『夜明けの襲撃(2)』

健、ジョー、ジュンが持ち帰った鉄片は、すぐさま南部博士らのチームによって、分析に掛けられた。
どれも光を当てるとキラリと光り、そこには何かの鉱物が混ざり込んでいる事が解る。
答えはすぐに出た。
「諸君。これは金だな。
 どうやらアニソン国には過去に金の鉱山で潤っていた時期があるらしい。
 何十年も前の出来事だ。その金が何故鉄片に混じっているのかは解らんが、アニソン国の人々は、これをお守りとして大切に持っていたのだろう」
「お守りなのに、何で『金庫』なんですかね?」
健が不審げに訊いた。
「この金はこの僅かな量でも、純度が高い為、相当な高額で取り引きされる代物だ。
 それを知っているからこそ、国の指示で金庫に保管していたものと思われる」
「ですが、アニソン国は貧しい国なんでしょう?
 そんな高額な物を持っているのなら、何故国民は換金しようとしなかったんです?」
今度はジョーが訊ねた。
彼の疑問も尤もだ。
「どうやら国の政策らしい。金鉱があった事を隠しておきたかったのだな。
 もう既に廃鉱になっているのだが、そうして国の中枢部にある家庭にはまだ保管されていた。
 あの辺りに住む人間は、全て国の機関で働いている者達だ。
 国家が彼らを抱え込んで報酬を支払う代わりに、彼らがそれぞれの家庭で保管していた、と言う見方が出来る。
 これはISOの情報部からの報告だ」
「では、国民全てがそれを知っていた訳ではないと?」
健が俯いていた顔を上げた。
「そうだ。国民にも隠しておく必要があったのだろう。
 分散して保管していれば、纏めておくよりも安全だと考えたに違いない」
「でも、情報が漏れる可能性が高くなるのでは?」
ジュンが言った。
「国家公務員には破格の給料が支払われていたらしい。
 選ばれた者が、世襲制で国家公務員になっていた。
 だから、情報が閉鎖的だったのだ」
「で、その情報をどこからかギャラクターが入手したと言うんですね?」
ジョーが低く響く声で訊いた。
「その通りだ。金を集めるだけの為に、街を破壊し、人々を溶かして惨殺したのだ」
「金庫に穴を空けたのと、人々を溶かした物質は同じ物なんですか?」
健の疑問は当然の事だった。
衣服は溶けていなかった。
その事は南部博士に伝えてある。
「まだ特定出来ていないのだが、恐らくはそうなのだろう」
「あれをギャラクターが人海戦術でやったとは考えにくいんですがね。
 範囲が余りにも広過ぎる」
ジョーが呟くように言った。
「メカ鉄獣に仕掛けがあるように思える。
 金庫を溶かした成分を早く調べねばならん。
 甚平と竜が持ち帰って来た大小の金庫を、今、分析中だ。
 ゴッドフェニックスがやられる程の物ではないとは思うが、こちらも対策を練っておかねばなるまい」
「解りました。お願いします」
健が博士の眼を見た。
「諸君はギャラクターが動き出すまで、此処で待機していてくれたまえ」
「ラジャー」
全員が声を合わせて答えた。

「金塊の屑を鉄片に混ざり込ませて、国家公務員の家庭で保管していたなんて、おかしくねぇか?」
ジョーは疑問を口にした。
「どうしてそこまでして隠しておかなければならなかったか、って事になるぜ」
「ギャラクターが金を集めたかったのは解る。金を資金とするつもりだったんだろう。
 その情報がどこから漏れたのかも謎だし、ジョーが言った事も謎のままだ。
 今回の事件は謎だらけだぞ」
健は甚平と竜がいたソファーに座り込んだ。
「何十年もそうして隠し通していたんでしょ?
 だったら、何か外部の敵からその事を隠していたかったんじゃないのかしら?」
ジュンが言った。
甚平と竜は先程から黙り込んだままだった。
余りにも謎が多過ぎるのだ。
「外部の敵か…。アニソン国にはそう言った敵対関係にある国があったのだろうか?
 あれだけ困窮している国では、戦争でも勃発したら、一溜まりもないだろう」
「そうだな。どう考えても軍隊がきっちり整備されているとは思えねぇぜ」
「待てよ。それが表向きの事だとしたら…?」
健には何か閃きがあったようだ。
「国が貧しいと言うのも偽装だとしたら、どうだ?」
それを聴いたジョーが眼を剥いた。
「アニソン国は独裁国家じゃねぇだろ?
 国ぐるみでそんな事をするか?
 国民が生活に困窮しているって言うのによ。
 それに『お守り』と称しているらしいのが良く解らねぇ…」
「まあな。此処で推理を展開しても仕方がない事は事実だ。
 でも、もしそうだとしたら、敵対する国家に対してのカモフラージュ、って事になるかもしれない」
健は冷静に推理していた。
「解らねぇな。国民を苦しめてまでそんな事をしなくちゃならない理由が全く見えて来ねぇ。
 ……健。推理合戦は時間潰しにはなるが、俺達の『任務』じゃねぇぜ」
もう止めよう、と言下に込めてジョーが締め括った。
最初に疑問を呈したのが自分だった事などとうに忘れている。
「あ〜あ、腹減ったのう。夜中に叩き起こされて朝飯もまだじゃわい」
竜の暢気な言葉に、甚平も同調した。
「そうだよ。何か食べに行こうよ」
「南部博士だって同じだと思うぜ」
「博士も食事なんかする暇はなかった筈だ」
ジョーと健が同時に同じ様な内容の発言をした。
リーダーとサブリーダーは同じ事を考えていた。
最前線で闘う自分達も大変だが、博士が一番大変なのだ。
様々な研究や事業などと同時進行で対ギャラクターに関する対策も取らねばならない。
この2人はそんな多忙な博士の事を心配していた。
博士の傍に一番長くいる2人だからかもしれない。
「此処で待機しろ、と言われたんだ。
 誰かがゴッドフェニックスから保存食を取って来るしかあるめぇよ」
ジョーがそう言った時に、博士から通信があった。
『今、上の展望台レストランに食事を頼んだから、15分程したら誰か取りに行きなさい』
「すみません、博士。博士だって食事を摂られていないでしょうに…」
健はブレスレットに向かって軽く頭を下げた。
『私の事は心配せんでもいい。
 諸君にはこれから任務に当たって貰わなければならぬのだ』
「解りました」
健が皆を振り返った。
「博士は俺達の事を気遣って食事を用意してくれたんだ」
「そこの2人が腹を減らしてるってぇのが聴こえたんじゃねぇのか?」
ジョーが揶揄した。
「でも、私達だってお腹が空いている事は事実よ。
 甚平、私と一緒に来て」
そうして、30分後には満腹になっている科学忍者隊であった。
早く食事をするのは、忍者隊としての任務が始まってから、ずっとそうだった。
竜には少し物足りなかったらしいが、それでも小腹を満たして、そこそこ満足した様子だった。
「おい、腹が膨れて眠くなったとか言うんじゃねぇぜ」
ジョーが釘を差したが、健は逆の事を言った。
「いや、全員、交替で仮眠を取ろう。ジュン、甚平、竜は先に寝てくれ」
「解ったわ…」
ジュンは甚平を促し、ソファーに横たわった。
竜も同様に別のソファーですぐに鼾を掻き始めた。
「健、おめぇも寝て置けよ。俺は宵っ張りの癖が付いているから大丈夫だぜ」
ジョーが言ったが、「そうは行かんだろう」と真面目なリーダーは答えた。
「まあ、おめぇがそう言うなら俺は構わねぇけどよ」
ジョーはやれやれ、と言った感じで両掌を上に向け、それから窓の外を泳ぐ魚をじっと眺めた。
「健…。謎解きを止めようと言ったのは、みんなを休ませる為さ。
 おめぇ、それが解ったんだな」
「ジョーにしちゃあ、配慮が行き届いているな、と感心したのさ」
健は悪戯っぽく笑った。
彼の持つ少年っぽさが垣間見えた。
本来はこうやって笑う少年なのだ。
こんな任務をしていなければ、青春を謳歌している筈なのに。
ジョーも同様だ。
今頃、レーサーへの道をまっしぐらだったろう。
両親を失ったあの事件さえなければ…。
科学忍者隊の5人はギャラクターの出現によって、その若い人生設計を狂わされたと言ってもいい。
「ジョーは休まなくて平気なのか?」
「ああ、バリバリに働きたい気分だ。
 あんな卑劣な事をする奴らを野放しにはしておけねぇ」
「はは、相変わらずだな」
健がまた笑った。
緊張が少し解けた。
「正直な処、得体の知れねぇメカ鉄獣がどんな奴なのか、全く頭に浮かばねぇ。
 健はどうだ?」
「同じさ。材料が少な過ぎる。人と金属を溶かして衣服は溶かさない。
 建物はあれだけ破壊されている。
 ゴッドフェニックスでもどうやって対処したらいいのか、想像も付かない。
 とにかく敵の正体が見えて来ない事には、俺達が此処で考えていても仕方がないな」
「ああ、全くだ。何か気持ちの悪い感じがする。
 嫌な感じだ。悪寒がするような…」
「また、ジョーの『嫌な予感』か…。ジョーの予感は当たるからな。
 心しておく事にするよ」
「杞憂に終わればそれに越した事はねぇ」
「ギャラクターが動き出すのが先か、博士の分析が進むのが先か…。
 どちらにしても、それまでは俺達は動けない」
「そうだな…」
ジョーはまた窓の外を見た。
その時、南部博士からブレスレットに通信があった。




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