『夜明けの襲撃(5)』

科学忍者隊の4人はスプルア市を襲ったメカ鉄獣の中に忍び込んだ。
健とジョーは奪われた金を少しでも回収しようと動いていた。
ジョーは長い脚で敵兵を振り払うように倒しながら、前へと進んでいた。
金はどこに隠されているのか?
まだ健からも見つかったと言う知らせはない。
ジョーは金が保管されている部屋を見つける前に、司令室を見つけてしまった。
「健、先に司令室を見つけちまった。そっちはどうだ?」
『時間を稼がなければならない。そこは1人で持ち堪えられるか?
 今、ジュン達が時限爆弾を仕掛けたと言う連絡が入ったので、金は3人で探す事が出来る。
 金を見つけたら、俺はそっちに応援に行く』
「持ち堪えるのは勿論大丈夫さ。それよりあの2人に金を運び出せるのかい?」
『零戦メカを不時着させるだけの容量に爆弾を調節させた。
 その間に国連軍の一個部隊が入って来る事になった』
「なる程。じゃあ任せたぜ」
『気をつけろよ、ジョー』
「ああ、解ってる!」
ジョーは答えると同時に跳躍して、敵兵の渦の中へと飛び込んだ。
長い脚での蹴りが見事にビシッと決まる。
そのまま反転して、左脚を軸にしてぐるっと回り、敵兵を数人纏めて薙ぎ倒した。
その瞬間、彼はエアガンの三日月型のキットで、自身の後方にいる敵、複数に打撃を加えた。
しゅるり、と音がしてワイヤーが戻る。
ジョーは回転しながら敵に膝蹴りを喰らわしつつ、同時に羽根手裏剣での攻撃を仕掛けていた。
その時、ドドーンと衝撃音がして、ジュン達が仕掛けた爆弾が爆発した事が解った。
零戦型メカ鉄獣の動力室だけを爆破したのだ。
急激にメカ鉄獣が墜落して行くのが解る。
ギャラクターの隊員達はズルズルと身体を滑らせて行く。
ジョーはすぐに跳躍して天井のパイプに捕まっていて、無事にやり過ごした。
メカ鉄獣が山脈の中に墜落した激しい衝撃があった。
土煙がメカの中にも入り込んで来る。
不時着したメカ鉄獣は、それでも水平を保っていた。
気を取り直したギャラクターの隊員達が、再びジョーを襲って来た。
此処は司令室だ。この場所をやられたら、彼らにとって生還の道が閉ざされた事になる。
今の内なら、まだ修理をして助かる方法も考えられようと言うものだ。
必死になって、ジョーに向かって来た。
その間にも、健達は金の運び出しに奔走しているに違いない。
国連軍もどっと乗り込んで来る筈だ。
中にある零戦型の小型飛行機をジャックして、そこに金を運び入れようと言うのだ。
そっちの警備にまだ3人は当たっていた。
『ジョー、まだそっちに応援に行けそうもない。大丈夫か?』
ブレスレットから健の声が響いた。
「心配すんなっ」
ジョーは「むっ!」と気合を込めて、敵兵の鳩尾に綺麗なパンチを決めた。
ジョーは司令室にまだ50人以上はいるだろうと思われる敵を一気に引き受けていた。
それでももう20人近くを倒していた。
彼の体力は衰える事を知らない。
全く息切れをする事もなく、敵兵に1人で立ち向かっている。
こちらは同士討ちの危険がないだけ、思いっ切り暴れられるのだ。
先方はそうは行かない。
実際、ジョーを狙って放たれたマシンガンの弾丸を喰らって斃れて行く者も多い。
ギャラクターの掟として、そう言った事には全く動じないよう、彼らは言い聞かされていた。
ジョーの分が悪いとすれば、疲れた処を大挙して襲い掛かられる事だ。
だが、彼は疲れを知らない為に、敵は襲い掛かるタイミングを奪う事が出来ない。
作戦を練って、一方に引き付けておいて、別の方面から攻撃を仕掛けようとしても、ジョーは瞬時に両方に応戦してしまうのだ、
ギャラクターの隊員どもにはどうしようもなかった。
「ええいっ!たかがコンドル1羽にどこまで梃子摺っておるっ!」
ついに業を煮やしたベルク・カッツェが現われた。
「やっと出て来やがったな、ベルク・カッツェ!」
ジョーが待ってました、とばかりにニヤリと笑った。
「小癪な小童、科学忍者隊G−2号め!
 ただでは置かぬ!見ておれ!」
カッツェが指に引っ掛けてあるマントを翻して腕を上げると、屈強な戦闘ロボットが現われた。
全身を金で包んでいた。
既に一部の金は試作品に使われていたのだ。
「これはこれから作るメカ鉄獣の100分の1の大きさの物だ。
 君には特別に先にお披露目してやろう。冥土の土産にな」
100分の1、とは言っても3メートルはある。
ギャラクターは身長300メートルのメカ鉄獣を作ろうとしていたのだ。
それだけの物を作り出すには、確かに大量の金が必要だった。
この3メートルの戦闘ロボットも、決して金メッキの脅しではなく、全身に金を使用しているに違いない。
こんな物を作られたら、大変な事になる。
爆弾も通用はしないだろう。
ジョーは進退窮まった。
「くそぅ。どう闘えばいい?」
全身を金色に輝かせた戦闘ロボットは、まさにジョーに襲い掛かろうとしていた。
(金は火に強いと言うが、溶けたりして形を変える筈だ。
 ロボットとしての機能を止める事は容易い筈じゃねぇか?
 だとすれば、金で出来たロボットだろうが、メカ鉄獣だろうが、恐れる事はねぇっ!
 ……いや、待てよ!?それが却って驚異的な武器になるのかもしれねぇな…!)
ジョーはそう思った。
このロボットが自由自在に形を変えられる事は、まだ彼の知る処ではなかったが、嫌な予感が付き纏った。
ジョーはエアガンにバーナーを取り付けて、積極的な攻撃を仕掛ける。
バーナーで焼かれた場所が見る見る内に溶けて行く。
エアガンのバーナーは相当の高温の火を発する。
「やったか?」
ジョーはまだ逸らなかった。
落ち着いている。
この程度でやられるようなら、火の鳥対策として『金』を使ったりはしないだろう。
何が出て来るか、ジョーはじっと待った。
溶けて床に流れ落ちた金は弾丸の形を成してジョーに向かって物凄い勢いで飛んで来た。
ジョーは跳躍して避けたが、右足を捉えられた。
太腿に激痛が走る。
金の弾丸は、ジョーの脚に残っていた。
ボタリボタリ、と血が滴る。
脚をやられたのは、これから闘って行く上では厄介だ。
(しまった…。孤立無援の時に…)
ジョーは唇を噛んだ。
だが、彼は脚1本腕1本になっても、闘えると信じていた。
そのように1人訓練もこなして来た。
片脚を引き摺ろうが、引き千切られて失おうが、闘い続けるより他なかった。
それが科学忍者隊だ。
(遣られた事はもう取り返しがつかねぇ。
 どうやってこの危機を乗り越えるか考えろ。
 このままじゃ、もしどでかいメカ鉄獣が出て来たりしたら、闘えねぇぜ。
 いい予行演習だと思え、コンドルのジョー!)
ジョーは自らに喝を入れた。
激しい痛みは忘れるのに苦労する程だったが、闘いに没頭する為にジョーの脳にはアドレナリンが多く分泌されて、彼はただ1個の闘う武器となった。
彼は哀しい事だが、闘う為だけに生まれて来たのだと思っていた。
そして、その為にはどんな犠牲も厭わない。
ギャラクターを斃す事だけが、彼の生きている証だった。
(これが塩化金ならエタノールに弱いんだが…)
エタノールはアルコールの一種だ。
そんな物はエアガンにも装備されていない。
だが、ゴッドフェニックスの救急用ボックスには消毒用エタノールがある筈だった。
「健!誰かゴッドフェニックスに戻って、消毒用エタノールを大量に持って来てくれ!
 説明は後だ!」
ジョーはブレスレットに向かって叫んだ。
『ゴッドフェニックスはこのメカが不時着した近くに着陸している。
 竜に持って行かせよう』
「頼んだぜ…」
ジョーはひとまずホッとした。
だが、まだ気は抜かない。
戦闘ロボットの次の出方を待ちながら、その攻撃を避けつつ、時間を稼ぐ事にした。
『ジョー、メカ鉄獣に乗り込んだぞいっ。どこにいる?』
竜の声がブレスレットから聴こえた。
「この電波を辿って来てくれっ!」
ジョーの声が弾んだ。
「ようし、やってやるぜ!」
金色に光り輝く戦闘ロボットは、ジョーがバーナーでの攻撃を止めたので、形を変化させられなくなった。
そこでギャラクターの隊員がガスバーナーを持ち出したが、ジョーはそいつの腹にエアガンの三日月型キットを浴びせた。
「へへっ。自分自身では形を変えられねぇってぇのが欠点だな。
 いい物を見させてもらったぜ」
ジョーは不敵に笑った。
竜がやって来たら、消毒用エタノールをぶちまけてやる。
塩化金は金の化合物の中では一番多いものだ。
これは賭けだが、やってみる価値はあるだろう。
駄目なら火を使わない別の方法を模索するしかない。
ジョーは太腿の痛みに耐えながら、竜を待った。
その間にも戦闘ロボットは攻撃して来る。
羽根手裏剣で眼を貫いた。
すると、そこからビリビリと電気が走ったような状態になり、戦闘ロボットが動きを止めた。
「ジョー!」
その時、タイミング良く、竜が現われた。
「おう!有難てぇ!」
「ジョー、負傷しているのか?」
「怪我の消毒の為に持って来て貰ったんじゃねえ。
 そこの金で出来た戦闘ロボットさんにちょっとな…」
ジョーは消毒用エタノールの瓶を受け取って、ニヤリと笑った。




inserted by FC2 system