『夜間の自主訓練』

三日月珊瑚礁基地のトレーニングルームの設備は非常に充実していた。
とにかく広い。
そして部屋の高さも10階建てのビル程度もあるのだ。
BC島から戻って以来、暫くの間銃創の治療の為に療養せざるを得なかったジョーは、その身体の勘を取り戻そうと精神統一を図っていた。
密かに病床で筋トレは続けていたし、そっと病室を抜け出して走り込みもしていた。
そして、回復の兆しが見え始めると、ジョーは夜間にこのトレーニングルームにやって来て、身体を馴らしていた。
そして今日は実戦をシュミレーションして身体を動かしてみよう、と考えていた。
この部屋は実戦に備えて、攻撃を仕掛けて来るようセッティングをする事が出来た。
ジョーは先程、そのパターンを『ランダム』に設定して、バードスタイルに変身してからこの部屋に入った。
トレーニングルームはわざと薄明かりが灯る程度の明るさにした。
暗い方がそれだけ戦闘の勘を鍛えやすいからだ。
ジョーは部屋に入ってから5分後に『攻撃』が始まるようにセットしていた。
深く息を吐き、呼吸を整え、無心になってタイミングを計った。
まずはレーザー砲が攻撃を仕掛けて来た。
動く標的を相手に羽根手裏剣とエアガンを試してみる。
自分の動きに乱れがない事を感じ取ると、ジョーは高く跳躍した。
高い高い天井を蹴り、身軽に床に着地する。
その間にレーザー砲をエアガンで2基沈黙させた。
胸の傷口が少しだけ痛んだが、取り敢えず身体は衰えていないようだ。
戦闘ロボットが次々と襲い掛かって来る。
これもジョーは軽々といなした。
蹴りもパンチも確実に入っている。
相手がロボットだけに、ギャラクターの戦闘員とは違って、こちらの身体のダメージが大きくなる。
従って普通のプログラムでは、戦闘ロボットの出現数は少ないのだが、ジョーが設定した『ランダム』では、戦闘ロボットの数も増えるのだ。
戦闘ロボットにはいくつかのポイントがあり、そこを破壊する事で動きを止めるように出来ていた。
合間に襲って来るレーザー砲を交わしつつ、ジョーは確実に戦闘ロボットの動きを止めていた。

いつの間にか南部博士が隣接するプログラムルームから、そっとジョーの自主訓練を見ていた。
ジョーはBC島で重傷を負った。
彼が回復するまでの間、出来る限りジョーを病室に閉じ込めておいたのだが、隙を見ては病室を抜け出して、此処で黙々とトレーニングをしていたのは知っていた。
ジョーが自分の身体を追い詰めるタイプなのは解っている。
しかし、少しでも呼吸(いき)が乱れる様子があれば、南部はすぐにこのトレーニングプログラムを解除するつもりでいた。
「博士…」
健がそっとプログラムルームへと入って来た。
「お、健か…」
「やっぱりあいつは此処でしたか。療養している病室をそっと覗きに行ったらいなかったので…」
「ああ。どうやら数日前から夜中にこっそり自主訓練をしていたようだな」
南部が腕を組んだ。
「しかし、あのシャープな動きを見たまえ。
 私にはジョーの鋭さに全く一点の曇りもないと思うのだが…。
 健、科学忍者隊のリーダーとして、ジョーの動きをどう思う?」
健は黙ってじっとジョーの動きを眼で追った。
「……まだ傷の痛みが残っているようですが、動きを見る限りでは出動には何の支障もないように思います。
 自分の身体を極限まで苛め抜く事で戦闘能力をより高めようとする…。
 さすが科学忍者隊G−2号、『コンドルのジョー』ですよ。
 あの闘争本能にはつくづく感心します」
「お前もそう思うか…。しかし、それを掻き立てているものが何かと考えると…」
南部はそれ以上言えずに、腕組みを解いた。
「しかし、戦闘ロボット相手では本当の実戦とは言えません。
 俺がジョーと組み手をしてもいいですか?」
健が真っ直ぐに南部を見た。
「解った。いいだろう」
南部はプログラムを解除し、トレーニングルームの照明を点けた。
ジョーが動きを止め、射るような瞳でこちらを見た。
『ジョー、健がお前の組み手の相手をすると言っている。どうかね?』
南部はマイクに向かって静かに言った。
「望む処ですよ、博士」
ジョーがニッと笑った。
健は南部に頷いて見せると、バードスタイルに変身してトレーニングルームへと向かうのだった。




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