『国連軍選抜射撃部隊との共闘(2)』

ジョーはテントの中に入ると、簡易ベッドに横たわった。
2段ベッドがいくつも連なっている。
野営テントとは言っても、なかなか大掛りだ。
下にレニック、上がジョーの場所になっていたので、彼は梯子も使わずに軽々とジャンプした。
横たわったと言っても、両腕を枕にし、薄暗い部屋のテントの屋根を見つめているだけである。
レニックは下で微睡み始めたようだ。
ジョーは静かに頭を巡らせた。
敵の火炎放射器が17門以上あった場合の配分を考えたり、その場合の手順をシュミレーションしたりしていた。
当然、実際の砲門数が明らかにならないと、具体的な手順を決定する事は出来ない。
ジョーの考えでは、火炎放射器の砲門が左右にしかないとは考えにくい。
恐らくは、前側に大型の物があるのではないかと踏んでいる。
つまり、最低でも17門ある可能性が高いのではないか、と考えているのだ。
その場合、冷凍光線バズーカレーザー砲がどこまで持つのか…。
その1本が大規模だった場合、持たない可能性もあるではないか?
レニック中佐に2本担当して貰い、残りの4本のバズーカ砲の全てをジョーが残りの1本に注ぎ込む。
その位しないと無理かもしれない。
本数がそれ以上ない事を願った。
そうでなければ、残りの冷凍光線バズーカレーザー砲を更に分けなければならないので、こちらは不利になる。
普通に考えて戦車なら、主砲は前にあるものだ。
戦車型のメカである事を考えると、それは確実にある物と考えられる。
その時、ジョーのブレスレットが鳴った。
「こちらG−2号、どうぞ」
『こちらG−1号。ジョー、アマナスシティーに例のメカ鉄獣が出現した。
 今、俺達はそっちに向かっている。
 データが取れ次第、南部博士経由でそちらにデータを送る。
 輸送機で移動を始めていてくれ』
「ラジャー。データの方は頼んだぜ」
これだけの遣り取りで、既にレニックは覚醒しており、大声で全員に指示を出した。
「出動だ!目標はアマナスシティー!」
「了解!」
マカランが輸送機に向かい、それぞれのメンバーが冷凍光線バズーカレーザー砲を担ぎ始めた。
1人で2本持つ者がいて、ジョーとレニックはそれを運ばずとも、輸送機に持ち込まれた。
レニックはテントを振り返り、慎重に内部をチェックした。
戦闘開始に当たり、忘れ物があっては余りにもお粗末だ。
軍人を束ねる者として、そう言った処には管理が行き届いていた。
こう言った処がカッツェとは違う、と脇にいたジョーはそう思った。
決して部下任せにはせず、自ら点検を行なうのだ。
最後に彼ら2人が輸送機に乗り込み、輸送機はマカラン少佐の手により空に舞い上がった。
ジョーは最初に自分のG−2号機の格納庫を再確認し、いざとなったらすぐに飛び出せるかどうかをチェックした。
他にもジープが4台あった。
レニックを入れて15人のメンバーはこれに分乗して駆けつける事になっている。
輸送機はアマナスシティーの中に入り、適度な広さの空き地に着陸した。
「こちらG−2号。アマナスシティーに着いたぜ。
 データはどうなっている?」
『今、博士に電送した処だ。そちらにもすぐに届くだろう。
 火炎放射器は左右に8門ずつの計16門に加えて、前方に3倍の太さの物が1本付いている』
「やっぱりな。俺の想像通りだ。
 大体シュミレーションは出来ているから心配すんな」
ジョーはニヤリと笑った。
やがて、博士から写真と図面が電送されて来た。
それをレニックが手に取って、輸送機の中のテーブルに広げた。
ジョーはその図面を見て、先頭部の太い火炎放射器を指差した。
「これを俺がやる。冷凍光線バズーカレーザー砲を4本俺にくれ。
 多分、こいつが一番厄介だ。
 そして、レニック中佐には2本、他の人達には1本ずつ担当して欲しい」
「いいだろう。それがベストな配置だと思う」
レニックはそう言って、全員の配置を指示した。
自分はジョーに一番近い、大型戦車型メカ鉄獣の左側前方の2門を担当する事にした。
いざと言う時にはジョーの援護に回れるかもしれない、と考えたからだ。
ジョーの腕を考えると、恐らくは援護を必要とはしないだろうが、用意周到なのは軍人としての癖なのかもしれない。
「健!メカ鉄獣を地上から狙える広い場所に誘き出してくれ!」
『解った!MX−58地点の山岳地帯にある盆地はどうだ?』
「そりゃあいい。俺達も車に分乗してこれから向かう。頼んだぜ!」
『ああ、此処は竜の腕を信じてくれ』
「解ってるよ!」
ジョーはレニックにメカ鉄獣を誘き出す場所を伝え、G−2号機に乗り込んだ。
輸送機はその場に乗り捨てだ。
操縦士のマカラン自身も狙撃手として参加するからである。
国連軍選抜射撃部隊の連中も4台のジープに分乗して、ジョーのG−2号機に続いた。
ジープが着いて来れる程度のスピードで、ジョーは移動を始めた。
見知らぬ土地だが、G−2号機にも小さなレーダーは付いている。
視界が不良な時には計器走行も出来る設計になっていた。
やがて山岳地帯が拓け、健が言っていた盆地に到着した。
此処で竜が敵を誘き寄せるのを待ち受ける。
G−2号機が欠けているので、時間が掛かる事だろう。
ゴッドフェニックスの性能が落ちている筈だ。
此処で問題なのが、バズーカ砲の射程距離だ。
500メートルが限界なのだ。
それ以下まで近づかなければならない。
ジョーは難なくクリアするに違いないが、国連軍選抜射撃部隊が気になる。
訓練された軍人ではあるが、近づいて気付かれぬように冷凍光線を発射出来るのだろうか?
レニックが腕利きばかりを集めた筈だが、心配ではあった。
1本につき、1発しか発射は出来ない。
つまり失敗は許されないのだ。
ジープは2台ずつ、反対側に回って潜んでいる。
敵が来る方角によって、隊員達が走る距離も長くなる可能性があった。
竜に配置は告げてあったが、計算通りに敵のメカ鉄獣が下りて来るとは限らない。
重さ30kgのバズーカ砲を担いで、どの程度走らされるのか。
軍人達の体力頼みだ。
殆ど同時にバズーカレーザー砲を発射しなければ意味がないのだ。

竜はG−2号機が欠け、性能が落ちているゴッドフェニックスで必死に敵の火炎放射を避けながら、この山岳地帯へと逃げて来た。
勿論、大型戦車型メカ鉄獣が追って来る。
戦車型の癖に、下側と後方から大きくジェット噴射をして飛んでいる。
バードミサイルも発射出来ないゴッドフェニックスでは、ジェット噴射口を破壊する事は不可能だった。
健は自分が敵のメカの中に潜入する事にした。
「健、危険よ」
「解っている。だが、内部から機関室を爆破すれば、敵は地上に落下するだろう」
「おいらも行くよ。火炎放射器の発射装置も止めたら?」
「いや、それは無理だ。機関室とは別に制御室がある筈だ。
 時間的に猶予がない。奴らを地上に落とすだけだ」
健はトップドームへと上がって行った。
竜は冷やかしをするように見せ掛けて、戦車型メカ鉄獣に近づく。
かなりの大きさだ。
ゴッドフェニックスの3倍はあるだろう。
健は隙間を見つけて、侵入して行った。
「健の奴大丈夫だろか?」
竜は心配しながら、今の経緯をジョーに伝えた。
『健の奴、無茶をしやがるぜ。だが、確かに有効な方法だ。
 竜、しっかり健をサポートしてくれよ』
「解った!」
竜は操縦桿を引いた。

ジョーは地上から健がメカ鉄獣に乗り込んだのを目視した。
それが見えたのは彼だけだろう。
「今、ガッチャマンがメカ鉄獣の中に潜入する事に成功した。
 タイミングを計って機関室を破壊し、此処に落下させる作戦だ」
通信機から流れるジョーの言葉にレニックが驚いていた。
彼らには見えなかったのだ。
「落下時に巻き込まれないようにくれぐれも気をつけてくれ」
『解った。部下達には伝達しておく』
レニックの返答があった。
ジョーは健の事を心配はしていなかったが、脱出時に上手く竜が拾ってくれる事だけを願っていた。
やがて健がヒラリと飛び出して来るのが見えた。
メカ鉄獣は外見上の変化はなかったが、急にジェット噴射が切れたのが見て取れた。
「ようし、そろそろ出番だ。レニック中佐」
『解った!総員配置に着かせる!』
「宜しく頼むぜ、中佐。飛べなくなってもまだ奴らは走り回って街を破壊する事が出来る。
 みんなの腕に街を守れるかどうかの運命が掛かっているんだ」
『任せておくがいい。ジョー。
 そっちは前方の特大放射器に集中してくれ』
レニックの余裕さえ感じさせる声に、ジョーは安堵した。
部下の腕に絶対の信頼を置いているのが解ったからだ。
ジョーはG−2号機に積んだ4門の冷凍光線バズーカレーザー砲を確認して、コックピットを開いた。
4門を連続して発射しなければならない。
(それで破壊出来ればいいが…)
実は一番心配なのは、自分の担当箇所だったのだ。
どの位の耐性があるか、想像も付かない。
ある程度の損傷を与える事は出来ても、致命的に壊滅させる事が出来るかどうかは、全くの未知数だった。
それはレニック以下の射撃部隊も危惧している事だった。
余裕があれば、もっとジョーに本数を回したい、と言うのがレニックの本音だった。
だが、無い物ねだりをしても仕方がない。
ジョーは冷凍光線で出来るだけ冷凍させた後、G−2号機のガトリング砲で破砕するつもりでいた。
戦車型メカ鉄獣はジョーを狙って動き始めるに違いないが、小回りの利くG−2号機で出来るだけ損傷を与えたい。
その後、ゴッドフェニックスに合体してバードミサイルでメカ鉄獣を破壊する。
彼の中ではそう言った筋書きが出来ていた。
ただ、そう簡単には問屋が卸さないだろう、と言う事もジョーは知っていた。
間もなく夜が明けようとしていた。




inserted by FC2 system