『総裁Xを斃せ』

「最近ギャラクターも悪質になって来やがったな」
『スナックジュン』のカウンターではジョーが呟いていた。
隣には健が座っている。
「元々悪質だったには違ぇねぇが、前よりも手段が悪辣過ぎるぜ」
「ああ、それは俺もそう思う…。何かを焦っているんじゃないかな」
健も答えた。
「ベルク・カッツェの上には総裁Xなる者が存在しているらしい。
 カッツェは失敗を続けているから、恐らくはその総裁Xにせっつかれているんだろうぜ」
「中間管理職みたいなものだろう。
 ギャラクターの首領と言われている男も、その大ボスには頭が上がらないと見える」
「どんな奴なんだろうな?カッツェを押さえ付けている総裁Xってのは…」
「さあな。とにかく頭が切れる事は間違いない。
 ベルク・カッツェはIQ280だと言うが、どうも間抜けに見える事がある。
 総裁Xはその上を行くと言う事なんだろう」
コーヒーカップを置いて、健はジョーの表情を見た。
「総裁Xはとんでもない奴だと思う。
 俺達も未だにその姿を見た事はない。
 ギャラクター内部にもその存在を知らない連中もいるみたいだし、正体不明の恐ろしい奴だと言う事は間違いないだろう」
「俺達はカッツェだけではなく、そいつも倒さなければならねぇって事だ」
「そう言う事だな」
「あのさぁ!」
2人の会話に甚平が割り込んだ。
「そう言う話は基地でやって下さいよ。
 此処はゴーゴー喫茶ですよ」
「甚平…。そんな暢気な事を言っていられる状況ではなくなって来てるんだぞ」
健が諌めた。
「そうだ。俺達は自分の未来だけではなく、地球の未来の為に闘っている。
 俺はな。復讐の為だけに闘っているんじゃねぇんだ!」
ジョーはカウンターをドン、と叩いた。
「総裁Xもベルク・カッツェも一網打尽にしなければならねぇ。
 こうしてのんびりコーヒーを飲んでいていいのか?」
「ジョーの焦りも解るわ。此処まで悪質になって来ているとね」
ジュンも2人の会話に入った。
「でもよう。おら達はいつも何かあってから出動する以外にないからのう」
「そう言う事だ。要するに俺は後手後手に回っているのが気に喰わねぇのさ。
 カッツェと総裁Xを野放しにしておく限り、地球の人々や街に危害が加わり続けるんだ。
 人々はそれに怯えながら暮らして行かなければならねぇ。
 そんな世の中でいい筈があるか!?」
「そうね…。私達の本来の任務は『ギャラクターの本部を探し出す事』だった筈よね」
「そうだ。それが出来ていねぇ!
 一体いつまで掛かるんだ?!」
「ジョー、南部博士にも考えがあるのだろう。
 最終決戦が近づいている事は、博士が一番ヒシヒシと感じていると思うぜ」
ジョーは(俺には時間がねぇんだ!)と言う言葉を危うく呑み込んだ。
カッツェだけではなく、総裁Xを倒して初めて、地球は救われる。
ずっとカッツェだけを復讐の対象として考えて来たが、カッツェを斃した処で、総裁Xは別の首領を擁してギャラクターを再建する事だろう。
自分には時間がない事が何となく解って来ている今、そこまで待っているよりは、能動的に行動を起こしたい。
ジョーの焦りは他のメンバーよりも一歩踏み込んでいた。
その理由は絶対に仲間達には告げられない。
「俺は1人でもやるぜ。ギャラクターの基地を1つ1つ見つけ出しては潰してやる。
 今日からでもG−2号機で偵察に回ろうと思っている」
「それならみんなでパトロールをしているじゃないか。
 もっとパトロールを頻繁にして、念入りにやればいい。
 ジョーが1人でやる事じゃない」
健がリーダーらしく、ジョーを止めた。
「地上から見る事で、上空からのパトロールとは違う効果が望めるかもしれねぇんだぜ?」
「ジョーの言う事は解る。だが、1人では危険だ。
 もしそれをするなら、2人と3人のチームに分かれて、地・空・海の全てを見る必要がある。
 南部博士にも承諾を得なければなるまい」
「俺はこれ以上、総裁Xとカッツェに奪われる生命を見てはいられねぇんだ!」
「解ってるよ、ジョー」
健の声は穏やかだ。
彼にはジョーの焦りもある程度は解る。
健だって決して父親の復讐に賭ける思いを棄てた訳ではなかった。
「俺のお父さんを殺す命令を出したのは、カッツェではなく、総裁Xなのかもしれないな」
「おめぇの場合はそうかもしれねぇ。
 俺の場合は明らかにカッツェだ。
 だが、そのカッツェを陰で操る総裁Xを赦してはおけねぇ。
 奴が地球の人々に脅威を与えている事は事実だからだ。
 こんな処でとぐろを巻いている時じゃねぇんだ」
「解ったよ、ジョー…。博士に進言してみよう。
 奴らをのさばらせていては行けない事ぐらい、俺達は全員解っている。
 危機感を感じているのはジョーだけじゃない。
 だから、1人で突っ走るなよ。
 俺達はチームワークで動いているんだ。
 お前もそれは解っている筈だ」
「解っているとも。だが、全員のモチベーションがバラバラではしょうがねぇぜ」
ジョーはコーヒーを煽った。
「そんな事はない。みんな、ギャラクターとの最終決戦を覚悟しているのさ」
健がジョーの肩に手を置いた。
「総裁Xはカッツェ同様に斃さなければならない。
 みんな、解ってるさ……」
「ジョー、貴方は1人じゃなくてよ」
ジュンがカウンターの向こうから、ジョーの暗い表情を覗き込んだ。
「みんなでやりましょうよ。カッツェも総裁Xも……」
「そうだよ。おいらだって覚悟はしてるんだぜ」
先程は任務の話を嫌った甚平もそう言った。
「おらだってそうだわい。健じゃねぇけんども、『死ぬ時は一緒』、じゃろ?」
結局、ジョーの先走った焦りは仲間達によって諌められた。
まだこの時期は生きる事に対する希望を棄てていた訳ではないジョーだったが、何となく自分の死期が近い事を感じてはいた。
だからこその焦りだったのだが、持つべきものは良き仲間だ。
ジョーは彼らとの出逢いに感謝していた。
『勇気があって、みんないい奴で…』と後にカッツェに語ったその言葉に嘘偽りはこれっぽっちもなかったのである。




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