『夜明けの襲撃(1)』

ギャラクターがアニソン国へ攻撃を仕掛けた、と呼び出されたのは、ユートランドでは夜中の2時に当たる時刻だった。
アニソン国では、夜明けと同時に不意を突かれたらしい。
人々は仕事を始めている人もいれば、起き出して朝食を摂っている、と言った様々な生活をしている最中に襲われた。
そして、それらの人々が街とともに一気に消え去った。
ギャラクターは街を破壊するだけに留まらず、人体を一瞬にして消してしまうビーム光線を開発したらしい。
メカ鉄獣の正体は解らない。
見た者は全員消されてしまったからである。
と、言うのが南部博士からの話の全てだった。
だが、メカ鉄獣は他の国にも現われる危険性があった。
アニソン国を攻撃する理由が見当たらないのだ。
何か特別な鉱脈が眠っていると言った事もない。
貧しい国で、財宝がたんまりとある訳でもない。
「攻撃の目的が皆目解らんのだ…」
南部博士がデスクで頭を抱えた。
「全く情報がない状態では、次にメカ鉄獣が現われるのを待つしかありませんね」
「そうなのだ。アニソン国は夜明けと共に襲われた為、国の中枢部がすぐに動けなかった。
 その為、個人のアマチュア無線によるSOS信号をたまたま国連軍が受信して発覚したのだ」
「その発信者は…?」
健が訊ねた。
「国連軍が駆け付けた時には、既に消えていたそうだ。
 アマチュア無線機だけを残してな…」
南部博士は沈痛な表情で答えた。
「とにかく現場を見に行ってみるしかねぇだろう、健。
 何か手掛かりが掴めるかもしれねぇぜ」
「そうだな」
話している2人の横で、甚平が欠伸をしている。
夜中の2時にスクランブルが掛かったのだ。
まだまだ子供の甚平には仕方のない事だが、博士の前と言う事もあり、ジュンが一生懸命嗜めていた。
竜は頭がボーっとしているのか、頭を掻き掻き、眠そうな眼をしょぼつかせていた。
「みんな、シャキっとしたまえ。
 アニソン国ではとんでもない事が起こっているんだ。
 油断は禁物だぞ。解ったら、すぐにゴッドフェニックスで出動準備に掛かれ」
南部博士が命令した。
「ラジャー!」
全員が同じポーズを取って、それに答えた。

「ひでぇな…」
ゴッドフェニックスがアニソン国の上空に差し掛かった時、ジョーが思わず呟いた。
街が粉々に砕け散っている。
瓦礫の山だ……。
国連軍がところどころに入っているのが見えたが、捜索は難航しているらしい。
やはり人々が消えてしまっているのだ。
誰1人として見つかったと言う報告は、南部博士の元に入っていないようだった。
「竜、ゴッドフェニックスをあそこの広場に着陸させろ」
健が指示をした広場は、街の中心部にあった。
全員で調査をするには、都合がいい。
アニソン国で被害を受けたのは、中央省庁が集まる部分だった。
その為、国としての打撃は大きかった。
そこまでしてこの国を滅ぼそうとした理由が解らない。
科学忍者隊の任務にはそれを探り出す事もあった。
何かこの国には、隠れた事情があったのかもしれない。
ギャラクターが、ベルク・カッツェが欲しがるような何かが…。
「南部博士は地下資源や金品など全くない、貧しい国だと言っていたが、もし国も知らない資源が眠っていたとしたらどうだろうな?」
ジョーが健に向かって呟いた。
「ギャラクターならそう言った情報を掴み易いだろうな。
 国際科学技術庁もまだ知らない何かを」
健も腕を組んで、ジョーに同調した。
「とにかく俺達も降りて、調査を始めよう。
 生き残りの人がいないか、確認しながら回ってくれ。
 調査区域が広いので、全員で手分けをする」
健がその担当区域を決めて、指示を出した。
「よし、みんな、行くぞ!連絡を欠かすな」
健の言葉を合図に、彼らはトップドームへと向かった。

アニソン国に降り立った科学忍者隊は1人1人に分かれて、現地調査に当たった。
ジョーは瓦礫をエアガンで取り除きながら、手掛かりを求めた。
「一体どんな事をすれば、人々が一気に蒸発してしまうんだ?」
ジョーは呟いてから、ふと自分の言った言葉に気付いた。
「蒸…発…?」
崩れ去った建物の瓦礫の下には、人々の衣服や生活の匂いが残っている。
まさに人間が蒸発したとしか思えなかった。
「強力な火炎放射器?いや、違う。衣服は残っているんだ…」
1人呟き乍ら歩いた。
「何かの光線かガスかもしれねぇな。ギャラクターの科学力なら何でもありだ」
だが、その何でもありを許しておく訳には行かない。
このまま調査をするよりも、ギャラクターの基地を探し出して打撃を与える方が有意義なのではないか、と言う気がした。
「健、人々は衣服だけを残して消えちまってるぜ」
ジョーはブレスレットに向かって話し掛けた。
『ああ、こっちもそうだ。だが、1つおかしな事がある』
「何!?それは何だ?」
『貧しい国だと言うのは、表向きかもしれん。
 どの家にも金庫があるんだ』
健は住宅地の方面に行っていた。
「何だって?」
ジョーはビル街を回っていたので、それには気付かなかった。
『私も見たわ。一般家庭にそうそう金庫があるって物ではないわ。
 それに、全部金庫が破られてるの。
 何か得体の知れない物で、穴を空けられているわ』
ジュンの声も飛び込んで来た。
『全員、ジュンの所へ集まるんだ!』
健が命令した。
「ラジャー!」
ジョーも答えて、走り始めた。
やがてジュンの居場所に集合すると、健が金庫の前に膝を立てて座った。
各家庭には大小の違いはあったが、殆どの所に金庫が設置されていた。
ジュンが言った金庫の扉の穴を指でなぞってみる。
「鋭利な刃物・金属ではなさそうだな…。
 銃弾のような物でもない。何かで溶かされている」
「一体、一般家庭の金庫に置かれていた物ってのは何なんだ。
 ギャラクターがこんな事をしてまで、欲しがる物って事だぜ」
ジョーはエアガンで金庫の扉をコンコンと叩きながら言った。
「よし、取り残しがないかどうか、各家庭の金庫を隈なく探せ。
 ジュンと甚平は行動を共にしてくれ」
健の命令で、全員がまた動き始めた。
瓦礫を取り除かなければならない事から、健はジュンと甚平に配慮をしたのだった。

ジョーは数十軒目に、ある豪邸に入った。
豪邸と言っても、瓦礫の量と家の基礎部分の外枠から判断するしかなかった。
もう跡形もなく、消え去っている。
これだけ多くの金庫の物を持ち出すのに、人海戦術でやったとは到底思えない。
メカ鉄獣の『何か』が機能したのだ。
金庫の中に入っていた物に反応するように作られているのだろう。
全く謎だらけだった。
エアガンで瓦礫を排除しながら、書斎と思しき部屋に入った。
案の定、その部屋には大きな金庫があり、健が先程言ったように、扉の一部に何かに溶かされたような跡があった。
「ん?」
ジョーはある物を見つけ出した。
それは通常なら金庫に保管するような物ではなかった。
金品ではなく、ある鉄片が残っていた。
「これはメカ鉄獣が残して行った部品か何かか、それとも、この金庫に最初から入っていた物なのか…?」
ジョーは呟くと、それを手に取った。
鉄片がキラリと輝いた。
「これは、ただの鉄片じゃねぇな」
ジョーは外に出て、陽の光でそれを透かし見た。
何かが混ざり込んでいるのが解った。
「何かの鉱物のようだな…」
ジョーはそれを腰のエアガンのキットを入れる収納部にしっかりと仕舞い込んだ。
「健、鉄片の中に混ざり込んだおかしな鉱物を発見したぜ。そっちはどうだ?」
『こっちもだ。ジュンも似たような物を見つけている。
 博士の処に持ち帰って調べて貰おう。
 全員ゴッドフェニックスに戻ってくれ』
「ラジャー」
ジョーはゴッドフェニックスが着陸した方角に軽々と走り始めた。




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