、ジョーの兄貴だってそう言う経験はあるだろ?
 あのマヤって言うギャラクターの女はそうだったんだろ?」
痛い処を突かれた。
余り考えたくない事だった。
デブルスター2号と同様にギャラクターを脱け出したくて、それを達成出来なかったのがマヤだった。
「甚平!」
健が窘めるように声を上げた。
この時、既に健はジョーがギャラクターの子だと言う事を知っていたが、まだ他の仲間の知る処ではなかったのだ。
「いいのさ。そんな昔の事どうだってよ」
ジョーはそれだけ答えると自席に戻った。
自分で自分に話を振ったようなものだ。
甚平を責める気にはなれなかった。
ジョーは余計な考えを追い払うかのように瞑目した。
後は少女を降ろして、基地に帰還すれば任務完了だ。
今日は優勝トロフィーを置きに南部博士の別荘に行き、テレサ婆さんの顔でも見よう、と思った。




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