『夜明けの襲撃(3)』

『ギャラクターのメカ鉄獣がアルパイン市に現われたと言う連絡が入った。
 どうやらアニソン国で集めた金では足りなかったようだ。
 アルパイン国は金脈がある事で有名だ。
 メカ鉄獣の資源として使うつもりなのかもしれない。
 どうして最初からアルパイン国を狙わなかったのかは解らんが、気をつけてくれたまえ』
「解りました。すぐに出動します」
『私達はアニソン国の金を狙った理由を探っている。
 ギャラクターが狙ったのには、何か特別な理由があったのだろう。
 恐らくは純度の問題だと思うが…』
「はい、お願いします」
健が博士と会話している間に、ジョーは他の3人を起こした。
「おい、出動だぜ」
ジュンはさすがに機敏に目覚めた。
甚平と竜は寝惚けたような顔をしていたが、出動と聴いてその表情を引き締めた。
健はゴッドフェニックスの操縦士である竜を寝不足のままにしておきたくはなかったのだ。
だから先に寝かせる組に入れたのだと、ジョーにもその事は解っている。
「竜、シャキっとしろよ」
「そうよ、健とジョーは寝ていないんだから」
「解っとるわい!」
科学忍者隊の5人は、バードスタイルに変身を果たして、颯爽とゴッドフェニックスの格納庫へと向かった。

「アルパイン国は金鉱で有名な国だ。
 そこをギャラクターが襲撃している。
 南部博士によると、金をメカ鉄獣の動力源として使う為に集めているのではないか、と言う事だ」
ゴッドフェニックスの中で健が説明した。
「動力源と言うよりも、武器として使おうとしているんじゃねぇのか?
 金なんかをどうやって動力源にする?」
「でも、ジョーの兄貴、武器ってどんな?」
「最も硬度が高いダイヤモンドを10として、純金の硬度は2.5。
 少なくとも打撃系やミサイル系じゃねぇな。
 だとしたら…。例えば金を吹き付けて眼晦ましに使うとか、よ…」
ジョーも確信がないので、最後はフェードアウトした。
「そんな事に高価な金を使う必要があるとは思えないな」
健が言下に否定した。
「だとすれば、何か?飽くまでも資金源か?
 それとも本当に動力源として使ってるってぇのか?」
ジョーも頭が混乱して来た。
「とにかく、どんな攻撃をして来るか解らない。
 アルパイン国への被害を防ぐ事を最優先して、充分に注意して掛かろう」
「ラジャー」
健はいつでも冷静だ。
さすがにリーダーの資質がある。
ジョーは彼と衝突する事もあったが、健の事は高く買っていた。
やがて、アルバイン国の領空に入り、メカ鉄獣の姿が遠眼で目視出来るようになった。
「竜、スクリーンにメカ鉄獣を拡大して映してくれ」
「ラジャー」
竜がボタンを押すと、零戦(零式艦上戦闘機)型の鉄獣が映し出された。
「これは、先の大戦で使われた零戦の形にそっくりだ…」
健が一目見て呟いた。
空の男だ。こう言った物には詳しいのも頷ける。
「零戦と言えば、『特攻隊』だろ?捨て身で攻撃するって言う…」
ジョーが鋭い眼で健をじっと見た。
「とんでもない攻撃を仕掛けて来るかもしれねぇって事だ。
 覚悟しておいた方がいいぜ」
「竜、まずは敵の周囲を旋回しろっ!状況を把握する」
「解った!」
竜が操縦桿を操作した。
ゴッドフェニックスはまずは遠巻きに零戦型メカ鉄獣の周辺を回った。
メカ鉄獣がどんな攻撃を仕掛けて来るか、まずは様子見だ。
その時、ゴッドフェニックスが激しい衝撃で揺れた。
「衝撃波だ!竜、回避しろっ」
「駄目じゃわ。操縦桿が効かんっ!」
衝撃波はゴッドフェニックスの機体の一部を溶かし始めた。
「これだ!これがアニソン国を襲った人体や金庫を溶かした物質の正体だ!
 気をつけろ!竜、様子を録画しておけ!」
健はこんな時でも、冷静に指示を出す。
竜は録画ボタンを押した。
データを取っておけば、後で南部博士に分析して貰う事が出来る。
「健、あの衝撃波はミサイルの射出口から出ているな」
ジョーは射撃の名手のせいか、そっちに関心が行っていたようだ。
ゴッドフェニックスが激しく揺れている中でも、しっかりと見ていた。
「とにかくバードミサイルを撃って、衝撃波から逃れようぜ。
 発射のショックで抜けられるだろうよ」
何時の間にか前に出て来て、竜の座席に掴まっていたジョーが言った。
「よし、いいだろう。ジョー、零戦のどてっぱらを狙え」
「ラジャー」
ジョーは赤いボタンに指を掛けて、タイミングを計った。
照準を定めて見事に狙い通りの場所を射抜く。
ゴッドフェニックスは衝撃波の嵐から無事に逃れる事が出来たが、表面にかなりの打撃を受けている。
「左動力部が破損しとる。これ以上飛び続けては不時着する事になるぞいっ!」
竜が悲鳴のような声を上げた。
「止むを得ない。一旦帰還する」
健が決断を下した。
「くそぅ!」
ジョーが憎々しげに零戦型メカ鉄獣を睨んだ。
「このまま金鉱を襲わせるのかよ!?国連軍では防ぎ切れねぇぜ」
「だが、俺達が粘っていてもどうにもならない。
 それよりゴッドフェニックスを無事に帰還させて、動力部を破壊した物質を突き止めて貰う方を優先する」
健は正しい判断をした、とジョーも思う。
だがどうしても我慢ならなかった。
拳を震わせて、スクリーンから眼を逸らす。
「仕方、ねぇな…」
ジョーは虚しく呟くのだった。

ゴッドフェニックスは生命からがら三日月珊瑚礁の基地へと帰還し、すぐにメンテナンスに入った。
それと同時に機体を溶かした成分についても、調査が始められていた。
「諸君は暫く休んでいたまえ。特に健とジョーは眠っていないだろう」
博士はそう言うと慌しく司令室から出て行った。
「博士だって眠ってなんかいねぇだろうに…」
ジョーがその背中に向かって呟いた。
「とにかく俺達は此処で待機だ。交替で食事に行こう。
 仮眠を取るのはその後だ」
健はまたジュン、甚平、竜を先に行かせた。
彼がジョーと話したい様子なのを察して、ジュンは黙って甚平と竜の背中を押した。
3人が去ると、健は口を開いた。
「ジョーの気持ちは良く解る。だが、あの場ではああ言う判断をするしかなかった」
「解ってるって。おめぇがリーダーで良かったさ。
 もし俺がリーダーだったら、全員死なせていたかもしれねぇ」
「いや、そうでもないだろう。お前だって自分がリーダーなら自重したさ」
「さあな。とにかくゴッドフェニックスがあれだけやられたんだ。
 どうやってあの衝撃波を打破するかについては、やっぱり博士の分析結果を待つしかねぇか」
「…だな。俺達はデータを集めて来ただけで、まだ何もしていない。
 俺だって悔しいのさ!!」
健が拳を窓ガラスに叩き付けた。
「あの後、アルパイン市がどうなったのか、博士が俺達に聞かせないと言う事は、相当の被害があったのだろうな…」
「ああ、俺だって悔しいぜ。だが、今更言っても始まらねぇ。そうだろ?健…」
結局2人はお互いを理解し合っていた。
健は意見の相違を気にしていたのだが、ジョーが正しく理解していた事に安堵した。
「お前は諦めが着いていないんだと思っていた」
「諦め?そんなもん、着いちゃいねぇさ。
 でも、もう過ぎた事を考えても仕方がねぇ事だ。
 それよりも先の事を考えた方が有意義だからな。
 こんな風にダラダラしているのは、俺の性には合わねぇんだ」
「ジョーにしちゃあ、上出来じゃないか?」
「洒落か?それは…」
ジョーはこんな会話の中では珍しく冗談を言った。

南部博士が一応の答えを出して来たのは、夜半過ぎだった。
健とジョーも食事をして少し仮眠を取る事が出来ていた。
「何故金を鉄片の中に混じり込ませたかについては、やはり隠蔽の動きがあったようだ。
 理由は、カメリア国との長い敵対関係にあった。
 カメリア国はアニソン国を侵略しようとしていた。
 金脈が眠っているからだ。
 そこで、30年前に金鉱を閉山して、もう金は取り尽くした風を装った。
 だが、将来カメリア国との決着が着いた時の為に、国家公務員達の家庭で金を保管し、いずれは金鉱を復活させるのだと言う口伝を残したかったようだ」
「なる程、そう言う事でしたか…」
「そして、何故金を集めているかなのだが、金は通常錆びる事がなく、熱、湿気、酸素、その他殆どの化学的腐食に対して非常に強い。
 これが金を集めている理由だ。
 つまりは火の鳥対策だろう。
 金でメカ鉄獣を作り出そうとしているに違いない。
 それから金属や人を溶かす衝撃波の正体だが…。
 正体を説明するのは化学式やら何やら出て来るので難しいのだが、同じ物を作り出す事に成功した。
 その衝撃波を時間をずらしてゴッドフェニックスから一定の周波数でぶつける。
 それで衝撃波は消える筈だ。
 後は諸君に任せる。
 ゴッドフェニックスの機首には既にその装備を済ませてある」
「え?」
科学忍者隊が身を乗り出した。
「じゃあ、いつでも出動出来るんですね?」
「そう言う事だ。諸君は此処で待機していてくれたまえ」
「博士、少しでも仮眠を取って下さい」
「俺達はもう大丈夫ですから」
健とジョーが博士に詰め寄るような感じで言った。
「そうするつもりだ。何かあったらすぐに此処に来るから、君達も交替で休んだり食事をしたりしなさい」
「大丈夫です。適宜やっています」
博士は健の言葉に安心したように微笑み、司令室を出て行った。
「あの衝撃波が抑えられれば、メカ鉄獣に乗り込むなり、バードミサイルをお見舞いするなり、何らかの手は撃てるな…」
ジョーは顎に手をやりながら、ニヤリと笑った。




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