『戦闘機型メカ鉄獣(後編)』

司令室に入るまでには、様々なトラップがあったが、健とジョーは難なくクリアして行った。
危険な罠もあったが、マントで防いだり、天井に跳躍したり、と2人の呼吸はピッタリだった。
「健、際限がねぇな。このトラップの制御装置を探して破壊しようぜ」
ジョーが何かを思いついたのか、天井に張りついたまま、コンコンとあちこちを叩き始めた。
「此処だぜ!」
片手と両足で天井に引っ掛かった状態で、ジョーはエアガンを使って、小さな扉の鍵を壊した。
その中のスイッチを切ると、シューっと音がして、様々な攻撃が停まった。
「ジョー、助かったぜ」
「こう言ったものには必ず仕掛けがある筈さ」
ジョーはニヤッと笑って見せた。
「とにかく司令室に急ごうぜ」
「おう」
2人が華麗に舞うように闘うと、その切り拓いた道には、敵兵が山ほど積み重なっていた。
前方の敵が怖気づく。
「司令室を爆破すれば、ミサイルも停まるだろう。
 ミサイルの発射は司令室からしているに違いない」
「そうだな。さっき潜入したミサイルの射出口には兵士はいたが、射手はいなかった」
ジョーも冷静に堪えた。
「司令室で全体を管理しているんだろうぜ」
「司令室を爆破後は、退路を爆破して敵兵を追いつかせないように防ぎながら、脱出しよう」
「おう、解った」
2人は眼の前にわらわらと現われた敵に、2方に散った。
どうやら司令室は近いらしい。
健は派手に、華麗に大技を使って敵兵を倒して行く。
ジョーは羽根手裏剣とエアガンの2本立てで、その合間に肉弾戦を繰り広げる。
持っている武器の動きの派手さが違っていた。
ジョーの武器は比較的地味だったが、それでも確実に敵を仕留めると言う意味では立派な物だ。
『鉄獣スネーク828』の隊長にはおもちゃだと揶揄されたが、使う者が使えばその『おもちゃ』が最大限の武器になるのだ。
これを他のメンバーが使っても駄目だろう。
羽根手裏剣は全員に持たされた武器だが、ジョー以外はほぼ使わない。
ジョーの手先1つで決まるこの技は、彼の器用な手先だからこそ出来る微妙な技である。
華麗に羽根手裏剣が舞い、敵の手の甲を1人ずつ貫いて行った。
喉笛を突かない限りは生命を落とす事はない。
ジョーも必要以上には相手の生命を奪うような事はしないのだ。
エアガンも出来るだけ三日月型のキットで打撃を与えるようにしている。
そうは言っても、結局バードミサイルで基地やメカ鉄獣と運命を共にする敵兵は死なせる事になってしまう。
だから、自分は死んだら地獄に落ちても仕方がないと思っていた。
正義の為と言う大義名分はあっても、敵を死に至らしめている事には変わりが無い。
戦時中のような混乱の中ではあるが、やはり人を死なせている事はきっと神の裁きを受けなければならないだろう、と齢18にして、そんな事を考えているのであった。
殺らなければ殺される。
そんな息を呑むような世界に叩き込まれたのは、決して彼のせいではなかったのだが。
ギャラクターと言う組織がなかったら、彼は今頃レーサーとして早くも頭角を表わし、一目を置かれる存在になっていた事だろう。
今でもそうなのだが、任務があるから深入りが出来ない部分があった。
ギャラクターさえいなければ、普通に恋愛もしていた筈だ。
だが、ギャラクターは存在するのだ。
いなければ、と言う仮定は成り立たない。
とにかくジョーは今、そんな事を考えている状況にはなかった。
敵兵を薙ぎ倒し、早く司令室に辿り着く事だ。
「健!此処は俺に任せて先に行け!
 任務の遂行を急ごう!」
彼は冷静だった。
実はリーダーの健を立ててもいる。
「よし、任せたぞ。怪我をするなよ」
「おう、解っているつもりだ」
健はヒラリと身を翻した。
その健を攻撃しようとする敵兵の背中に羽根手裏剣が突き刺さった。
健を先に行かせて、ジョーはペンシル型爆弾を通路にあちこちに投げつけた。
自分自身はマントを使って床に伏せた。
これでかなりの敵を封じ込める事が出来た。
怪我をして気絶した者もいれば、中には生命を落とした者もいるかもしれない。
任務を遂行する為には仕方の無い事だが、心のどこかがチクリと傷んだ。
自分の両親の事を考えると、ギャラクターの隊員の中にも必ずしも悪い奴らばかりではないと言う事が解って来たからだ。
以前博士から見せられた子供への手紙も心に残っている。
あれを広げて小さな額縁に入れ、密かにトレーラーハウスのベッドの枕元に飾ってあるのは、彼のそんな気持ちの表れだった。
しかし、任務の合間にそんな事を考えてはいられない。
爆弾を使うのは科学忍者隊の常套手段だ。
ジョーは心を鬼にして闘う。
爆発に巻き込まれずにまだ追って来る敵兵には容赦なく、膝蹴りを入れ、そのまま回転して長い脚で数人に打撃を加えた。
スピンが効いて、暫くは動けない。
次の瞬間には、敵兵の鳩尾にパンチを数発お見舞いし、回転して両手を地に着け、両足で敵兵の首を挟み、そのまま敵兵の輪に投げ飛ばしている。
何ともその動きは素晴らしく、いつもキビキビと颯爽としている。
ジョーは敵兵を切り拓きながら、先に行かせた健の後を追った。
通路の先に薄ぼんやりと扉が見えて来た。
通路が煙っぽいのはジョーが爆弾を使ったせいだ。
煙っている向こうに見えた扉は既に破られている。
健はもう中に入っているのだ。
ジョーも勇躍中に飛び込んだ。
健が華麗なフォームで闘っていた。
闘いの最中でなければ、見惚れてしまう程の働き振りだ。
「ジョー、早かったな。助かったぜ」
「カッツェはいたか?」
「残念だが、この部屋にはいない。
 しかし、ミサイルの発射装置はブーメランで破壊したぞ」
「くそぅ。最初から乗り込んでいなかったか、とっとと逃げ出したかどちらかだな」
ジョーもそう答えながら戦闘に参加した。
2人ともこれまでの疲れは微塵も見せない。
ジョーはペンシル型爆弾を取り出した。
「カッツェがいねぇとなれば、さっさと爆破して、飛び出そうぜ」
「ああ、そうしよう」
ジョーがペンシル型爆弾を羽根手裏剣を投げる要領で各所に投げた。
健もブーツの踵の中にある時限爆弾を中枢コンピューターにセットした。
「よし、ジョー、脱出だ」
「おうっ!」
2人は防御に出て、退出を始めた。
此処に来るまでのトラップはジョーが先程破壊したので、退出は楽な筈だった。
しかし、まだトラップは残っていた。
床からネズミ捕りのようなものが突然現われたのだ。
誰かか手動で操作したに違いない。
健がそれに足を取られた。
ジョーは急いでエアガンでそれを解除したが、健は足首に刺さったギザギザとした刃の影響で、右足を傷めた。
「大丈夫か?健。走れるか?」
「俺の不覚だ。心配は要らん」
ジョーはその答えを聴いて、天井に跳躍した。
同じような仕掛けがありそうな場所にペンシル型爆弾を投げつけた。
いくつかそのような仕掛けが現われた。
「やはりな……。すまねぇ。さっき全部破壊出来たと思ったのによ」
「ジョーのせいじゃない。俺の油断だ。とにかく急ごう」
「肩を貸そう」
健の足首は意外に重傷だった。
ジョーは健に左肩を貸し、右腕にエアガン、唇に羽根手裏剣を挟みながら油断なく、脱出を続けた。
「竜、脱出する。ゴッドフェニックスで来てくれ。
 ミサイルは健が発射装置を破壊したから心配するな」
『ラジャー。すぐに行く』
竜の明確な答えが返って来た。
やがて侵入口に戻る事が出来た。
敵兵達が多く倒れているのを蹴散らしながら此処までやって来た。
「健、行くぜ」
ジョーは両足に力を込めてトップドームに跳躍した。




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