『距離1kmの狙撃』

コンドルのジョーは、南部博士からの出動命令を受け、単独でG−2号機を走らせていた。
「博士。ゴッドフェニックスで送ってやらんでいいんかいのう?」
ジョーが1人で出動すると聞いて竜が南部に問うと、「今回の任務は隠密行動だ。ゴッドフェニックスで出動したのでは目立ち過ぎる」と言う答えが返って来た。
ジョーが受けた密命はレッドインパルスからの情報により南部が知り得た、ギャラクターのミサイル発射装置を破壊する事にある。
それは未開の地とも言うべく、山奥に位置し、山全体がミサイル発射基地になっていた。
発射口は山で上手くカモフラージュされているのが解る。
先頃G−2号機に追加装備された『コンドルマシン』により、ミサイルの発射口だけを破壊して帰るのがジョーへ与えられた任務だ。
「ジョー。ギャラクターは周囲1km四方にセンサーを仕掛けていると言うのがレッドインパルスからの報告だ。
 つまりはそれ以上離れた場所からしかミサイルの発射口を叩く事は出来ん。
 これは難しい仕事だが、射撃の名手である君に今回の任務を頼みたい」
コンドルマシンは大口径のガトリング砲だ。
南部はミサイル発射口を破壊する為にその砲弾の火薬を5倍にアップした特別弾を用意したのである。
そして、長距離でも可能な限り正確に撃てるよう、砲弾のブレを抑える工夫を施したが、火薬の量が多過ぎる為、完全に制御する事は不可能だった。
「いいか、ジョー。これは危険な任務だ。
 砲弾は10発用意してあるが、使えば使う程G−2号機が耐えられなくなる可能性がある。
 G−2号機の強化をしていては間に合わんのだ。
 つまり、撃つ砲弾は最低限に抑えて貰いたい」
「距離は1kmですよ!いくら俺でも1発では…」
「解っている。しかし、連射をすればG−2号機が発見される危険も多分にある。
 それに機体が加熱して持たなくなる可能性も否定出来んのだ。
 そうなれば、君の身に危険が及ぶ事になる」
「しかし、南部博士!俺達が密かにジョーを援護する事は出来ないのですか?」
そこまで黙って聞いていた健が腕組みをしたままで訊いた。
「ギャラクターの警戒は今回は特に厳重なのだ。
 このミサイルはどこに向けられていると思う?……太陽だ!」
南部はスクリーンに映されているミサイルの望遠写真を掌でバンっ!と叩いた。
「何ですって!?」
忍者隊の5人が愕然とする。
「ギャラクターめ!そんな企みを…」
ジョーが拳を握り締めた。
「レッドインパルスでは狙撃は不可能だ。此処はジョー、君に任せるしか手は無いのだ。
 向かいのこのイカルス山の頂上が狙撃地点としては最適だと言う計算が出た」
「ラジャー!」
そうして、ジョーは単身出動をしたのだった。

「こちらG−2号。南部博士、目的地点のイカルス山へ到着しました。
 風が強くて砂嵐が舞い上がっているので、目標はスコープ上から微かに目視出来る程度です」
ジョーはブレスレットに向かって報告した。
司令室では南部の周りに忍者隊の残る4人も待機している。
『ジョー、現在の現地の天候条件を確認したが、北北西から風速12mの風が吹いている。
 砂嵐はそのせいだろう。しかし、警戒が強くそれ以上近づいては作戦を気付かれてしまう。
 何としてもそこから狙撃を成功させてくれたまえ。もう日延べをする猶予が無いのだ』
「……解りました。やってみます…」
ジョーは瞳を閉じた。
『ジョー!頼んだぞ!』
『頑張ってね!』
『ジョーの兄貴なら大丈夫だよ!』
『地球の…いや太陽系の運命が掛かっているぞい!』
『馬鹿!ジョーにこれ以上プレッシャーを与えるな』
プレスレットから仲間の声が聞こえる。
最後の声は健の物だった。
ジョーはふっと微笑った。
やるしかないのだ。
『装甲鉄獣マタンガー』を狙撃したあの時のように。

ジョーは眼を見開くとゆっくりと息を吐き、ターゲットスコープを覗き込んだ。
左手の人差し指をガトリング砲の発射ボタンに掛ける。
砂嵐は相変わらず収まる事を知らない。
しかし、ジョーは時を読んだ。
砂嵐は収まらなくても、弱まるタイミングはある筈だ。
コンドルマシンのガトリング砲が1km先まで到達するのに2秒は掛かる。
その時間と風を計りながら、ジョーはそのスイッチを押した。
1発目…。
発射口に見事命中したが、完全には破壊し切れていない。
2発、3発…。
ジョーは連射した。
3発目を撃ち込んだ事で漸く発射口が爆発した。
ミサイルも同時に火を噴き、大きなキノコ雲と共に爆音が起きた。
「博士!爆破に成功しました。1発では完全に破壊出来ませんでしたが、3発で無事破壊完了です」
爆風に揺れるG−2号機の中から、ジョーはブレスレットで報告した。
『ジョー、良くやってくれた…』
『やったぁ〜!』
南部の声の後、甚平と竜のはしゃぐ声が聞こえた。
『やったわね…、ジョー…』
『そこにいつまでも居ては危険だ!ジョー、早く帰還しろ!』
「おう!解ってるって!」
『その発射口基地は警戒が厳重だ。1km圏外でも網を張っている可能性は否定出来ない。
 充分に気をつけてくれたまえ』
南部の落ち着いた低い声が通信を締め括った。

『科学忍者隊G−2号、コンドルのジョー君。こちらレッドインパルス』
レッドインパルスが通信して来た。
「こちらG−2号、どうぞ」
ジョーはアクセルを踏みステアリングを切りながら応答する。
『発射口の完全破壊を確認した。ミサイルも無事に爆破された。見事な働き振りだった』
「そりゃあ、どうも…」
『南部は良いコマンドを持ったな…。では、また逢おう!』
一方的に通信が切れた。
(隠密行動をしていたのは俺だけでは無かったって事か…)
ミサイルの所在を突き止めたレッドインパルスは、まだこの地に留まっていたのだ。
それだからこそ、南部は健達を基地に残したのだろう。
レッドインパルスに密かにジョーの援護を頼んで…。
彼は南部に『私達の出る幕は無かったよ。彼は1発目で正確に当てたからね』と笑いを含んだ声で報告を入れていた。


※このストーリーには重大なミスがあります。
 Gメカに武器が配備されたのは、レッドインパルスの隊長の死後です。
 後から気付きました。心よりお詫び申し上げます。




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