『群雄割拠(1)』

ギャラクターのメカ鉄獣が4箇所に同時に現われたと連絡が入ったのは、明け方の4時を回った頃だった。
ジョーは浅い眠りを断ち切られた。
少し嫌な夢を見ていたようだ。
汗を掻いていたが、シャワーに入っている時間はない。
熱く絞ったタオルで上半身を拭いて、急いで三日月珊瑚礁基地へと向かった。
メカ鉄獣は、地球上のあらゆる地点に現われており、科学忍者隊は4箇所に分かれて出動する他なかった。
既に各地に国連軍が出動していたが、とてもギャラクターに敵うものではなく、科学忍者隊に出動要請が出されたのだ。
各マシンに新しい武器が装備されたとは言え、竜のG−5号機は単独では何も変わらない。
そこで甚平と竜が組む事になった。
空を行ける健と彼ら2人は遠方に飛び、ジョーとジュンは比較的近場と言える場所を目指す事になった。
ジョーのG−2号機は時速1000kmまで出せるので、2番目に近い場所が宛がわれた。
どちらにせよ、それぞれが単独行動を取らなくてはならなくなり、チームワークで行動する科学忍者隊も群雄割拠の状態に対応すべく、戦力を分散せざるを得なくなった。
これは恐らくベルク・カッツェか総裁Xの知恵だろう。
科学忍者隊は5人だ。
5箇所にしなかったのは、何か戦略的目的か、単にメカ鉄獣の数が足りなかったか、どちらかに違いない。
恐らくは後者であろう。
作戦実行までにメカ鉄獣の建造が間に合わなかったに違いない。
そうでなければ、そんなお間抜けな作戦は取らないだろう。
とにかく戦力を分散させる事が狙いである事だけは間違いなかった。
ジョーは南部博士の指令通り、イメリア国までG−2号機を飛ばした。
博士が通り道になる国には全て通達を出し、科学忍者隊のメカが通る事を連絡済みだったので、スムーズに現場に向かう事が出来た。
ジョーが到着すると、既に国連軍の飛行艇が何機も墜落して、街は炎上していた。
敵の攻撃のせいか、国連軍が墜落したせいか解らないぐらいの、大規模な火災が発生していた。
ジョーは唇を噛んだ。
(また俺みたいな子供が……)
怒りにステアリングを握る手が震えた。
近場に4体の敵が出現しているのならばまだいいが、場所が余りにもバラバラ過ぎるので、『火の鳥・影分身』など、ゴッドフェニックスで使える技は使えない。
G−2号機の『コンドルマシン』で倒すより他なかった。
1人で敵のメカの中に突入する事も検討した方がいい。
ジョーはそう思いながら、敵を睨みつけた。
敵のメカ鉄獣は飛ぶ事が出来る装甲車型だった。
「車のメカとは、俺にはお誂え向きだぜ。
 それも装甲車か…」
ジョーはニヤリと不敵に笑い、まずは敵の周りを1周する事にした。
街中から少し離れた山脈を利用し、360度観察する。
とにかく敵は飛べるが、こちらは飛べないのだ。
少しでも高い位置から観察するしかなかった。
装甲車型メカ鉄獣は、空を飛ぶ時には8輪のタイヤを体内に仕舞い込む形になっていた。
(奴の中に入り込むとすれば、あそこからだな…。
 どう考えてもあの装甲では、ガトリング砲は通用しねぇ。
 狙い処がどこかあれば別だがな……)
ジョーはステアリングを切りながら、周回し、敵に弱点がないかどうかを注意深く見て回った。
そして、最後には街中にもう1度戻り、今度は下から充分に双眼鏡で覗いた。
「弱点があるとすれば、やはりあの車輪を仕舞う瞬間と、後は……」
装甲車の真下、ど真ん中に球形の爆弾を落とす穴がある。
そこから侵入する事も考えられた。
但し、問題は自分がメカ鉄獣の中に潜入している間に誰がイメリア国の街を敵の攻撃から守るか、と言う事だ。
国連軍に任せる他はないだろう。
科学忍者隊は単独行動中なのだ。
どちらを優先させるかと言えば、これ以上被害を拡げない為に、メカ鉄獣を倒す事を考え、街の守りは国連軍に頼るしかなかった。
南部博士に通信した処、同じ考えだった。
『だが、単独での忍び込みは非常に危険だ。
 充分に気をつけてくれたまえ』
「健達の方はどうなっています?」
『それぞれ現地に着いて、対策を練っている。
 ジョー、成功を祈る』
「ラジャー」
ジョーは通信を終えると、G−2号機を一番高い山脈へと乗り上げた。
早く解決すれば、仲間の元に応援に行ける。
ジョーだけではなく、全員がそう思って行動している筈だ。
ジョーは効率良く行動するには、最初に動力室に行って爆破し、それから司令室に行くしかないと考えた。
いつもなら役割分担をする処だが、仕方がない。
1人で全てを実行するしかなかった。
「ようし、此処からコンドルマシンで惹き付けておいて、飛び乗ってやる」
危険な賭けだった。
大型球形爆弾を自分に向かって落とさせようと言うのだ。
その爆弾を落とすべく、穴が空いた時がチャンスだった。
ジョーのメカは山脈と共に埋まってしまう可能性も否定出来なかった。
しかし、他に手は考えられない。
健ならどうするだろうか、とふと思った。
健のメカは飛行する事が出来る。
でも、同様に『ガッチャマンファイヤー』だけでは倒せないと判断をすれば、メカ鉄獣に乗り込む事を考えるに違いない。
メカを犠牲にする事を厭わずに闘わなければ、敵は倒せない。
きっと同じ判断を下すだろう。
ジョーはG−2号機で敵の眼を引くように派手に蛇行して音を立てて走った。
案の定、科学忍者隊のメカだと敵が気付いて、山脈に向かって飛んで来た。
敵が球形爆弾を落とす瞬間、ジョーはコックピットを開け、G−2号機から飛び出した。
G−2号機は何度か撥ねてから、岩に激突して停まった。
(すまねぇな。無事でいろよ)
ジョーはG−2号機にそっと声を掛けながら、敵のメカ鉄獣に向かってジャンプした。
黒い球形爆弾が岩肌にぶつかって大爆発を起こすと同時に、彼は隙間からそっと中に忍び込んだ。

敵兵はジョーの潜入にまだ気付いてはいなかった。
ジョーはメカと共に散ったと思われていた。
しかし、G−2号機は岩に埋まっただけで、無事だった。
ジョーは見事に敵メカの内部に入り込み、まずは動力室を探っていた。
こう言った装甲車型のメカなら、多分、動力室は下側にある筈だ。
8輪付いている車輪の内のどれかの近くにある、と睨んだ。
恐らくは前輪駆動だろう。
と、なれば前の4輪に限られて来る。
車に詳しいジョーならではの考え方であった。
そうなれば、2輪ずつ左右に並んでいるので、装甲車の前部の下側が動力室である可能性が高かった。
恐らくその上部か、更に上の真ん中付近の一番高く出っ張っている部分が司令室となっているだろう。
ジョーはまず動力室を目指した。
自分の勘に賭けてみようと思った。
走り始めると敵兵もジョーの潜入に気付き始めた。
大きな装甲車型鉄獣だ。
内部のあちこちに敵兵はいた。
ジョーは羽根手裏剣を繰り出し、まずは牽制した。
マシンガンの洗礼を浴びたが、マントで防ぎながら跳躍し、天井のパイプに脚を引っ掻け、逆さ吊りの状態になった。
そのままぶら下がって、敵兵を殴り捲り、エアガンで撃ち捲った。
脚をパイプから抜いて、床に降りる。
今度は長い脚で回転して、思いっきり蹴りを入れた。
ジョーの脚力は強い。
回転しただけで、敵が何人も吹っ飛ばされた。
ジョーは敵の不意打ちを狙って、もう次の攻撃に出ている。
羽根手裏剣を繰り出して、マシンガンを持つ敵の手を射抜いて行き、エアガンを抜いては三日月型のキットでタタタタタンッと小気味良い音を立てながら、敵兵を薙ぎ倒して行く。
いつもの光景だが、今日は周りに健達仲間が居ない事だけが違っていた。
彼らの気合も武器を繰り出す音も、全く聴こえない。
聴こえるのは自分の気合と敵の呻き声、後はジョーが武器を繰り出す時に出る音だけだった。
羽根手裏剣はシュッと空(くう)を切り裂いて行く。
その音はいつでもジョーを良い緊張感に導いてくれた。
全身の勘を研ぎ澄ます。
敵の動きを眼ではなく、身体で、耳で感じ取る。
その訓練が出来上がっている為に、敵兵の中で孤軍奮闘する事になっても、ジョーは焦る事は全くない。
数が多いだけなのだ。
特別な強敵が現われない限り、ギャラクターの退院は油断さえしなければ彼の敵ではなかった。
いくらマシンガンを何丁も向けられようが、それを避けられるだけの能力と反射神経がジョーにはあった。
ジョーはいきなり跳躍すると、敵のマシンガンの上にちょんと乗るかのように軽く触れ、そのまま蹴飛ばした。
マシンガンが勝手にあらぬ方向に向かって、咆哮した。
その流れ弾に当たって怪我をしている馬鹿者もいるが、ジョーはそれを鼻で笑って、先へと進んだ。
動力室を探し出す事が第一の使命だ。
踵に潜ませている爆弾を片方使って、爆破する。
動力室をやってしまえば、その飛行型装甲車は墜落するか、何かの機能を停止する事になるだろう。
そうすれば、街への被害がこれ以上拡がらなくて済む。
ジョーは自分のような子供を出したくないと言う一心で、ギャラクターと闘い続けているのだ。
国連軍だけに任せておく訳には行かない。
国連軍では精々市民を避難させるぐらいの事しか出来ないだろう。
そんな事を言っては悪いかもしれないが、結局は生命の無駄遣いをしているように、ジョーには思えた。
まるで特攻隊のように敵のメカ鉄獣に挑んでは、その生命を散らしているのである。
ジョーはそれを嫌と言う程見て来た。
だから、国連軍には頼りたくなかったのだ。
彼がそんな思いを抱えているとは、誰もしらないだろう。
或いは国連軍の中で唯一彼と親しいレニック中佐なら解ってくれているかもしれない。
ジョーは彼に反抗的ではあったが、レニックの部下を死なせないように気遣っていた。
とにかく自分自身が少しでも早く任務を遂行する事だ。
それしかなかった。
ジョーは風のように走り抜けた。
彼の通り抜けた後には、累々と敵兵が折り重なっていた。




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