『ショックガン導入テスト』

「これは私が先日ゴッドフェニックスに乗り込んでいた時に、外での君達の格闘振りを録画していたものだ」
南部博士はビデオテープを取り出して、再生機に掛けた。
スクリーンに大写しに彼らの活躍が映っている。
定点カメラかと思いきや、しっかりと1人1人追っていた。
「それぞれが自身の得意技を最大限に発揮していて良いと思うのだが……」
そこで南部は言葉を濁した。
「以前、ジョーにガンテストを行なって貰った事があるのだが、いずれ君達にもショックガンを持って貰おうかと思っている。
 ジョーは問題ないだろうが、他の4人には訓練が必要だ」
「それって、一昨日俺がテストしたあの銃ですか?」
ジョーは事前にテストをさせられていたらしい。
「そうだ。その銃だ。
 ジョーに使って貰って、前回の本体が加熱するなどの設計ミスは改善している事が解った。
 だが、前回の銃同様反動が強い。
 ショックガンだから、敵は一時的に身体に痺れを起こす物で、殺傷能力はない。
 これが使えれば闘いには有効に能力を発揮する筈だ」
「俺もそれを持つんですかね?」
ジョーは今のエアガンに愛着があった。
「いや、君には今までのエアガンで問題なかろう。
 だが、皆の訓練に付き合って貰いたい」
「ハッキリ言いますが、あの銃は反動が強いので、手首を傷めかねません。
 その危険を犯してまで使う良否については、俺は疑問符を投げ掛けたつもりでしたが」
ジョーは腕を組んで、もう1度その疑問符をぶつけた。
他の4人に銃は必要だろうか?
エアガンを持っている竜でさえ、それは殆ど使わない。
結局はいつも使い慣れた武器を使って、宝の持ち腐れとなるのではないかと言う気がする。
「訓練してみるのは構わないと思いますが、その銃を使うか使わないかは、個人の意思を尊重して下さい。
 それを約束して下さるのなら、訓練を手伝います」
「ジョーがそこまで言うのなら、仕方があるまい。
 そうするとしよう。
 これは国連軍選抜射撃部隊のレニック中佐が強く推して来た武器なのだがね」
「レニック中佐の意見よりも、健達の…仲間達の意見を俺は尊重したいと思います。
 あの反動が強い銃が手に合うかどうかは個人差があります」
「解った。とにかくこれから訓練室に入ってくれたまえ」
南部はジョーの言葉に根負けした様子だった。

訓練室に入ると、サブの部屋に南部とレニックの姿があった。
「ジョーはこの銃を取り入れる事には積極的ではないようですな」
「科学忍者隊には独自のフォーメーションが既に出来上がっている。
 その形を崩したくはないのです。
 ただ、適応能力のある諸君だし、『使える』となれば取り入れるでしょう」
南部は前を向いたままで答えた。
「まず、俺が試射してみるから、良く見ていてくれ」
ジョーが新型銃を標的に向けた。
銃身が長い。
ジョーのエアガンのようだ。
これだけでも、慣れていない者には取り扱いは面倒な筈だ。
ジョーは3発撃った。
どれも標的のど真ん中に命中しているが、横から見た仲間達には、ジョーでさえ、反動があって、撃った時に手首がかなり上に上がる事が解った。
ジュンが使うジュンロケットのあの反動を想像すると解り易いかもしれない。
ただ、ジョーは射撃の名手だけあって、照準を合わせるスピードが半端ではなく早かった。
3発の弾丸を続けて発射したのだ。
きつい反動がある事を考えると、この速さは信じられない程素晴らしい。
「問題はこの反動だ。これのお陰で照準が合っていても、ぶれてしまう場合がある。
 その場合、生命取りになる可能性も否定出来ねぇ。
 だから俺は導入を渋ったんだ。
 とにかくみんな、撃ってみろ。
 訓練でどこまで改善するかは解らねぇが、自分がこの武器を使うか否かはそれぞれの判断で決めろ」
ジョーは銃をくるくると華麗に回して、肩から提げたホルスターに戻した。
その格好良さに甚平などは一瞬状況を忘れて見惚れた。
「正直な処、ジュンと甚平には反動が大き過ぎるのではないかと危惧している。
 手の大きさに馴染まねぇ可能性もあるしな。
 果たして健達でもどうかな?」
「どれどれ?おらは一応エアガンを持っているからな。
 おらから試してみる」
「おう、やってみろ」
ジョーは腕を組んで一歩下がった。
「時間を置いて3発撃ってくれ。
 俺が左右と後ろからそれぞれチェックする」
「解った!1発目、行くぞいっ」
竜は慎重に照準を合わせて引き金を絞った。
実際の戦闘の時には、そんな時間の余裕はない。
ジョーはそう思ったが、敢えて言わなかった。
今は竜の集中力を妨害したくない。
竜は1発目を撃った時に、腕だけではなく、身体がズズッと後ろに下がったのに気付いた。
靴の跡が3cm程床に残った。
ジョーの眼が光った。
「おらでも、こんなに下がるのけぇ?
 ジョーは1歩も下がらなかったぞいっ!」
竜は感嘆して見せた。
ジョーは反対側に回った。
「もう1発!」
「解った」
竜はもう1発を発射した。
そうして、ジョーは最後の1発を後方から確認して、どれも標的に掠りもしなかった事に溜息をついた。
「やっぱりな。竜でもこれだけの反動がある。
 腰がぶれているんだ。
 腰に力を入れて構えれば、少し結果は変わって来る筈だろう。
 だがよ。闘いの最中に俺達にそんな余裕があるか?」
ジョーは拳を握り締めた。
その拳が微かに震えている。
ジョーはその事を伝えたかったのだ。
力じゃない。
戦闘の中でこの銃を生かし切るには、相当の射撃の能力を要する、と言いたかったのだ。
ジョーは自分なら使いこなす自信があった。
だが、膂力のある竜でもこれだ。
正直他の3人に試させる時間も惜しい。
その時間に他の訓練をしたり、ゆっくり休ませてやる方がどれだけ有意義な事か。
ジョーは挑むような眼で、サブにいる南部博士とレニック中佐を射た。
「これは致し方ないだろう。
 他のメンバーに試させるのも時間の無駄だ。
 あれを使いこなせるのはジョーだけかもしれん」
レニックが呟いた。
『ジョー、訓練は中止だ。全員、上がって来なさい』
博士の声が訓練室に流れた。

博士がコーヒー券を全員にくれたので、彼らは三日月基地の展望台にある喫茶室に来ていた。
「ジョーは最初から解っていたんだな」
健が呟いた。
「俺はそう言ったつもりだったんだが、今ひとつ伝わっていなかったらしい。
 すまなかったな、みんなに余計な時間を使わせてよ」
ジョーはブラックコーヒーを啜った。
「ジョーのせいじゃないわよ。博士もレニック中佐に押されたんでしょ。
 それに、良かれと思ってやった事だと思うわ」
ジュンがジョーを慰めるように言った。
「結局、あれを使いこなせるのはジョーの兄貴だけだって事に、大人達も気付いたんだね」
「いやぁ、おら驚いたわ。あんなに身体が後ろにずれるとは思いも寄らなんだ」
「俺達は結局試し撃ちもしなかったが、あれに耐えていたジョーには感服したぜ」
ジョーは1ミリも下がってはいなかった。
健がそれを言って、ジョーの肩を叩いて立ち上がった。
「そろそろパトロールに出る時間だぜ」
全員がそれを潮にコーヒーを飲み干した。
「ああ、早いとこ済ませて、少しはゆっくりしようぜ」
「ジョーはまたサーキット?」
ジュンが訊いた。
「いや、いい天気だし、今日は『ハンモック』だな」
ジョーが漸く笑顔を見せた。




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