『マシントラブル(2)』

「おい、ちょっと待った!
 採掘場に誰もいねぇってのはおかしかねぇか?」
走り出した健の背中に向かって、ジョーが呟いた。
「確かに妙だ。何かあったのかもしれんな」
健も足を止めてそれに応じた。
「とにかく打ち合わせ通りに、分かれて探りを入れてみよう」
科学忍者隊は二手に分かれて行動を開始した。
それぞれ離れた場所にある別々の採掘用の穴からジャンプして、忍び込んだ。
ジョーは尻餅を付いた竜を小声でたしなめる。
「何やってんだ!しっかりしやがれ!」
2人はビュンと風を切り、壁の陰に身を隠した。
早速人の気配があった。
それも大人数だ。
どうやら此処の作業員らしい。
「…一体どう言うこった…?」
ジョーは壁に姿を隠しながら、そっと様子を窺った。
作業員達は足に長い鎖で大きな鉄球を引き摺らされている。
そして、何やら無理矢理に特殊作業をさせられている様子だった。
ジョーはその時、異常な程の頭痛に襲われた。
「ぐっ!」
頭を抱えて崩れ落ちそうになりながら、竜を見ると、彼も同様に苦しんでいた。
「こ…、此処で…、何を、して、やがるんだ?!
 バードスタイルに…影響が、あるかも知れねぇ、と言う南部博士の予測が…当たったのか?」
ジョーは苦しみながらもその言葉を吐き、ついに膝を付き、崩れ落ちた。
何故かその痛みの症状は竜の方が多少は軽い様子だった。
ジョーは1度Gー2号機で悪影響を受けているからなのかもしれないが、彼らがそれを知る由もない。
辛うじて竜がブレスレットで健に連絡を取った。
「健!2人とも原因不明の酷い頭痛に襲われとる!
 理由は解らんが、ジョーの方が症状が重くて、今、意識を失ったわい!」
竜はそう言うとその場にどさりと倒れ込んだ。

「ジョーと竜に何か起こったらしい。
 異常な頭痛に襲われたそうだ。
 どうやら2人共意識を失ったようだぞ」
健が心配そうにジュンと甚平を振り返った。
「どうしたのかしら?ジョーの方が症状が重いって言ったわね?」
ジュンも眉を顰める。
「ジョーはアセット市をG−2号機で通過している。
 G−2号機がマシントラブルを起こした事と何か関係があるのかもしれない。
 リチウムと何かの化学反応によって出来た成分が、ジョーの身体には蓄積しているのではないだろうか?」
健が言った。
「とにかく、2人を救出して一旦基地に戻るぞ」
「ラジャー!」
3人はその場を脱出し、ジョーと竜が行った筈の採掘用の穴へと向かう事にした。
3人にはまだ異常事態は起こっていなかった。
こちらの採掘場には人影がなく、どうやらジョーと竜が当たりくじを引いた恰好だった。
3人が駆けつけると、2人は完全に意識を失って、身体を弛緩させていた。
健が症状が軽いと言っていた竜をジュンの力を借りて抱き起こし、背中から喝を入れる。
「むうっ…!」
竜はそれで意識を取り戻した。
「健!」
「しっ!そこに作業員達がいる。気付かれないように気をつけろ」
健が人差し指を唇に当てた。
「あやつら、無理矢理に何かやらされているようじゃわい」
「ああ…。何となく嫌な予感がする」
そう言いながら、健はジョーを抱き起こした。
ジョーにも同様に喝を入れるが、ジョーは意識を取り戻さない。
「どうなっているんだ?」
「やっぱり健が言った通りなのかもしれないわね」
「とにかくジョーの兄貴を連れて、一旦戻ろうよ〜」
「ええっ?また出直すのかぁ?」
竜がぼやいたが、彼もまだ頭痛の余韻が残っていて、体調は万全ではなかった。
「2人の身体を博士に調べて貰う必要がある。
 何が俺達のバードスタイルに影響しているかだ」
健が言った時、「あっ、頭が…」と甚平が頭を抱え出した。
「行かんっ!早く脱出するんだ!」
健はジョーを肩に抱えて、全員に脱出を指示した。

竜の体調が優れない為、ゴッドフェニックスは健が何とか操縦して三日月珊瑚礁へと帰還した。
ジョーと竜の2人はすぐにメディカルチェックを受ける事となった。
意識が戻っている竜はともかく、ジョーの方はまだ意識がハッキリとしない。
南部は憂い顔で、ジョーの顔を見つめていた。
並んだベッドに寝かされた彼と竜の頭には脳波計が装着されている。
「うむ…。竜の場合はそれ程ではないが、ジョーの脳波は竜以上に増幅された何かによって乱されている。
 乱されている、と言うよりも、弱らされていると言ってもいい。
 これはおかしい…。一体どんな化学反応があったと言うのか……」
腕を組んで考え込む南部博士の後ろには心配そうな健とジュン、甚平がいる。
甚平はすぐに脱出した為に助かっていた。
「甚平。急に頭が痛くなったのだね?」
「はい。じわじわと締め付けられるような感じで…」
「竜もそう言っている。だが、ジョーの場合は突然鋭い痛みが来たようだ、と言うのが見ていた竜の意見だ。
 やはり、健の想像通り、G−2号機でアセット市を通り掛かった時に受けた影響が蓄積したものだと思うのだが……。
 それが何だか突き止められんのだ。
 ジョーの脳波は一定していない。
 一体、何に影響を受けたと言うのだ…?」
頭を抱える南部博士を見て、健達は押し黙った。
博士に解らない事が自分達に解る筈もない。
その時、ジョーが「うっ…」と唸った。
「ジョー!?」
健達が駆け寄ると、ジョーは静かに眼を開いた。
そして、ガバっとベッド上に起き上がり、頭がぐらついたのか、額に手を当てた。
「博士…。一瞬ですが、オレンジ色の光を見たんです……」
ジョーが呟いた。
「オレンジ色だと?」
博士の眼が、眼鏡の奥でキラリと光った。
「もしや…?」
博士の頭が目まぐるしく動き始めたのが解った。
「ジョー、当分はじっとしていたまえ」
博士はそれだけ言うと部屋を出て行ってしまった。
「博士は何か手掛かりを掴んだようだな」
健がその背中を眼で追った。

博士が戻って来る頃には、竜は勿論の事、ジョーも大分気分が良くなっていた。
「解ったぞ!まだ発見されて間もない『ベラリウム』と言う鉱石とリチウムが化合される事によって、君達のメカやバードスタイルに悪影響が出たに違いない。
 2つの鉱石が化合した時に、オレンジ色の光が出るのだ。
 それがメカが変身する為に使われている流動プラスチックに影響を与え、G−2号機はマシントラブルを起こした。
 そして、諸君のバードスタイルを保っている3600フルメガヘルツの高周波にも同様の効果があるようだ」
「一体、閉じ込められた作業員達は何をさせられているのでしょう?」
健が訊いた。
「この2つの鉱物を掛け合わせる事によって、水爆の3倍の威力を発揮する爆弾を作り出す事が可能なのだ。
 それを作り出して脅しのネタにするのかもしれん」
「つまりは、やはりギャラクターが一枚噛んでるって事ですね?」
もう起き上がって普通に動いているジョーが言った。
「ジョー、もう具合はいいのかね?
 いや、今は大丈夫かもしれんが、君はまたあの現場に行くとまた体調を崩すかもしれんぞ」
「それはそうですが、俺だけ出動禁止ってのは無しですよ、博士」
「勿論、出動はして貰いたいのだが…」
博士は躊躇している。
仕方があるまい。
この壮健なジョーが、随分長い間意識を失った程なのである。
彼は他のメンバーよりも確実にリチウムと『ベラリウム』の化合光線の多大な影響を受けている筈だ。
「諸君のバードスタイルに特殊加工を加える事にしよう。
 出動はそれからだ。
 全身に特殊な装備を『噴霧』する。
 これはリチウムとベラリウムの化合光線をある程度は予防出来る物質だ。
 全員バードスタイルになって、特殊検査室に集まってくれたまえ。
 但し、この装備をしたからと言って、ジョーには危険が伴う。
 深追いは禁ずる。
 皆の前で先に言っておくぞ」
南部は科学忍者隊全員を見回して、そう告げた。




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