『夜明けの襲撃(4)』

科学忍者隊に出動命令が来たのは、翌日の早朝だった。
今度はメカ鉄獣がスプルア市に現われたと言う報告が入ったのだ。
「スプルア市も金鉱がある事で知られている。
 既に国連軍が警護に当たっていたのだが、案の定分が悪い。
 諸君、早速出動してくれたまえ。ギャザーゴッドフェニックス発進せよ!」
「ラジャー!」
全員がバードスタイルで同じポーズを取って博士に答えると、風のように司令室を去って行った。
ゴッドフェニックスは数分後には虹を伴って海上へと飛び立っていた。
「スプルア市は此処から南西に5051kmの地点よ」
ジュンが竜に向かって告げた。
「ようし、急ぐぞ。みんなしっかり掴まってろよ!」
竜は操縦桿を操作して、スピードをアップさせた。
全員仮眠が取れていて、元気だった。
甚平と竜は空腹を訴えたが、今はそんな事を言っている時ではない、と健に一蹴された。
ジョーは黙ってレーダーを睨みつけている。
まるで零戦型メカ鉄獣の動きを一瞬でも早く見つけてやろうと決意しているかのようだった。
ギャラクターへの憎しみは人一倍深い。
金を集めまくって、火の鳥対策したメカ鉄獣を作ろうなどと言う不届きな事を考える輩を許せなかった。
(金を集めるだけなら、人々まで溶かしたり、街を破壊しなくても出来ただろうにっ!)
ジョーの怒りはそこにあった。
家族全員が死んでしまった者もいるだろう。
その日たまたま街を離れていて難を逃れ、1人になってしまった者もいるだろう。
その中には自分のような子供がいるかもしれない。
ジョーは常日頃から自分のような子を出すものか、と言っていた。
そう言った事には特に敏感だ。
ギャラクターが殺戮を続ける事が赦せなかった。
地球上の人口は少しずつ減り始めていた。
天変地異でもなく、人為的な事で人口が減っていると言うのが、ジョーには我慢ならなかった。
「スプルア市まで後500キロ」
ジュンが声を上げた。
そろそろレーダーが反応し始める頃だ。
ジョーは益々レーダーを凝視した。
「レーダーに零戦型メカ鉄獣らしき反応あり。
 進行方向で間違いねぇ」
後手後手に回っている自分達が不甲斐なかった。
ジョーは拳を握り締め、膝を叩いた。
「ジョー、落ち着け。気持ちは良く解る」
健が諭すように言った。
「解ってるさ。みんなも俺と同じ気持ちだって言うんだろ?解ってるさ……」
ジョーは呟くように言った。
「スプルア市まで後200キロ」
ジュンの声が跳ね上がる。
スプルア市は巨大な山脈がある事で有名だった。
この山脈の中に金鉱がある。
アニソン国の時だけは例外だったが、アルパイン市とスプルア市に関しては、メカ鉄獣は市街地を襲ってはいない。
そのお陰で被害は金鉱の人々だけに留まっている。
しかし、金鉱には多くの人が働いていた。
とても赦せるものではない。
「目標まで後50キロ」
遠方にスプルア市が見えて来た。
山脈の中で、爆発が起きているのが、遠眼にも見える。
「もうやり始めやがったな!」
ジョーは思わず立ち上がった。
「ジュン、機首から衝撃波発射装置をスタンバイさせろ」
「ラジャー」
竜によってノーズコーンが開かれ、G−2号機が剥き出しになった。
その下から集音装置が現われた。
これが衝撃波を出す役割もする。
「敵が衝撃波を発したら、微妙にずらして同じ強度で衝撃波を出すんだ。
 そのさじ加減は、ジュンに任せるぞ」
「解ったわ。やってみる」
ジュンは力強く頷いた。
「それが上手く行ったら、ジョー、ジュン、甚平は俺と一緒にあのメカ鉄獣に乗り込むぞ。
 奪われた金を少しでも取り返さなければならない」
「え?兄貴、どうやって?」
甚平が疑問を投げ掛けた。
「それは行った時の状況次第だ」
「臨機応変、って奴だよ」
ジョーは甚平のヘルメットに手を置いた。

敵に近づくに連れ、衝撃波が大きくなって来た。
「ジュン、始めろ!」
「ラジャー」
最初はなかなか調節が上手く行かなかった。
ジュンも必死でコントロールを試みる。
以前デーモン5の音楽に対して、半拍遅れて音楽をぶつけた時とは訳が違う。
相手は音では判断出来ない衝撃波だ。
レーダーを確認しながら、微調整を掛けた。
「ジュン、もたもたしていると、ゴッドフェニックスがやられちまうぜ」
ジョーが額から冷や汗を流しながら言った。
「解ってるわ…」
ジュンも汗を拭い乍ら呟いた。
やがて、もうゴッドフェニックスも限界か、と覚悟した時、衝撃波はピタリと止まった。
ジュンがついにやったのだ。
「お姉ちゃん、やったね!」
甚平が指を鳴らした。
「ぐずぐすするな!これからメカ鉄獣に特攻を掛けるんだぜ」
ジョーは既にトップドームに向かおうとしている健と一緒にもう動いていた。
ジュンと甚平も慌ててそれに続いた。
「竜、出来るだけ接近してくれ」
「解っとる!おらに任せとけ!」
竜は自信満々にそう答え、上手い事、零戦型メカ鉄獣の上部に接近した。
彼を除く4人が颯爽と跳躍し、零戦の羽根の部分に当たる場所へと降り立った。
飛行中の事だから風当たりが強い。
飛ばされそうになる甚平を、ジョーが片手で引っ張って助けた。
「ジョー、有難う」
「おめぇはちと軽いからな」
ジョーはニヤリと笑った。
「行くぞ!」
その様子を見守っていた健が、動き始めた。
零戦を模したメカ鉄獣には、上部にハッチがあった。
本物の零戦のように風防もないような乗り物ではない。
健とジョーで息を合わせてハッチを引っ張った。
空いた穴から、ジュンと甚平が先に飛び込み、健とジョーもすぐに続いた。
早速ギャラクターの隊員のマシンガンの洗礼を受けた。
だが、4人はマントでそれを防ぎながら闘って行く。
「ジュンと甚平は動力室へ!」
「ラジャー」
最近はこのパターンが多いので、2人はすぐに行動を開始した。
「ジョー、手分けして金の保管庫を探すぞ」
「おう!」
敵兵をバタバタと薙ぎ倒しながら、2人は進んだ。
羽根手裏剣が舞い、エアガンの三日月型キットが飛び、ブーメランが宙を切る。
いつもの光景が広がった。
零戦型メカ鉄獣は結構巨大だったが、羽根の部分を除けば縦に長いだけの構造だった。
真ん中に通路があり、その左右にそれぞれの部屋が設置されていた。
調べて行く内にこの零戦は飛行空母にもなっている事が解った。
ジョーがそれを見つけた。
ブレスレットに向かって、
「健!小さいが零戦型の飛行機が3台ある。
 これで金を少しでも運び出せねぇだろうか?」
『それはいい!使わない手はないぜ』
健の声が弾んだ。
「ようし、後は集められた金を見つける事だな」
ジョーは勇んで走り始めた。
敵の攻撃は容赦なかったが、ジョーの敵ではなかった。
身を低くして長い脚を繰り出し、敵を一気に脚払いしてバランスを崩させた処で、後方の敵にも重いキックをお見舞いする。
その瞬間には既に左手で羽根手裏剣を放ち、右手ではエアガンを撃っていた。
2つの武器とその肉体で三位一体の同時攻撃をこなしたのだ。
側転しながらマシンガンの銃撃を避けると逆さになったままで片腕で自身の身体を支えて、羽根手裏剣を3本1度に放った。
器用な事で、逆さになっていても、指の加減で見事に狙い通りの場所に羽根手裏剣を飛ばす事が出来る。
狙い違わず、3人の敵が手の甲を射抜かれて、マシンガンを取り落とした。
落ちたマシンガンが暴発していたが、ジョーは天井に跳躍してそれを逃れた。
降りる時の行きがけの駄賃で、敵兵の首を股で挟み、そのまま前にのめった。
ジョーは床に手を付き、敵兵を脚力だけで仲間達の渦の中に叩き込んだ。
八面六臂の活躍振りだ。
健も離れた場所で同様に闘っている事だろう。
お互いに格闘術においては、相手の事を心配する必要もなかった。
自分の背中を任せられる相手だ。
何の不安もない。
とにかく今は、ギャラクターの雑魚兵を倒して、奪われた金の在り処を探す事だ。
全部は無理かもしれないが、少しでも多く回収しておきたかった。
ギャラクターの野望を費えさせる為に、そして、金を奪われた人々の為に。
その為にジョーは走った。
敵を全身を使って蹴散らし、薙ぎ倒しては走った。




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