『南部博士襲撃』

ジョーはサーキットでトップでゴールを通過した。
表彰台から下りて、「これから祝勝会を上げようぜ!」と仲間達と盛り上がっている処にブレスレットが鳴った。
「ちょっと待ってくれ。野暮用だ」
ジョーはサーキット仲間達からダッシュで離れた。
勝利の歓喜は一瞬にして冷めた。
サーキット仲間は、ジョーが何らかの重大な任務を負っている事を何となく勘付いているので、いつもの通り詮索はしない。
「こちらG−2号!」
『ジョーか?大変な事になった!南部博士が襲われたぞ!』
響いて来たのは健の声だった。
「何だって?それで…博士は無事なのか?」
ジョーは低い声で呻くように問う。
『幸いにして怪我もなく無事だそうだが、ギャラクターの仕業なのは間違いないらしい。
 ただ…気になるのは、俺の家に入った連絡がブレスレットからではなく、博士のホットラインからだったって事だ』
「ホットラインだって?」
ジョーはG−2号機に向かって走り出した。
サーキット仲間に断りを入れている暇はない。
「それでお前から連絡が来たって事か?」
サッとG−2号機に乗り込むと後部にトロフィーを投げた。
エンジンを始動させるとすぐに唸りを上げた。
「どこへ向かえばいいんだ?」
『ISO本部だ。俺達も今向かっている。他の3人はみんな『スナックジュン』に居たんでな』
「ラジャー。しかし、罠かもしれねぇ。先に着いても注意して掛かれよ!」
『解ってるさ!』
「いや、待て。健、博士本人と話をしたのか?」
『ああ…そうだが……。ジョー、博士の偽者だと言うのか?』
「その可能性は否定出来ないだろ?何でブレスレットではなく、ホットラインからなんだ?」
『解らない』
「博士の居場所を確認するべきだ。陽動作戦かもしれねぇぜ!」
『成る程。ジョーの言う通りかもしれないな。サーキットからは博士の別荘が近いよな?
 お前はそっちを頼む。三日月基地には竜に行って貰おう。行動は隠密に頼むぞ。
 博士へ直接通信するのも控えよう』
「解ってるぜ、健!」
ジョーはアクセルを踏んで南部博士の別荘へと急いだ。

「バードGo!」
ジョーはバードスタイルになり、G−2号機も変身を遂げた。
これで走行スピードは更に速くなる。
市街地を外れて、山中を走った。
その方が近いのだ。
ジョーは南部の別荘の近くの森までやって来ると、G−2号機をそこに置き、ヒラリと南部の別荘へと忍び寄って行った。
(何だか妙だぞ…)
ジョーは嫌な予感を感じていた。
南部博士の別荘はひっそりとしていた。
博士は研究の為、此処に篭る事は良くある。
しかし、警護の者が誰も別荘の周辺に見当たらない。
慎重に、それでいて素早い動きで別荘に近づいて行く。
門にはセンサーがある事をジョーは知っていた。
センサーに触れないように高く舞い上がる。
門の向こうに着地すると、警備員が3名、斃されていた。
(どうやら俺が当たりくじらしいな…)
ジョーは建物へと潜入して行った。
まずは南部の執務室に向かう。
幼少時代、ジョーは南部に引き取られて此処に住んでいたので、建物の仕組みや間取りは全て勝手知りたる…だ。
南部の執務室の前の廊下にジョーは異様な気配を感じた。
(ギャラクターだ!)
ギャラクターの隊員が10数名、南部の執務室の前で銃を構えて警戒していた。
しかし、まだ罠の可能性も否定出来ない。
バードスクランブルを出すには早計かもしれない。
ジョーは瞬時に1人で踏み込む事を決めた。

ギャラクターの雑魚隊員はジョーの敵では無かった。
羽根手裏剣 を用いて音もなく倒した。
しかし、問題は執務室の中だ。
(……博士は無事なのか?)
ジョーは羽根手裏剣を唇に咥えたまま、エアガンを抜き、そっとドアのノブを捻った。
バッとドアを引き、エアガンを構えて中に入る。
「ホホホホホホ!来たな?科学忍者隊、コンドルのジョーとやら。
 此処を嗅ぎ付けるとはかなりの嗅覚……」
背の高い女が甲高い声で笑いながら、南部の頭に銃口を突き付けていた。
(やはり…博士は此処だったか!?)
ジョーは女に気付かれないようにブレスレットを強く押し、バードスクランブルを発信した。
女は長く黄色い髪と釣り上がった眼付きが特徴だった。
ジョーはこの女に既視感を感じた。
(てめえ…サーキットのあの娘(こ)を殴った女だな?)
ジョーはすぐにその事を思い出したが、その時は自分がバードスタイルではなかったので、口に出すのを控えた。
ジョーはあの時の少女がデブルスター2号であったと言う事実も未だに知らない。
まさか自分が羽根手裏剣で仕留めたのがあの少女だったと言う事も……。

南部博士は猿轡を噛まされ、ロープで縛られていた。
その眼はジョーがバードスクランブルを発信した事を見て取って、微かに安堵の色を見せた。
「さあ、雑魚はもう倒した。おめぇ1人でどうする気だ?俺に殺られたくなかったら博士を離すんだな!」
ジョーはエアガンで威嚇をする。
羽根手裏剣もまだ口に咥えたままだ。
女がどう言う行動を採るかによって、ジョーはどちらの武器も使う用意が出来ていた。
「ホホホホホ…」
女がまたジョーの気に障る声で笑った。
「お前はこの状況を良く理解していないようだねぇ。
 お前が動けば、それと同時に私が南部の脳天に銃弾を撃ち込む事になるのさ」
「くっ…」
ジョーは打開策を考えていた。
このまま時間稼ぎをして健達の到着を待つか?
しかし、この女はいつ引き金を引くか解ったものではない。
羽根手裏剣の速さと女が引き金を引く早さと、どちらが早いか、ジョーは間合いを計った。
油断の無い眼で女を睨み付けながら、ジョーは呼吸を整え、無心になった。
(今だっ!)
ジョーはその瞬間羽根手裏剣を2本飛ばした。
1本は女の武器を跳ね飛ばし、もう1本は女の喉笛を狙ったが、僅かに交わされた。
「ちっ!なかなかやるじゃねぇか!」
ジョーがそう呟いた時には、既に南部を自分の背中で隠していた。
「また逢おう!コンドルのジョーとやら!」
女はヒラリと窓から飛び降りた。
その時、健達が部屋に飛び込んで来た。
「女は窓から飛び降りたぜ!ジュンを残してみんな追ってくれ!
 爆発物が残されているかもしれねぇ!ジュンは俺と爆発物の処理を頼む」
ジョーは南部を縛っていたロープから解放しながら言った。
4人は南部の無事を見て取ると声も無く動いた。
「ジュン!何だかきな臭せぇ。爆弾が仕掛けられているに違いねぇ!」
「解ったわ!」
2人は付近を捜索し始めた。
ジョーはいつでも博士を守れる体勢を取りながらも、ジュンと手分けをして爆発物を探し始めた。
「あった!ジュン!博士のデスクの下に時限爆弾だ!時間がねぇ!博士を頼むぞ!」
ジョーは爆弾を持ち出し、窓から飛び降りた。
「ジョー!」
博士とジュンの声が追って来た。

(出来るだけ別荘から遠くに……)
しかし、時限爆弾の時間は既に残り30秒を切っていたのだ。
ジョーは森の方向に走り、力の限り遠くへと爆弾を投げた。
そして、G−2号機に飛び乗ると危機一髪難を逃れた。
轟音と共に激しい爆発が起こる。
爆発は何度も続けて起こった。
G−2号機は衝撃で激しく揺れ、爆発物の破片の直撃を受けた。
爆弾の破片はジョーの右の二の腕に突き刺さった。
「ぐっ!」
ジョーはその痛みに耐え、爆発に巻き込まれないで済む場所までG−2号機で走り抜けた。
「どうやら助かったようだな……」
G−2号機を停めると、ジョーは爆発の後の大きな炎と煙を振り返って見上げた。
ジョーの二の腕に刺さった破片はかなり大きい物だった。
こう言う時にはこのままにしておく方が出血が少なくて済むと言う事は、ジョーも承知していた。
(骨には達していねぇようだぜ…)
そのまま別荘へと取って返した。
「ジョー!大丈夫か?」
戻って来ていた健達に迎えられる。
「あの女、逃げ仰しやがったか……」
「ああ…。逃げ足の早い女だ。ジョー、それより怪我の手当を」
「ジョー、済まなかった。私が迂闊だったようだ…。君の機転のお陰で救われたよ。
 傷の手当をしよう。早く中へ」
南部が優しくジョーの傷めていない方の腕を取った。

傷の程度は縫合が必要な程だった。
南部の別荘にも設備が整っているので、医師でもある南部がすぐに治療を施してくれた。
治療が終わって部屋から出ると素顔に戻った忍者隊の4人が待っていた。
「ジョー、忘れ物だぜ!」
と健が渡して寄越したのは、G−2号機の後部に投げ入れたままになっていた今日のレースのトロフィーだった。



ぺたる様より戴きましたイメージイラストです。
ぺたるさん、どうも有難うございました。
ぺたるさんのブログ『イメージ画あれこれ』はこちらからどうぞ。




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