『大鷲の健、行方不明?』

任務もなく爽やかな1日が終わろうとしていた。
サーキットで爽快な走りを存分に楽しんだジョーは、トレーラーハウスで気分良くシャワーを浴びていた。
髪を洗うと、その泡が鍛え上げられた身体を伝って下へと流れて行った。
少し長めの枯れた葉っぱのような色合いの髪からスッキリと泡が取れた。
それからジョーは身体をボディーソープを使ってタオルで洗い始めた。
プレスレットは外して小さな棚に置いてある。
身体を洗い終わった時にそのブレスレットが鳴った。
(ちっ、出動か…)
と思いながら、
「こちらG−2号、どうぞ」
とブレスレットを手に取って応答した。
シャワーの音は相手にも聴こえている事だろう。
『ジョー、シャワー中だったの?ごめんなさい』
ジュンの声だった。
「どうした?ジュン」
『健と連絡が取れないのよ』
「たまにはそう言う事もあるだろうぜ。心配性だな。
 何だってこんな時間に健に連絡を取ろうとしているんだ?」
『昼間っから応答がないのよ』
「飛行場には行ってみたのか?」
『ええ、勿論。がらんどうだったわ。
 セスナがないの』
「それで?」
『甚平が飛行場で待っているけど、未だに戻らないのよ』
ジョーはブレスレットを棚に戻してシャワーで全身の泡を洗い流し始めた。
「解った、俺も急いで飛行場に行く。
 おめぇも先に行ってろ」
『有難う、ジョー』
通信は切れた。
ジョーは急いで白いバスタオルで身体を拭き、清潔に洗濯した衣服を着込んだ。
髪を乾かしている暇はない、と思った。
そのままG−2号機に乗り込み、健の父親が遺した飛行場へと飛ばした。
「ジョー、早かったわね。あら、髪が濡れたままだわ」
「おめぇが切羽詰っているから、タオルドライだけで出て来たのさ。
 何だ?竜は呼んでねぇのか?」
「これから来るって。でも、G−5号機じゃ来られないじゃない?」
「此処は飛行場だぜ?」
「G−5号で来るには狭いわよ」
「まあいい。とにかく中はどうなってるんだ?」
相変わらず鍵は開けっ放しだったらしい。
中には甚平が健がいつも座っている椅子に座り、船を漕いでいた。
「荒らされた形跡はねぇな…」
「デスクの上にある本を見て。少し気になるの」
「地図帳じゃねぇか。栞が挟んであるな」
ジョーはそれを手に取って、パラパラと捲った。
地図を良く見ると、ある場所に赤いボールペンで丸印が付けられていた。
「ホントワール国じゃねぇかよ?」
「そうなのよ…。どうも調べた見た処、その場所には養老院があるらしいんだけど…」
「読めた!そう言う事か!」
ジョーはその瞬間、健の行動の全てが理解出来た。
「ジュン、心配するな。健は帰って来る」
「え?どうしてそんな事が解るの?」
「俺はあいつから聴いているんだ…」
健が1人の時に、彼を脅してセスナで逃げようとしたアーサー・ケリーの話だ。
ギャラクターのネタを南部博士か科学忍者隊に渡して金にするのが狙いだったのだが、ギャラクターの魔の手に倒れた。
その男が今際の際に、もしホントワール国にいる母親に逢う事があったら、自分は遠くで元気に働いていると言ってくれ、と言われたのだと言う。
その直後にホントワール国に行ったが、あのような事になって、約束は果たせなかった。
ジョーはその経緯をジュンに話した。
甚平はまだ眠っている。
「健は親父さんを偲びに行ったのではなく、約束を果たしにその婆さんを訪ねて行ったんだろうぜ。
 ホントワール国は今はギャラクターが手を引いて、友好的な国に生まれ変わっている。
 だから、心配は要らねぇ、と言ったんだ」
「何だ、そうだったの。健ったらジョーにだけ言ったのね……」
「まあ、どこへ行こうが個人の自由だからな」
「そうだけど、私達に一言言ってから出掛けてくれれば良かったのに」
「まあな。何となく自分の美徳をひけらかすような感じがして嫌だったんじゃねぇのか?」
「健らしいわね」
「人騒がせな事だ。今、ホントワール国に行っても、何の問題もねぇだろ?
 健の事だから、何かあったとしても切り抜けて来るだろうよ」
「そうね…」
「何だよ、それ!おいら心配してたのに…」
急に目覚めた甚平が怒り始めた。
彼はずっとこの場所でジュンに待機を命じられていたのだ。
「おいら、何の為に此処で待機させられてたんだよ、お姉ちゃん。
 ジョーまで呼んじゃって。
 お姉ちゃん、兄貴の事になると盲目だからね〜」
「まあ、仕方がねぇだろ?恋は盲目って言うだろう」
「確かにそうだね、ジョーの兄貴。
 髪の毛乾いてないじゃん。
 ジョーの兄貴も結構慌ててたんじゃないの?」
「ジュンがシャワー中に切羽詰った連絡を寄越すからよぉ。
 科学忍者隊のリーダーに何かあったのか、と思うじゃねぇか」
「結局おいら達、お姉ちゃんに踊らされたって事?」
「でも、俺が来なけりゃ事情が判明しなかっただろう?」
「そっかぁ。ジョーは気の毒だったね。
 風邪を引かないように気をつけなよ」
「甚平に言われなくても解ってらぁ」
ジョーは甚平の頭に手を乗せて、ぐしゃぐしゃにした。
3人は引き上げる事にした。
ジョーは颯爽とG−2号機に乗り込んだ。
「健は明日には帰って来るだろうぜ」
「そうね…。ジョー、騒がせてごめんなさいね」
「健は約束を果たしに行っただけなんだ。
 帰って来ても今夜の事は黙っておけよ。
 甚平も解ったな?」
「うん、解ったよ……」
「余計な事ぁ言う必要はねぇ。
 ああ、竜には解散と連絡しとけよ。じゃあな」
ジョーは軽く手を振り、ウィンドウを閉めた。
風が吹き込んで生乾きの髪が芯まで冷え切ってしまう。
「仕方がねぇ。もう1度洗い直すか……」
髪が首筋に張り付いて気分が悪かった。
飛んだ騒ぎになったものだ。
だが、彼はジュン達に言ったように健に今夜の話をするつもりはない。
約束を果たしに行った健に拍手喝采を贈りたい気分だった。




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