『鉄片を操るメカ鉄獣(中編)』

科学忍者隊は廃墟と化した街に降り立った。
生き残った人々は国連軍が避難をさせ、今は無人の状態だ。
まずは甚平が消えた現場に行き、例のマンホールを探す事になったのだが、案の定同じ場所にマンホールは存在しなかった。
「博士の読みが正しかった事になるな…」
健が呟く。
「だとすれば、地下にはメカ鉄獣がいたと言う事になるぜ」
「じゃあ、甚平はメカ鉄獣の中に捕らえられているのね」
地下を自由に移動し、鉄片を自在に操れるメカとは、これは厄介だ。
「とにかくメカ鉄獣に乗り込むしかあるまい」
健は言ったが、どうしたら良いのか想像も付かない話だ。
「メカ鉄獣が現われるのを待つしかねぇって事か?
 甚平から連絡もねぇしな」
「折角ゴッドフェニックスを強化して貰ったのに。
 甚平、大丈夫かしら?」
ジュンは本当の姉さんのように、甚平を心配している。
その気持ちは健やジョー、そして、ゴッドフェニックスに残っている竜だって変わりはしない。
「竜、赤外線フィルターで辺りを見てくれ。特に地下だ」
『ラジャー』
健の指示に答える竜の声がした。
暫しの沈黙の後、竜から返信が来た。
『地下に大蛇のようなメカ鉄獣がいるぞいっ!』
「よし、それぞれ分かれて出入口を探そう。
 竜は上空で待機していてくれ」
『解った!』
「全員、特にマンホールに注意してくれ」
「ラジャー」
健、ジョー、ジュンの3人は三方に分かれて探索を開始した。

次にマンホールに落ちたのはジュンだった。
彼女の場合、わざと落ちた風もある。
健とジョーのブレスレットにバードスクランブルが届いた。
2人は風のように問題のマンホールに到着した。
「ジュンの奴、わざと捕まったな」
健が苦笑いをする。
「潜入するには捕まった振りをするのが手間が省けて一番いいだろうぜ」
ジョーがそう言った時、マンホールの形状が変化して、蔦のように伸び、彼の足首に絡みついた。
ジョーは咄嗟にエアガンを抜いたが、それを腰に戻した。
「健、願ってもねぇチャンスだ。このまま引き込まれようぜ」
「ああ」
健にも蔦が襲い掛かって来た。
2人とも、このような攻撃は充分に避けられたのだが、敢えて捕まる事にした。
長い長いマンホールを抜け、2人は華麗に床に着地した。
想像通り、そこは檻になっていて、ジュンと甚平がいた。
甚平はバードスタイルに戻っていた。
ジュンが来た事で、子供は救い出したと言う口実が使えるからだ。
「ほう、飛んで火に入る科学忍者隊の諸君。
 子供を餌に4人も捕まえる事が出来た」
喜んでいるのは勿論カッツェだ。
「此処にいた子供は逃がしたわ。
 私達を捕まえて、無事で済むと思って?」
ジュンがキッとカッツェを睨んだ。
「ほう、お嬢さん。相変わらず威勢がいいねぇ。
 だが、いつまでそうしていられるかな?
 この鉄格子は簡単には破れまい。
 後で吠え面を掻くなよ」
ギャラクターの隊員がバズーカ砲のような物を担いで、4人登場した。
「健、あれは火炎放射器だぜ」
ジョーはすぐにその武器を見破った。
「文字通り君達を焼き鳥にしてやろうと思ってな。
 ハハハハハハハハハっ!」
カッツェ独特の高笑いが反響し、マイクで拡散しているような感じに響いた。
「そのマントでどこまで防げるかな?
 焼き鳥が出来るのをのんびりと見物する事にしよう」
火炎放射器が容赦なく、火を吹いた。
「お姉ちゃん、熱いよう…」
「竜がいないが、竜巻ファイターをやるしかないだろう」
健が小声で呟いた。
相談するまでもなく、健とジョーが一番下、その上にジュン、その更に上に甚平が乗って、フォーメーションを作った。
「科学忍法、竜巻ファイター!」
甚平の掛け声で、回転を始めた。
火炎放射器の炎は、そのまま彼らが作る竜巻に弾き返されて、放射している側の人間を焼いた。
人体が焦げる嫌な臭いが充満した。
カッツェは「おのれっ!」と言いながら飛び退った。
その眼の前に檻を破った4人が飛び降りた。
「くそぅ、科学忍者隊め!」
「俺達を甘く見て貰っては困るぜ、ベルク・カッツェ!」
健が凄みを利かせた。
カッツェがマントを払うように右手で合図をすると、ギャラクターの隊員達がマシンガンを抱えてわらわらと現われた。
「ジュン、甚平!此処は俺達に任せて、機関室を爆破しろっ」
「ラジャー」
ジュンと甚平は敵兵を武器で蹴散らしながら移動を始めた。
健とジョーはその2人を援護する形で闘いを挑んだ。
2人とも飛び道具を持っている。
武器を縦横無尽に使って、まずは2人を行かせた。
そうして、2人は背中合わせになった。
「ジョー、行くぜ!」
「おう!」
2人は阿吽の呼吸で敵兵を薙ぎ倒し始めた。
健のブーメランが華麗に宙を舞う。
全身の切れがいい。
白いマントが舞う毎に敵兵が倒れている。
健の闘い方は派手だった。
ジョーと同様に全身を余す事なく使い果たしている。
空手のようなポーズを取って構えたりもして、なかなかの見せ場を持って行く。
ジョーは『溜め』のポーズは取らず、ひたすら動きを停めない。
そして、着実に、確実に敵を仕留めている。
羽根手裏剣とエアガン、そして自らの肉体の連携プレーは見事と言うしかない。
2人とも眼にも停まらぬスピードで敵兵を薙ぎ倒して行く。
科学忍者隊と初めて対する敵兵が殆どなので、彼らは恐れを成す。
しかし、カッツェに処刑される事を恐れ、闘いを挑んで来る。
彼らの欠点は全体的に覇気がない事、そして余りにも多勢過ぎる事だ。
こちらは2人。
同士討ちの心配はなかった。
ジョーの長い脚での華麗な蹴りが決まった時に、地震のようにメカ鉄獣が揺れ始めた。
ジュン達が爆破したのではない。
どうやら大蛇のようなメカ鉄獣は地上に出ようとしているようだ。
『健!メカ鉄獣が地上に頭を出したぞいっ!』
「解った。頃合いを見て脱出するから、俺達を拾ってくれ」
『ラジャー。気をつけろよ、健』
「ジュン、そっちはどうだ?」
『もう少しよ』
「解った。急いでくれ。
 爆弾を仕掛け終わったら、すぐに脱出しろ」
『ラジャー』
健が通信をしている間にも、ジョーは闘いを続けていた。
そのキレのある身体の動きはまるで演舞を見ているかのようだ。
全く無駄な動きがなかった。
彼が動く度に敵兵が必ず倒れた。
カッツェは何時の間にか消えていた。
メカ鉄獣を動かす指示を出したのは彼だろう。
ジョーはペンシル型爆弾を何本も、羽根手裏剣を投げる要領で投げた。
「健、長居は無用だぜ」
「ああ!」
2人は闘いながら、退却を始めた。
さっき落ちて来たマンホールが出口になっている事だろう。
ジョーが下になり、再び竜巻ファイターで出入口を破った。
その頃、ジュンと甚平も別の出口を見つけて、脱出していた。




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