『夜明けの襲撃(6)/終章』

ジョーは早速、一時的に動きを止めた戦闘ロボットに対して、蓋を開けた消毒用エタノールを瓶ごと投げつけた。
瓶は戦闘ロボットに当たり、辺り一面にぶちまけられた。
その瞬間しゅわしゅわーっと音がして、水蒸気のような物が発生し、金が溶けて行った。
「これではもう形も変えられねぇだろうぜ…」
ジョーはその変化を見て呟いた。
「ジョー、脚を撃たれたのか?」
「この金属のロボットは火によって自分の身体を自由自在に変える事が出来る。
 俺のバーナーで溶かしたその身体の一部を弾丸に変えて、俺を襲ったのさ」
「ええ?じゃあ、まだ違った攻撃を仕掛けて来るんじゃねぇの?」
「火で溶けたんじゃねぇ。塩化金はエタノールの成分に弱いんだ。
 あれが塩化金かどうかは賭けだったが、金の化合物では一番塩化金が多いんだ」
「ジョー、説明はいいから手当じゃ。出血が酷いぞいっ」
しかし、竜は消毒用エタノールしか持って来なかったので、此処に救急セットがある訳ではない。
竜は倒れているギャラクターの雑魚兵のベルトを使って、手早くジョーの太腿に止血を施した。
出血は酷かった。
「ハハハハハハっ!さすがはコンドルのジョー。
 良くこの戦闘ロボットの弱点を見つけたな。
 また、逢おう!」
笑い声を残して、カッツェのマントが翻った。
「竜!追えっ!」
「駄目だ。カッツェはミサイルに乗り込んだぞいっ!」
金鉱からミサイルが飛び出したのを、外にいる国連軍達は見た。
「健!金の運び出しは終わったか?カッツェが逃げ出したぜ」
『ああ、ほぼ目星が着いて、今そっちに応援に向かっている処だ』
「こっちは後は爆弾を仕掛けるだけだ。
 敵が出して来た金で出来た戦闘ロボットはエタノールで倒したぜ。
 後は此処に残っているのは怯えた雑魚ばかりだ」
ジョーは辺りを睥睨した。
「健、そんな事より、ジョーは右足の太腿を撃たれとる。
 止血はしたが、早く引き上げさせた方がいいわい」
「いや、そんな暢気な事を言ってられるか!?」
ジョーは片脚で跳躍して、2人をマシンガンで狙っていた敵兵に羽根手裏剣を浴びせた。
「まだ在庫整理が残っているって訳さ」
ジョーもブレスレットに向かって言った。
『ジョー、応援に行くまで無茶をするな。もう間もなく到着するっ』
健の必死な声が聴こえた。
ジョーの大腿部からは確かにボタボタと血が流れ落ちていた。
弾丸の摘出手術が必要だろう。
だが、本人は至って元気だ。
「こんな事ぐれぇで闘えなくなる俺だと思ったか?ギャラクターめ!」
ジョーはその脚で敵兵の中を走り抜けて見せた。
いつものような素早さはないが、とても脚を撃たれて重傷なようには見えない。
「ジョー、此処はおらに任せとけっ!」
竜が前に出て、力技で敵兵を凌駕して行く。
エアガンを持っていても、殆ど抜いた事がない。
専ら力で攻める竜だった。
ジョーはそれを横目で見ながら、それぞれの闘い方の個性を強く感じていた。
そこに健が到着した。
「ジョー、大丈夫か?!」
「大丈夫だ。脚はちょいと不自由だが、動けるぜ」
「金にエタノールとは良く気付いたな」
「まあな。たまたま知識があっただけだ」
背中合わせになって、2人は会話した。
健は「バードランっ!」と叫んでブーメランを投げ、ジョーは羽根手裏剣とエアガンで応戦した。
『健、保管庫にあった金は零戦型小型戦闘機に移したわ。
 3機全てに搭載したから、これを国連軍が操縦して、今から飛び立つわ。
 そうしたら、もう爆弾を仕掛ける事が出来るわよ』
「解った!司令室に爆弾を仕掛けたら、俺達も脱出する。
 ジュンと甚平は先に脱出していてくれ」
『ラジャー』
健はその答えを聴いて、ブーツの踵から時限爆弾を取り出した。
ジョーと竜も同様にする。
ジョーは壁に寄り掛かって左脚で立ちながら、傷を受けた方の脚の踵からそれを外した。
大腿部に鋭い痛みが走った。
「ジョー、それは俺に寄越せ」
「解った」
ジョーは健に言われた通り、その爆弾を健に向かって放り投げた。
間違っても取り落とす事がない健だけに、ジョーは爆弾をそんな扱いにする事が出来たのだ。
爆弾はすぐに仕掛け終わった。
「よし、長居は無用だ。脱出するぞ。
 ジョー、歩けるか?」
「俺に構わず行け。歩けるから心配するな」
「何を言っている!竜!」
健が竜に合図をした。
2人で両側からジョーを支えた。
「出血が酷くなって来ている。竜の止血は適切だったと思うが…」
健が心配そうにジョーの太腿を見た。
「大丈夫さ。意識もちゃんとあるだろう。1人で脱出出来るのに大袈裟なこった」
「意地を張らない!行くぜ」
ジョーは両腕の自由が効かない中、羽根手裏剣だけは唇に咥えていた。
いざとなったら、口でそれを飛ばすのである。
そこまでの訓練を、彼は成していた。
驚きの戦闘馬鹿だ、と健は少し呆れた。

ギャラクターの零戦型メカ鉄獣は無事に爆破された。
金も全てとは行かないだろうが、奪取する事が出来た。
「既にメカ鉄獣を作っていなければいいんだがな…」
ジョーが健の肩を借りたまま呟いた。
「いや、ジョーに弱点を見抜かれた。
 恐らくは計画は中止だろう。それに…」
「それに?」
ジョーが怪訝な表情をした。
「俺達と国連軍が運び出した金は驚く程大量だった。
 まだ基地に戻って下ろす処までは行っていなかったのではないかと思う」
「そうか」
ジョーは一言だけで答えた。
それで終わってくれればいいが、と内心で思いつつ。
「そう言えば、俺の身体の中にも金があったな…。
 これも返さなければならねぇんだろうか?」
ジョーは冗談めかして笑った。
「ジョー、早くゴッドフェニックスに戻って止血をし直しましょう。
 出血が酷いわ」
ジュンが見下ろしたジョーの足元には何時の間にか血溜まりが出来ていた。

ジョーの受けた弾丸は奇跡的に骨を傷つける事もなく、無事に摘出された。
ホッと胸を撫で下ろす、南部博士と科学忍者隊であった。
「ギャラクターが考え出した金のメカにも、ちょっとした綻びがあったってぇ事だ」
ジョーは麻酔から醒めるとそう呟いた。
「この世の中に『完璧』なんてものはねぇからな」
「そうだな。科学忍者隊だって完璧じゃない。
 みんなで力を合わせてこれまで乗り切って来た。
 時には今回のように国連軍に後処理を任せる事もある」
「金は殆ど戻ったって?」
「ああ。ただ最初にやられたアニソン国の鉄片の中の金は、あの保管庫にはなかった。
 あれを結集して作ったのが、ジョーを襲った戦闘ロボットだったんだろう」
「あいつのお陰で、弱点が知れた。
 金も奪回した事だし、ギャラクターもこれ以上馬鹿な事はしねぇだろうな」
「そう思いたいもんだな」
健は席を立って、カーテンを開けた。
眩しい陽射しが入って来た。
「ジョーが思いの外元気で良かったよ」
「大した事ねぇって解ってたんじゃねぇのか?」
「いや、出血が酷かったしな」
「もう輸血も済んだ、でぇ丈夫さ。輸血でちょっとまだ気分が悪いがな」
「それは仕方がない。休んでおけ。
 お前の事だ。ちょっとでも良くなればまた訓練室に行くんだろう?」
「解ってるじゃねぇか。止めるなよ」
「ああ、止めはしない。お前も傷口を広げるような無茶はしないだろうからな。
 それより何だ?そのペンダントは」
「俺の大腿部に入っていた金の弾丸さ。
 博士に記念に貰いたいと言ったら、これを作ってくれた」
「へえ。自分が撃たれた弾丸をね」
「金の弾丸なんて珍しいじゃねぇか?
 見ろよ、線条痕、つまりライフルマークが付いていねぇんだぜ。
 こんな珍しい弾丸はねぇ」
「銃から発砲されたものじゃないからな」
健もそれをじっと見た。
「発射してない弾丸と同様って事か?」
「そう言うこった。確かに一旦俺の体内に入ったがな」
「射撃の名手は考える事が違うな。
 普通なら自分の体内に入った禍々しい弾丸なんて手元に置いておきたくはないだろう」
「そうかい?別にいいさ。俺は変わっている。それでいいじゃねぇか」
「この調子じゃあ、早く回復しそうだな」
健が柔らかく微笑んだ。




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