『狙撃対象』

ジョーは南部博士から新しい公用車の移送を頼まれていた。
ジョーが巻き込まれた以前の事件を切っ掛けに、運転席にも防弾ガラスが付いた。
ISO本部から別荘までだ。
G−2号機で牽引して移送する事にした。
そうしなければ自分の足がないからである。
ジョーはISOの外にG−2号機を停めて、地下駐車場に入り、預かっている鍵で公用車に乗り込んだ。
ふと、妙な感覚を覚えた。
(誰か…狙っているか?)
しかし、南部博士は此処にはいない。
海洋科学研究所に行っている。
公用車を別荘に移したら、ジョーはその足でG−2号機で博士を迎えに行く事になっている。
(俺をマークして、博士を狙おうとしているのか…?)
その時、ジョーは狙われているのが自分だとはさすがに思わなかった。
公用車を運転して外に出て、公道でG−2号機の牽引機に取り付けた。
そして、G−2号機に乗り込んだ。
またおかしな視線を感じた。
(何だ?どう言うつもりだ?)
相手の意図が把握出来ず、ジョーはイライラした。
敵の前に雁首を出してやってもいいと思ったが、それではこの場で一戦を交える事になる。
ISO本部の前だ。
それは避けたかった。
敵を山道に誘い込む事にしよう。
ジョーは予定のコースを大きく外れる事にした。
どうやら敵はジョーを狙撃しようと狙っている様子だ。
走っている内にそれが解って来た。
それは戦士の勘だった。
ただ、何故自分を狙うのかが解らなかった。
科学忍者隊として狙われるのなら、バードスタイルの時だろう。
だが、今は素顔だ。
(博士の運転手をしている事が多いからか?
 それとも、他に何か?
 だが、俺には心当たりがねぇ……)
山道に入って、ジョーはG−2号機を停めた。
相手の出方を待つ。
尾行が尾いているのは解っていた。
相手はジープだ。
1人が運転し、狙撃者はナビゲートシートに陣取っている。
ライフルらしき影が見えた。
「どうやら本気で俺の生命を狙っているらしいな。
 狙撃対象は俺か?」
逃げ覆す事は可能だが、どうせ敵は彼の行き先を知っているに違いない。
この場で片付けた方が良さそうだ。
人通りもない山道だ。
ジープは30mの距離を保って、様子を窺っていた。
ライフルの射程距離なら充分な範囲だった。
ジョーはついにG−2号機から出た。
「俺に何の用だ?ただのレーサーだぜ」
「ただのレーサーだが、南部博士の養子でもある」
ライフルを持った方の敵がだみ声で言った。
「一体何をする気だ?」
「お前を人質に取って、南部博士に高く売るのさ」
ジョーはケッと吐き棄てた、
そう言う事か…。
ギャラクターを疑ったのだが、どうやらそうではないらしい。
「その為にはちょっと痛い思いをして貰わなくてはならない」
男がライフルを持ち上げた。
ジョーはヒラリと舞い、ジープの直前まで躍り出た。
2人の男は意表を突かれて驚いていた。
「やってみるかい?」
ジョーは挑発するかのように、ニヤリと笑った。
「残念だが、俺はアスリア国の国際射撃大会でタイトルを取った男でね。
 あんたとは腕の差が歴然だぜ。
 見ただけで解る」
ジョーは鼻で笑った。
「俺を撃ちたいのなら撃ってみな。さて、当たるかな?」
もし健がこれを見ていたら、眉を顰める事だろう。
ジョーは明らかに挑発していた。
一般人相手にそこまでする必要はない、と言うのが健の考えだ。
しかし、こう言う輩は確実に同じ事を繰り返す。
ジョーは徹底的に叩きのめして2度と悪事を繰り返さないようにさせようと考えたのだ。
勿論、余りやり過ぎては恨みを買う事になるので、余計な事までする気はない。
「俺を狙撃対象に選んだのがそもそもの間違いだぜ」
ジョーは跳躍し、敵を誘った。
2台のライフルが火を吹いた。
運転席の男もライフルを所持していたのだ。
ジョーは全弾使い果たさせるつもりだった。
「おめぇら、博士の公用車を傷つけるなよ」
ジョーはG−2号機と公用車のある位置とは反対側に跳んだ。
ライフルは同時に彼を狙って来た。
ジョーはそれに素手で立ち向かった。
武器を使うとしても羽根手裏剣はまずい。
精々、エアガンの三日月型キットで打撃を与えるぐらいだろう。
出来れば武器は使わないに越した事はない。
ジョーは武器を取り出すつもりは一切なかった。
彼は跳躍すると、1人が構えるライフルの上にちょんと乗った。
それだけでライフルの照準が狂い、暴発した。
もう1人のライフルは長い脚で蹴り飛ばした。
随分と大胆な行動だ。
だが、敵が照準器に眼を取られている間に、照準外から狙って行動したので、意外に敵は気付かないものだった。
最後にジョーはご丁寧に2人の鳩尾に手加減をしてパンチを入れて、気絶させた。
「銃刀法違反で逮捕、だな」
ジョーはブレスレットで南部に仕事が遅れる事を告げ、警察を呼ぶように依頼した。
『そうか。それは面倒を掛けたね』
「いいえ、ただのチンピラですよ。
 まあ、誰かに雇われていると言う可能性もありましたがね。
 そこは警察に吐いてくれる事でしょうよ。
 面倒になるとまずいので、俺はこのままこの場から離れます」
『解った。そうしてくれたまえ。
 くれぐれも気をつけるように。
 他にも狙っている者がいないとは限らんからな。
 公用車なんて守らなくていい』
「解りました。でも、これじゃあ、準備体操にもなりませんでしたよ」
ジョーは笑って、通信を切った。
彼にとってはただの遊びのレベルに過ぎなかった。
だが、ギャラクターではない一般人に危害を加えるつもりは毛頭なかった。
これで良かったのだ。
ジョーはG−2号機に取って返した。
自分が狙撃対象になる可能性があると言う事を、改めて肝に銘じた。
ギャラクターだけではなく、一般人からも狙われる事があるのだ。
用心に越した事はない。
そう思いながら、エンジンを吹かした。




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