『国連軍選抜射撃部隊との共闘(4)/終章』

ジョーはG−2号機に乗り込み、ノーズコーンが開かれて、剥き出しの不安定な状況へ置かれた。
「竜、敵のメカ鉄獣に向かって、45度の角度で突進してくれ!」
『ええっ?!それは危険じゃぞい?』
『いや、ジョーの指示通りにやるんだ、竜』
竜と健の遣り取りが聴こえた。
健はジョーに任せると腹を括っている。
『解った!どうなっても知らんぞいっ!
 ジュン、甚平、しっかり捕まってろっ!』
竜がまず上昇をして、それからジョーの指示通りの角度を付けた。
ジョーは勿論、戦車型メカのハッチ部分から急に伸びて来た火炎放射器を破壊するつもりだった。
『上部の火炎放射器が動き出した。ゴッドフェニックスを狙い始めたぞいっ』
「解ってる。だが、射程距離内に入らない程度に近づいてくれ」
ジョーは落ち着いていた。
ガトリング砲は1kmの距離なら問題ない。
「火炎放射器の威力から考えて、俺のガトリング砲よりは射程距離が短い筈だ。
 健、見ていてどう思う?」
『俺もジョーと同じ意見だ。ジョー、上手くやってくれよ』
「ラジャー。任せとけっ!」
ジョーはそれっきり言葉を発しなかった。
G−2号機のコックピット内に緊張感が走る。
彼は今、G−2号機と一体化していた。
竜は指示された角度を保っていた。
ジョーは目視出来る敵の射程距離ギリギリまで来た処で、ガトリング砲の発射ボタンを優雅に押した。
出来るだけ近づいた事で効果は覿面だった。
最後の火炎放射器は一部が凍っていた事もあり、G−2号機のガトリング砲の前に粉々に崩れ去った。
ジョーはホッと胸を撫で下ろした。
自信家の彼だが、やはり緊張を強いられたのだ。
これを失敗したら、ゴッドフェニックスへの攻撃を避けられなかった事だろう。
『竜、急速上昇!………ジョー、やったな!』
健の声が聴こえた。
「ようし、後は超バードミサイルで一気に叩き潰してやるぜ」
ジョーはゴッドフェニックスのコックピットに戻り始めた。
彼がコックピットに戻ると、少しざわめいていた。
「どうした?」
「メカ鉄獣が街中に戻ろうとしているのよ」
ジュンが答えた。
「もう武器はねぇ筈だ。あの巨大なタイヤで街を押し潰して回る気か?」
「いや、そうじゃない。
 俺達に超バードミサイルを使わせない作戦に違いない」
健は冷静に分析した。
「そうか。くそぅ。街を盾に取ろうってぇのか!?
 相変わらず汚ぇぜ!」
「アマナスシティーは殆ど壊滅状態だが、その状態から復興する事は可能だ。
 超バードミサイルで粉々にしてしまえば、もう全くのゼロになる」
健が腕を組んだ。
「ああ、もしかしたらどこかに生き残りの人が避難しているかもしれねぇんだぜ」
ジョーが歯軋りしそうな表情になった。
「空を飛べなくしてしまった以上、後はあのタイヤをパンクさせ動けなくすればいいんじゃないの?」
甚平がそう提案した。
「いや、戦車のタイヤは生半可なもんじゃねぇ。
 そんじょそこらの銃弾ならタイヤに吸い込んでしまう!」
ジョーはその事を良く知っていた。
『然様。その通りだ。だが、国連軍は特殊弾を持っている』
ジョーのブレスレットに、もう撤退したかと思っていたレニック中佐の声が流れて来た。
『南部博士が開発したものだ。輸送機を飛ばすから、君にそれを渡そう。
 君のマシンから発射する事が可能だ』
「解った」
ジョーはトップドームへと飛び出した。
マカランが操縦する輸送機がゴッドフェニックスに近づいて来た。
輸送機の窓が開けられた。
マカランの反対側に座っていたレニックが、帯のように連続した弾丸をジョーに向かって投げた。
ジョーはジャンプしてそれをパシッと確かに受け取り、見事に回転してトップドームへと着地した。
「助かったぜ、レニック中佐!」
『礼は後でいい。健闘を祈る』
輸送機は旋回して離れて行った。
ジョーは一旦コックピットに戻った。
「こいつをガトリング砲にセットする。
 そして、俺を地上に降ろしてくれ。
 敵を元の盆地に戻るように引き寄せながら、この銃弾でタイヤを1つ1つ潰してやる」
「ジョー、危険だぞ」
「だが、エアガンにセット出来る物ではねぇし、G−2号機以外に対応出来ねぇ」
「それもそうね。私達のメカでは無理だわ」
「銃弾は300発ある。
 敵の車輪は10個だ。
 1つに付き、30発も使えれば、潰す事は夢じゃねぇ」
「何かおいら達の活躍のしどころがないじゃんか」
「甚平!」
ジュンが窘めた。
「そう言う事もあるわさ。いつもは健が美味しい処を持って行くじゃろ?」
竜もそう言って諦めの表情を見せた。
「じゃあ、行くぜ!」
ジョーは銃弾を持って、またG−2号機へと取って返した。
「銃弾のセッティングが終わったら連絡するから、そうしたら俺を降ろしてくれ。
 それまで敵を見張っていてくれ」
『ラジャー』
竜が明快な回答を寄越した。

ジョーはG−2号機に戻った。
今日は忙しい事だ。
ノーズコーンの中で、弾丸の入れ替えをする。
少し時間が掛かったが、セットは10分程で完了した。
ジョーはその間にも焦りの色を濃くしていた。
「竜、OKだ。手頃な場所で、俺を降ろしてくれ」
『ラジャー』
オートクリッパーで地上に投げ出されるような形で、ジョーは地に降りた。
「行くぜ!怪物戦車め!」
ジョーは自分の持てるドライビングテクニックの全てを使って、大型戦車の周囲を巧みに回り、自分に注意を惹き付けた。
大型戦車型メカ鉄獣はそれに釣られて進路を変えた。
街ではなく、先程の山岳地帯の盆地に戻るコースだ。
「しめた!このまま引き寄せるぞ」
『ジョー、後ろに気をつけろ。
 奴に圧し掛かられたらG−2号機も一溜まりもない』
健の声が聴こえた。
「解っている」
ジョーはステアリングを切りながら、答えた。
射撃部隊の輸送機がミサイルを撃って援護してくれた。
輸送機にはそれ程の戦闘装備はないが、ミサイルで戦車を後ろから追うようにしたり、ジョーに近づき過ぎる時には、歯止めにもなってくれた。
「ありがてえっ!」
ジョーはぐるりとスピンをしたように見せ掛けながら、まずは1本のタイヤを狙った。
特殊弾はタイヤに吸い込まれる事なく、爆発を引き起こした。
ジョーはそのまま敵の右側面にあるタイヤに一気に弾丸をぶち込んだ。
右側面の5つのタイヤが次から次へと爆発して行った。
ジョーは続いて、反対側に回り、左側面のタイヤに惜しげもなく特殊弾を撃ち放った。
ついにタイヤは大破し、大型戦車は立ち往生した。
「よし、竜、回収してくれ」
オートクリッパーが伸びて来た。
後は超バードミサイルで敵を木っ端微塵にすればいい。
ジョーは勇躍コックピットに戻った。
「ジョー、超バードミサイルは必要なさそうだ」
「あん?」
「お前の働きで、既に内部では異常が起こっている。
 このまま様子を見よう。
 多分超バードミサイルを撃ち込むまでもなく、爆発するだろう。
 経費節減。いい機会だ」
ジョーは此処までの活躍で、随分と疲れていた。
まあ、それもいいだろう。
じっとスクリーンを窺った。
敵の内部では小さな爆発が何度か起きていた。
やがて大きな火柱が上がり、完全に大型戦車型メカ鉄獣は大破した。
「やったな!」
健がジョーに握手を求めて来た。
「全く今回は国連軍選抜射撃部隊に助けられたぜ」
「博士が武器を用意していたのもな。
 さあ、礼に行こうぜ」
射撃部隊の輸送機が地上に降りていた。
ゴッドフェニックスもその近くへと着陸する。
全員がトップドームから華麗に着地した。
「どうも、助かりました。皆さん」
まずはリーダーの健が挨拶した。
レニック中佐はいつぞやの射撃訓練の時に彼らの素顔を見ている。
どの少年なのかはすぐに解った。
「南部博士の英断と、彼の腕による勝利だよ」
と、ジョーの肩を叩いた。
「素晴らしい。我々の中では、誰も君に敵う者はおらん。
 残念な事だがね」
マカラン少佐もそれに続けた。
「我々もこれから修行に励みますよ。
 プロが負けてばかりはいられませんからね」
「とにかく、今回ばかりは俺達だけでは勝てなかった。
 射撃部隊がいたからこそ、あのメカ鉄獣を倒す事が出来たんだ」
ジョーが述懐した。
「我々だけでも駄目だった。君の腕があったからこそだ。
 またこんな事で役に立てるのなら、喜んで協力しよう」
レニックがジョーに右手を差し出して来た。
ジョーは少し戸惑ったが、その手を取った。
「じゃあ、我々はテントまで引き上げなければならん。
 ゴッドフェニックスも早く南部君の元に戻って首尾を報告してやってくれたまえ」
「………………………………………」
「では、また逢おうっ!」
レニックとマカランは、既に部下達が乗り込んでいる輸送機へと乗り込んだ。
そして、名残を惜しむ様子も見せずに飛び立った。
また任務で逢う事もあると言う確信でも持っていたのか。
ジョーは健と顔を見合わせ、そして仲間達の表情を確認するように見回してから、トップドームへと跳躍した。
何となく心地好い疲れを感じた。




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