『予告電話(後編)』

警察車両を事も無げに追い越して来た車2台とバイク2台が、ジョーが駆る公用車に迫っていた。
やはりプロの暗殺集団だ。
「博士、あれはどう見てもギャラクターですね。
 今回の事に便乗して復讐を装っているんじゃないでしょうか?
 それならわざわざ国際警察を証人に仕立てたのも納得が行きます」
「なる程。では、アムーリ博士は利用されたと言うのかね?」
「その可能性が高いと思います。博士、伏せて下さい!」
ジョーは急にステアリングを切った。
狭い山道に入り込むしかない。
車2台に挟み撃ちにされては、普通の乗用車では不利である。
小回りの利くバイクもいる。
バイクの荷台には、1人ずつ男が乗っていて、ライフルを構えていた。
「こんな揺れる中、狙撃しようって事は、相当な腕利きですよ」
やはりジョーを狙撃して南部博士の事故死を狙っている事は間違いのない事だ。
国際警察がいる以上、変身は出来ない。
生身で切り抜けるしかなかった。
此処はドライビングテクニックで持たせ、肉弾戦に持ち込むしかない、とジョーは考えていた。
黒ずくめの衣装に身を包んだ暗殺集団は、全部で8人いる。
2人1組だ。
先程のスナイパーが1人1人乗り込んでいるようだ。
「国際警察はさっきのスナイパーを捕らえ損ねたようですね」
ジョーは華麗なるテクニックで敵の銃弾を避けている。
1発が左ウィンドウから車内に飛び込んで来て、ジョーの左腕を掠めた。
「ちっ!」
「ジョー、大丈夫か?」
「掠り傷です。心配は要りません」
運転席は防弾ガラスになっていない。
ジョーはガラスをエアガンの銃把で粉々に割った。
寄って来た敵のライフルにエアガンのワイヤーを巻き付け、取り上げる。
敵のウィンドウは狙撃の為に開いていた。
その時羽根手裏剣が2枚華麗に舞った。
双方が走り続けている中、正確に敵を仕留めるとは……、と南部もその腕に改めて恐れ入った。
敵の額に羽根手裏剣が刺さり、仮面が割れたのが見えた。
やはりその下にはギャラクターの覆面を被っていた。
「博士、国際警察に無線で連絡を取って下さい。
 今回の事件はギャラクターの仕業だと。
 危険だから手を引くように言って下さい。
 科学忍者隊の出動を要請したと言えば、引き下がるのではありませんか?」
「やってみよう…」
博士が連絡を取り始めた。
ジョーは右側から来た敵の車に幅寄せをした。
そして、急ブレーキを掛けて、後方から来たバイクを転倒させた。
後は車とバイクが1台ずつ残っているだけだ。
「国際警察は、君が倒したギャラクターを見て、管轄外だと納得したようだ」
「解りました。後は変身して片付けましょう」
ジョーは虹色に包まれて変身した。
そして、公用車を急展回させ、狭い道を塞ぐように停めた。
「博士、絶対に車から出ないで下さい!」
ジョーはエアガンを手に、何時の間にか羽根手裏剣を唇に咥えていた。
敵兵が飛び出して来た。
「折角、アムーリ博士を唆して、復讐劇に仕立て上げようとしたのに、露見してしまって残念だったな」
ジョーは強い視線を放った。
「博士、後で国際警察に言って、ISO内を隈なく調べて貰うといいでしょう。
 スパイ若しくは盗聴器の類いが出て来るでしょうよ」
「どうやらそう言う事になりそうだな」
博士は車内に留まったまま、答えた。
「さて、ギャラクターと解れば遠慮はしねぇぜ!」
ジョーは跳躍し、公用車のルーフを越えて、反対側へと着地した。
全く危なげの無い闘い振りを、南部博士は安心して眺めている。
どうやら左腕の傷が掠り傷だと言うのは本当らしい。
ジョーが心配を掛けまいとしているのではないかと思っていたが、それは杞憂だったようだ。
「ふっ!」
「とうっ!」
とジョーの気合が掛かる度に、敵兵が薙ぎ倒されている。
公用車のフロントガラスに叩き付けられた者もいる。
車が激しく揺れた。
ジョーにとっては8人ぐらいの敵は、最早敵ではなかった。
羽根手裏剣で手を不自由にさせ、エアガンの三日月型のキットで顎を砕いた。
ある者には重い膝蹴りを喰らわせ、ある者の後頭部には肘鉄を与える。
瞬時の内に次々と敵兵は倒れた。
博士が気がつけば、全ての事は終わっていた。
「ジョー、ご苦労だった」
「まだ、残兵がいるかもしれません。油断は禁物です」
ジョーは辺りを見回してから変身を解いた。
「別荘へ急ぎましょう」
「本当に科学忍者隊が来たのですな」
国際警察のヤマムラ警部が現われて、辺りを見回した。
「遠目で見たが、1人蒼いマントの敏捷な忍者隊が闘っていたようだ。
 もう引き上げてしまったのですか?
 逢いたかったのだが……」
「残念ですが、忍者隊はあなた方には姿を見せないのです」
博士はそう言って、
「後はお任せしますぞ」
と、ジョーに車を出すように促した。
「では、宜しく」
ジョーも鹿爪らしく言って、公用車を出した。
左側のウインドウが壊れているので、風がビュンビュンと激しくジョーの髪を揺らした。
「ジョー、帰ったらすぐに傷の治療をしよう」
「本当に掠り傷です。急がなくても大丈夫ですよ」
ジョーはそう言ったが、南部は傷口を見て、決して掠り傷ではなかった事を看破していた。
弾丸こそ入っていないが、かなり傷口が抉れている。
「以前のように破傷風にでも罹ったらどうする?
 きちんと処置をしなければ行かん」
「あれはもうご勘弁願いたいですね。解りました。
 治療をお願いします」
ジョーは屈託無く笑いながらも、周辺への注意は怠らなかった。
しかし、もう追って来る者はないようだ。
「博士、緊張を緩めて貰っても大丈夫です。
 取り敢えずはもう追手はいないようですよ」
「そうか……。手間を取らせたね」
「いいえ、さっきも言った通りで、俺がいる時で良かったですよ」
「しかし、傷を受けながらも君の闘い振りは相変わらず素晴らしい」
「俺達は全員、何度も修羅場を潜り抜けています。
 今のなんか序の口ですよ」
「そうだな……」
南部はそう言ったきり、腕を組んで黙り込んでしまった。
10代の若者を闘いの渦に巻き込んでしまったのは他ならぬ自分だ。
その事を考えているに違いなかった。
ジョーにもその気持ちは解った。
(ですが、博士。俺は科学忍者隊に選ばれたお陰で生きる意味を持ったんですよ…)
そう言いたかったが、ジョーは黙っていた。
車内を沈黙が支配したまま、公用車は別荘の車寄せに到着した。
「博士!ジョー!」
科学忍者隊の4人が入口で待っていた。
「国際警察から連絡があって……」
健が心配そうに、車内の2人を覗き込む。
「あっと言う間に片付いちまったさ」
ジョーは車を降りながらニヤリと笑った。
「ギャラクターだったのなら、何故俺達に応援を頼まない?」
健が詰問したが、ジョーは笑うだけだった。
「たったの8人で暗殺部隊を組織していたんでな」
博士が車を降りて、ジョーの腕にポケットチーフを巻き付けた。
「それに呼び出す時間もなかった」
「博士、ジョーの傷は?」
ジュンが心配そうに訊いた。
「今すぐに処置をする。出血は少ないので大丈夫だろう。
 消毒をして簡単に縫合するだけで、すぐに処置は終わる」
「良かったぁ!ジョーの兄貴、心配したんだぜ」
「おら達、出番がなくて、ホッとしたような悔しいような……」
「出番がないって事は、事が無事に済んだって事でいいじゃねぇか。
 後は国際警察がアムーリ博士に事情聴取をして、事を片付けるだろうぜ」

その後、アムーリ博士がISOを辞職したと言う話を南部は聞いた。
南部の処に詫びに来る事はなかったが、別に彼は気にしてはいなかった。
それよりも、アムーリ博士の未来を心配して、深い溜息をついたのである。
(ギャラクターに身売りをするような事にならなければ良いが……)
デーモン博士のような悲劇はもう沢山だ。
南部はデスクを拳で叩いて、周囲の職員を驚かせた。
が、それを気にせずに立ち上がり、窓辺から外の夕陽を眺めた。
そろそろジョーが地下の駐車場にG−2号機を停めている頃だろう。
「私はこれで失礼する」
南部博士は職員達にそう告げた。
これから三日月珊瑚礁に行く用事がある。
「室長、お疲れ様でした」
職員達の声を背中に浴びながら、南部はマントル計画推進室のドアを出た。




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