『ベルク・カッツェを追い詰めろ』

「さて、どうする?コンドルのジョー君。
 進退窮まったな!」
ベルク・カッツェの嫌な声が響いた。
ギャラクターの基地に潜入している時、科学忍者隊はそれぞれが分かれて行動していたのだが、ジョーは逸早く司令室へと辿り着いた。
ジュンと甚平は機関室に向かっている筈だ。
健もやがては此処に到着する筈だが、今はジョー1人だった。
迂闊な事に敵兵と闘っている最中に上から降りて来た檻に入れられてしまったのだ。
「はん!どうにでもしろよ。俺は檻の中にいても、こいつらを何人も倒せるんだぜ」
それはハッタリではなかった。
ジョーには投擲武器の羽根手裏剣と、エアガンもある。
それは手放してはいなかった。
ジョーは敵兵ではなく、遠くに離れたカッツェの米神にエアガンで狙いを付けた。
辛うじて避けられたが、山猫の耳を片方削ぎ取ってやった。
相当の衝撃音がした筈だ。
カッツェは少し及び腰になっていた。
「どうだ?今度は心臓を狙ってやるぞ」
ジョーは檻の中から、カッツェが先程押したスイッチに狙いを定め、羽根手裏剣でそのスイッチを破壊した。
それと同時に檻が上へと上がって行く。
「くそう。コンドルのジョーめ」
カッツェは逃げ出そうとしたが、そのマントの裾が4本の羽根手裏剣によって、カカカカっと床に止められた。
立ち往生したカッツェにジョーは一気に踊り掛かろうとした。
だが、マシンガンを手にした敵兵がジョーの周りをぐるりと取り囲んで、それを妨害する。
「どけっ!おめぇらに用はねぇっ!
 俺はベルク・カッツェに私怨があるんだ」
ジョーはまるで竜の戦法のように、敵兵に体当たりをして突き飛ばし、回転しながら長い脚でのキックを繰り返した。
そうして疾風(はやて)のように駆け抜けると、カッツェの前へとシュッと音をさせて現われた。
カッツェは止むを得ずマントを棄てようとしていた処だった。
「万事休す、はてめぇの方だったな」
ジョーがニヤリと笑った。
次の瞬間、マントがはらりと落ちて、カッツェの実体が消えていた。
「何!?」
「ジョー、後ろだ!」
その時、健の声がした。
ジョーが振り向いた時、カッツェが発砲した。
ジョーはすぐさま飛び退いたが、左肩口に弾丸が当たった。
カッツェが持つ36口径の銃弾は、コンドルの蒼いマントを突き抜ける事が出来なかった。
少々の衝撃があった程度で、ジョーは無傷だ。
彼が咄嗟に避けた事で、カッツェが狙ったマントの無い胸部には当たらずに済んだのである。
「残念だったな、カッツェ。
 科学忍者隊を1羽片付けられるかもしれなかったのにな」
ジョーの横に白い影がシュッと現われた。
「ベルク・カッツェ!観念しろっ!
 俺達2人が揃ったら、お前など一溜まりもないぞ」
健が叫んだ。
彼の眼が怒りに燃えていた。
カッツェと出逢う度に甦る感情があった。
「俺達2人はおめぇに私怨があるんだ。そう簡単には逃がさねぇぜ」
敵兵はカッツェと2人をぐるりと囲んでいたが、様子を窺っていて、手を出して来ない。
マシンガンの銃口を上げようとする者があれば、ジョーが羽根手裏剣で牽制した。
「カッツェ!いつも部下の生命を犠牲にして逃げ出すお前も、俺達に挟まれたらどうしようもあるまい」
健はジョーに目線で合図した。
早く攻撃を仕掛けなければ、カッツェはまた逃げ遂せる事だろう。
健とジョーは2人同時にジャンプして、カッツェの真上で交錯した。
そして頭上から渾身の力を込めて、武器を放った。
ジョーの羽根手裏剣は先程削いだ山猫の左耳部分を突き刺し、健のブーメランは後頭部から首を打った。
……筈だった。
だが、一瞬遅く、カッツェは地下に消えていたのだ。
「ちぇっ!またかよ!?」
ジョーが歯噛みをした。
「ジョー、仕方がない。とにかくこいつらを片付けてこの司令室を爆破しよう。
 爆破が早ければカッツェを巻き込む事が出来るかもしれん」
「どうだかな。毎回メカ鉄獣から見事に脱け出す野郎だからよ」
ジョーは闘いを引き受けた。
健がブーツの踵から取り出した爆薬を仕掛け始めた。
敵兵を薙ぎ倒して行くジョーは怒りに満ちていた。
羽根手裏剣を雨霰と降らせ、エアガンの三日月型キットで一気に敵兵を薙ぎ倒す。
そうかと思えば、もう次のターゲットを目視していて、側転をしながら長い脚で敵を跳ね飛ばして行く。
ジョーの脚力は強かった。
倒立したかと思ったら、1人の敵兵の首を挟んで、足で敵兵の渦の中に投げ込んだ。
存分に働いていると、健が爆破準備を終えて参戦して来た。
「ジョー、脱出するぞ」
「ラジャー」
ジョーは心残りを遺しながらも、健と共に風のように走り始めた。
後方から追って来る者はなかった。
爆弾が仕掛けられた事を知り、誰よりも早く撤退しようと右往左往している。
お陰で易々と脱出する事が出来た。

ゴッドフェニックスに戻ったジョーは、敵の基地が爆発するのを見下ろしながら、唇を噛み切る程に悔しがった。
「くそぅ…。あそこまで追い詰めておきながら、いつもいつも……」
そのジョーの左肩に健の手が乗せられた。
「痛みはないか?」
「あ?ああ…。何も問題はねぇ」
マントのその部分が黒く焦げている。
「カッツェが憎いのは俺も同じだ。
 ジョー、今度こそあいつを追い詰めてやろう」
「ああ、当然だ。奴を生かしておいては、ギャラクターを益々世に蔓延らせる事になるだけだぜ」
「俺達がやるしかない。ジョー、必ずやってやろうぜ」
「解ってる。俺は挫けやしねぇ。奴を斃すその日までは…」
ジョーはその瞳に強い敵愾心を燃やした。
先程の健と同じ眼をしていた。
「健もジョーも、任務は終わったんじゃ。
 少しはギャラクターの事を忘れる時間も必要じゃぞい」
操縦席から竜が呟いた。
「解っている。だが、この感情はどうしようもならない」
健が答えた。
リーダーとサブリーダーだけに共通している、ギャラクターによって親が死んだと言う抗いようの無い事実。
この2人はそうして思いを1つにしていた。
健はリーダーとして、復讐心に燃えてばかりはいられなかったが、カッツェに相対する時だけは、その感情をどうする事も出来なかったのだ。
「健と俺ではちょっと立場が違うけどよ。
 健の親父さんは地球を守る為に犠牲になったのだから」
ジョーの瞳が曇った。
「それに引き換え……」
「ジョーっ!」
健とジュンが同時にジョーのその後の言葉を止めた。
「ジョー、貴方は貴方なんだから、自分を責めるのは良くないわ」
「そうだ。ジュンの言う通りだ。
 俺達にとっては、お前はいつだって『コンドルのジョー』だ。
 何も変わっちゃいない。
 お前は何も負い目に感じる事なんかない。
 その怒りはベルク・カッツェにだけ向けろ。
 竜の言う通り、今は忘れようぜ。もうすぐ基地に到着する」
「解ったよ…」
ジョーはそれきり腕を組んで黙り込んだ。
気持ちの切り替えが出来ない。
博士に報告が終わったら、サーキットで飛ばそう。
何かあるといつも走る事に情熱を燃やす事で忘れようとするジョーなのであった。




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