『マシントラブル(3)』

南部博士は2つの鉱物・リチウムと『ベラリウム』が化合する時に発生する、電磁波のような物を防ぐ物質をバードスタイルの5人に噴霧する事にした。
「これでかなり防げる筈だが、長時間浴びていれば同じ事だ。
 やはり身体に悪影響が出る。その時はすぐに変身を解くのだ。
 そして、暫くは安静にしていなければならない。
 非常に危険な任務になるぞ」
「承知しているつもりです」
健が答えた。
「ジョーには、ゴッドフェニックスで待機して貰うつもりです」
「何だと?」
ジョーは健に掴み掛からんばかりの形相で歩み寄った。
「ジョーはこの装備をしても、危険なんですよね?」
健は博士を振り返った。
「その通りだ。竜よりも症状が重かった事で、それは明らかだ」
「それならばやはり連れては行けない」
健とジョーの間でバチバチと火花が散っているのを、その場にいる全員が見たような気がした。
「俺は行くぜ。他ならぬG−2号機の計器類が狂い、マシントラブルを起こさせたんだ。
 この俺に黙っていろ、とでも言うのか?」
「そうだ。もし、お前に何かあってみろ。俺達の足を引っ張る事になるんだぞ」
「けっ!大丈夫さ。自分の身の始末は自分で付けるさ」
「さっき、意識を失って俺に連れ出されたのは誰だっ!?」
2人はどちらも引かぬ、不退転の決意を込めて対峙していた。
「俺は行くぜ、と言ったろう?あんな訳の解らねぇ化合光線とやらにやられてばかりでいられるか?
 俺は科学忍者隊の一員だ。黙って行かせろ!」
「自分の身は自分で守る、と言ったな?
 いざとなったら身を引く事がお前に出来るか?」
健は熱くなっているように見えたが、その実、非常に冷静だった。
「ああ、その時は止むを得ねぇな。悔しいが引こうじゃねぇか」
「解った。それが約束出来るのであれば、行こう」
「今度はそう簡単にはやられねぇさ。
 博士の話では何かあったら、バードスタイルを解けばいいんだろ?
 それなら俺は最初から変身しねぇで行く」
「何を言うんだ、ジョー!確かに影響は受けにくいかもしれないが、防御の面では極端に落ちる事ぐらい、お前が一番良く解っているだろう?」
「だが、ダメージを受けにくいのは事実だ。
 戦闘能力が大幅に落ちる訳じゃねぇ。
 飛翔能力と防御が落ちるだけだろ?
 それならおめぇも納得するんじゃねぇのか?」
「いや、そんな危険な事はリーダーとしてさせられない。
 どうしても行くのなら、バードスタイルで行って貰う。
 博士が噴霧した特殊物質に期待を掛けよう。俺達はそれを信じよう」
健は根負けした、と言うように、ジョーの肩を叩いた。
「その代わり、絶対に無茶はしない事だ。
 俺達の足を引っ張らないと約束しろ。
 俺達の任務は、拘束されて無理矢理労力に使われている現地の作業員の人々を助ける事が先決だ。
 そして、ギャラクターが作り出そうとしている恐ろしい水爆の3倍もの威力があると言う爆弾の製造を阻止し、ギャラクターの野望を砕く事。
 この2点だ。重要かつ危険な任務である事を全員忘れるな!」
「ラジャー」
健の指揮で、5人は司令室を飛び出した。

5人は前回と同じように、ゴッドフェニックスを海底に隠して、上陸した。
今度は最初からジョーと竜が入った採掘穴へと直行する。
「よし、俺から入る。ジョーは俺が合図をしてから一番最後に入れ」
バードスタイルになった5人は、音も立てずに採掘穴から下へと降り立った。
健の『大丈夫そうだ』との連絡があり、ジョーも勇躍飛び込んだ。
バードスタイルに噴霧した物質が何かは博士から聴いていないが、効果はあるようだ。
1度気を失っている竜も飄々としている。
特に変化は見られない様子だ。
それで健はジョーを呼んだのだ。
「見ろ」
壁の陰に隠れながら、ジョーが呟いた。
「あれは採掘場の作業員達だ。足に重りを付けられて、無理矢理に何かの作業をさせられている。
 あの化合光線はバードスタイルには影響するが、人体にはそれ程影響を及ぼさねぇのかもしれねぇな」
「それはどうかな?水爆の3倍もの威力がある爆弾を作ろうとしているのなら、あの人達も作業中に被爆しているかもしれない」
健が冷静に分析した。
そう言っている間に、1人が突然パタリと倒れて、そのまま動かなくなった。
ギャラクターの隊員が2人出て来て、足枷を外し、引き摺るようにその男を片付けた。
「健の言う通りらしいな。被爆しているのか…」
ジョーが呟いた。
「これでは犠牲者が増えるばかりだ。早く助け出さなければならない」
「ようし、救出作戦に出ようぜ」
「竜、縄梯子は用意して来たか?」
健が訊いた。
竜はマントの中からそれを取り出した。
「この通りじゃわい」
「それをさっき入って来た入口に掛けるんだ。
 人々にはそれを登って貰わなければならん」
「解った!」
元々採掘穴には、作業員が出入りする為の縄梯子が設置されていたのだが、ギャラクターによって取り外されていたのだ。
竜は力一杯縄梯子を投げて、採掘穴の端に上手く掛けた。
試しに引っ張ってみる。
「これで大丈夫じゃて」
「よし、行こう。ジョー、大丈夫か?」
「ああ、何ともねぇぜ」
「ジュン、甚平、竜は人々の救出に当たってくれ。
 採掘場の外にもギャラクターが現われる可能性があるから、国連軍を呼んで人々を引き渡してくれ。
 戻って来るのは引き渡しが終わってからでいい」
「ラジャー」
5人は人々を助ける為に、乗り込む事にした。
作業員は50人程いた。
それを見張るギャラクターの隊員は5人。
科学忍者隊はそれぞれ1人ずつ片付ければ良かった。
だが、すぐに応援が来る筈だ。
その間に作業員達を縄梯子から逃がした。
竜が先に上がり、上で待ち、ジュンと甚平が殿(しんがり)を務めた。
その間に敵兵が現われたのを、健とジョーとで阻止する。
激しい闘いが始まった。
「健!ジョーに何かあったら、私に連絡して!応援に戻るわ」
ジュンは健にそう言い置いて、縄梯子を上がって行った。
ジョーはその時既に戦闘の渦の中にいた。
刺すような頭の痛みと、何故か眼に異常が出始めていたが、健には言わなかった。
まだ闘える。
視界が霞むが、彼は目隠しをした状態でも闘える様に、自分の戦闘能力を引き出す訓練を黙々と行なって来た。
ちょっと位の異常なら、健にも気付かせない自信があった。
羽根手裏剣もエアガンも問題なく使いこなし、敵兵に的確なパンチや膝蹴りを噛ましていた。
頭痛はそれ程酷くはならなかったが、眼の方が問題だった。
視界は急速に暗くなり始め、さすがのジョーもこのままでは体勢が維持出来ないと判断した。
「健!変身を解く。一旦持ち場を離れるぞ」
ジョーは健に返事をする暇(いとま)も与えずに壁の陰に消え、やがて平服姿で戻って来た。
「どうした?ジョー」
「視神経に異常だ。勿論闘えるが、バードスタイルを保つのは危険だと判断したのさ。
 心配するな。身体の動きに異常はねぇ」
「眼が見えないのか?それならジュンを呼ぶぞ」
「まだ見えている。だから、早い内に変身を解いた。
 此処の化合物質を何とか破壊しなければならねぇだろう。
 博士にエアガンの特殊キットを貰っている。
 そっちは俺がやるから、ジュンを呼んでこいつらを叩いていてくれ」
「解った!ジュン、応答してくれ」
健はジュンに状況を説明し、上の方は甚平と竜に任せる事にした。
『国連軍は間もなくやって来るわ。私はすぐに行くから待っていて』
ジュンが煉瓦で作られた採掘穴から飛び込む、ビュンと言う音がブレスレットから聴こえた。
ジョーはその間に、暗くなった視界を物ともせず、博士が渡してくれたキットをエアガンに取り付けていた。
冷凍ガンだ。
水爆の3倍をも威力を持つ爆弾を製造していたのだ。
こいつを爆発させる訳には行かなかった。
冷凍光線を浴びせてカチンコチンに凍らせ、これも国連軍に引き渡す必要があった。
その後は、この採掘場の中にいると思われる敵兵を叩き、基地が作られているのであれば、破壊しなければならない。
この爆弾を作る為に出た化合物質が街にまで及んでいるとすると、街の人々にも身体に弊害が及びつつあるかもしれない。
G−2号機がマシントラブルを起こし、ジョーが3度に渡ってこの化合物の見えない光線を浴びた事で、今、体調を崩している。
間違いなく、地下に基地が用意されている事だろう。
ジョーは健とジュンが闘っている間に、そこにあった爆弾を冷凍光線で雁字搦めにした。
国連軍が入って来た。
それを採掘場の入口から機械を使って、取り出す作業に入った。
国連軍が来たと言う事は、作業員も救助されたと言う事だ。
「甚平、竜。2人は別の入口から中を探ってくれ。
 くれぐれも気をつけろよ。ジョーは眼をやられた。
 2人とも前回多少の影響を受けているからな」
『ラジャー』
2人は前回、健とジュン、甚平が回った方の採掘穴へと向かった。
ジョーは爆弾を1つ冷凍させて、キットを棄てた。
ふと、身体がぐらりと揺らいだ。
「ジョー、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。バードスタイルを解いたら、頭痛は遠退いた。視界が暗いだけだ。
 それより、冷凍光線弾は後9個しかねぇ。
 既に完成している爆弾がそれ以上だったら、どうしようもねぇぜ」
ジョーが暗澹として呟いた。




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