『マシントラブル(4)』

「ジョー、一旦ゴッドフェニックスに戻って休んだ方がいいんじゃないのか?」
健がジョーの顔を覗き込んだ。
ジョーの眼はまだ光を追う事は出来ているようだ。
しっかりと健の眼を射た。
健は自分の顔をジョーがしっかりと追って見る事が出来る事を確認したのだ。
「見えているな、ジョー」
「当たりめぇだ。ちょっと暗くなっただけだと言ったろう?
 早めにバードスタイルを解いたのが良かったみてぇだぜ」
「他のみんなは大丈夫か?」
「大丈夫よ」
『おいらも』
『おらも大丈夫だ!』
プレスレットからは甚平と竜の声も聴こえて来た。
ジョーは生身の時にG−2号機を通じて、被爆していた可能性がある。
そのせいで他のメンバーよりも過敏に反応してしまうのかもしれない。
「さて、これからとにかく奥へ侵入する事になる。
 ジョーは生身でも更に被爆する可能性があるのが心配なのだが…」
「もう1回バードスタイルに戻ろう。
 防御膜を噴霧してあるんだ。
 恐らくは眼から何かが入ったのだと思う。
 潜水用の眼鏡で何とかなるだろう。
 今以上に見づらくはなるがな」
ジョーは潜水眼鏡を装着してから虹色に包まれて変身を遂げた。
バイザーの下に潜水用眼鏡を着用した形になった。
「俺の事は気にするな。眼を閉じていても闘えるように普段から訓練している。
 問題は、強化水爆を撃つ時に見えなくなった場合だ。
 気配では察知出来ねぇからな。
 その時は健、俺の眼になってくれ」
「解った。場合によっては俺が代わりにエアガンを撃つ」
「大丈夫さ。銃の事は俺に任せて置けって!」
「ジョー、意地を張らない事よ」
「けっ。どうしようもねぇ時はおめぇらに任せるよ」
ジョーは悔しそうに吐き捨てた。
その時、敵兵の気配を感じた。
「健っ!」
逸早くジョーが察知したのは、眼が見えにくくなっている為に、他の五感がアップしているからに違いない。
「ジョー、俺から離れるな」
「馬鹿言えっ。大丈夫だ」
だが、健とジュンは顔を見合わせてお互いにジョーを守ろうと、頷き合っていた。
「とにかくこいつらを倒して、一刻も早く強化水爆を探そうぜ」
ジョーが叫んだ。
その折には既に回転して、敵兵を長い脚で叩きのめしていた。
視力を失いつつある事は全く感じさせなかった。
水中眼鏡はある程度新たな被爆を防ぐ効果があるようだった。
少なくとも症状が進む事はなくなったらしい。
時折、頭の芯にツキリと痛みが走る事はあったが、戦闘に影響を及ぼす程ではなかった。
ジョーの闘い振りを見て、健とジュンは安心して自らも闘い始めた。
甚平と竜からはまだ何も連絡がない。
竜はジョー同様にエアガンを持ってはいるが、彼のようにキットを取り替えるような仕様にはなっていなかった。
何かあれば、ジョーのエアガンを使うしかなかったのだ。
そして、冷凍光線弾はジョーのウエストに装備されていた。
「冷凍光線弾の装備が全員に出来ていたら…」
健は唇を噛んだ。
「仕方がねぇだろ?バードスタイルに加工を施した上にこれの準備もしたんだ。
 時間がなかった。博士を責める訳には行かねぇぜ」
「博士を責めているつもりはないんだが、そうすれば効率良く強化水爆を凍らせて国連軍に引き上げて貰う事が出来たのに」
健が唇を噛んだ。
「片っ端から潰して行くしかねぇさ。
 問題はさっきも言ったように、後幾つあるかだぜ」
「国連軍にも探して貰った方がいいんじゃないかしら?」
「冷凍光線弾の追加装備が出来ればそれもいいだろうがよ。
 それが出来ねぇとあっては、国連軍から殉職者を増やすばかりじゃねぇかよ?」
3人は戦闘を繰り広げながら、話をしていた。
「ジョーの言う通りだ。とにかく俺達で強化水爆を探そう。
 ジョーは出来るだけ休んでいろ。戦闘は俺達に任せろ」
「いや、それじゃあ、埒が明かねぇ。
 戦闘を俺に任せて、おめぇ達で強化水爆を探すんだ。
 それが一番効率がいい」
「ジョー!」
健とジュンが声を合わせて叫んだ。
「のんびりお喋りしている暇はねぇぜ」
ジョーは敵の渦へと飛び込んで行った。
「ジョーは本当は殆ど見えていないんじゃないのか…?」
健がその背中を見て呟いた。
「えっ?そうなの?健」
「光には少しは反応するようだがな。
 あいつ、俺が顔を覗き込んだ時、『気配』を探ったんだ」
「そんな…!ジョー!」
ジュンは余りの事に、ジョーの方を振り返った。
「とにかく、ジョーの言う通りだ。
 あいつは目隠しをしてでも闘えるように自己訓練をしている。
 俺達は早く例の物を探すんだ」
「解ったわ……」
「甚平、竜!そっちも何か発見したらすぐに知らせろ!
 さっきも言ったようにジョーは眼をやられている。
 普通に闘ってはいるが、余り良く見えてはいないようだ。
 現場には誰かがジョーを連れて行くか、ジョーのエアガンを持って代わりに行かねばならない」
『ラジャー、見つけたらすぐに連絡するよ』
甚平の答えがあった。
『まだこっちには人影すら見当たらんわい。
 奥に行く道があるようだから、そっちへ向かってる。
 健達がいる地点とは90度北向きになるわい』
竜が位置情報を知らせて来た。
「解った!緊急の時はバードスクランブルで知らせてくれ」
『ラジャー!』
2人の答えを聴きながら、健とジュンは風のように走り始めていた。
出来るだけジョーに負担は掛けたくなかった。
ジョーは眼が殆ど見えないと言う事を全く感じさせない闘い振りを見せた。
羽根手裏剣が正確に舞い、敵の手の甲を仕留めている。
マシンガンが取り落とされてガガガガガ…っ!と鳴っても、それが敵の攻撃なのか、誤射なのかを音で判断しているのだ。
素晴らしい能力と言わざるを得ない。
敵の攻撃を交わしつつ、エアガンの三日月型のキットを使って、纏めて相手を処理していた。
その確実さには眼を瞠るものがあった。
健やジュンでさえ、ジョーは本当は眼が見えるのでは?と錯覚する程の働き振りだった。
眼の前に現われた敵兵には肘鉄を喰らわせ、膝蹴りを浴びせている。
見えない眼で闘っている事を敵に気付かれる恐れは全くなかった。
健もジュンもそれを見て、安心して任務に当たれた。
第2の強化水爆を見つけたのは、ジュンだった。
『見つけたわ!ジョーの位置から右45度に100メートル。
 私がジョーをサポートするから、健、ギャラクターをお願い』
『解った!ジョー、今、すぐに行く!』
「ラジャー。準備は出来てるぜ」
ジョーは闘いの手を止めぬまま、ブレスレットに向かって答えた。
やがてジュンが戻って来て、ジョーに向かってヨーヨーを投げた。
ジョーはそれを正確に左手でパシッと音を立てて受け取った。
そのヨーヨーに導かれて、ジョーは現場へと急いだ。
ジュンが彼に寄り添っては、ジョーの眼が殆ど見えない事が敵に解ってしまうと言う配慮だった。
ジョーにもその事が解っていた。
ジュンに導かれて、歩を進める。
「ジョー、これよ」
気配を感じてはいたが、驚く程耳元で、ジュンが囁いた。
彼女はジョーの手を取り、強化水爆に触れさせた。
ジョーは形をチェックする。
「よし、解った!ジュン、下がっていろ!」
ジョーは腰から冷凍光線弾を取り出し、エアガンにセットした。
適度な距離を保ち、それを撃ちながら移動する。
1箇所を攻めたのでは駄目だ。
それはさっきの1発目で解っている。
さすがのジョーだ。
見事に円筒形の一番長い部分で8メートルもある水爆を、冷凍光線弾1弾で凍らせた。
「後、残りは8発だ。一体ギャラクターは何発の水爆を作っているのか?」
ジョーに焦りが募った。
「ジョー、調子はどう?大丈夫?」
ジュンがジョーの背中を支えた処を見ると、ジョーは少しふらついたのかもしれない。
「どうって事ねぇよ、それよりまた敵のご襲来だ!」
ジョーはそう言った時には既に身体を反転させていた。
『水爆を見つけたよ。今、おいらがジョーを呼びに行くから、ジョーの兄貴はバードスクランブルを発信してよ』
ジョーが闘いに転じた時、甚平からブレスレットに通信が入った。
「よし、ジョーっ、此処は俺達に任せろ。
 すぐに片付けて、次の水爆を探す!
 ジュン、南部博士に連絡してこの強化水爆を国連軍に引き上げて貰うんだ」
「ラジャー」
ジュンが答えて、博士に通信を始めた。
ジョーは羽根手裏剣を正確に飛ばしながら、健の方を向いた。
「心配するな。俺はきっちり仕事はこなすぜ」
「無理はするなよ」
「ああ…」
やがて甚平の足音がした。
「甚平。俺の前をそのまま走ってくれ。足音を追って行く」
「大丈夫なの?ジョーの兄貴」
「おう。足音が聴こえれば追って行ける」
「凄いなぁ。じゃあ、行くよ」
甚平は全速力で走り始めた。
ジョーはそれに全く遅れる事なく、瞬速で走った。




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