『群雄割拠(2)』

ジョーは敵兵を切り拓きながら、ぐいぐいと前に進んで行った。
何しろ仲間達は全員分散して、彼1人しかいない。
全ての任務を素早く完遂させなければならなかった。
今頃、それぞれの仲間達も頑張っている筈だ。
自分だけ失敗する訳には行かない。
このイメリア国を守るのは、今は自分しかいないのだ。
その強い自負と共に、ジョーの身体は突き動かされていた。
自分の意志だけではない何かが、彼を動かしていたのだ。
それは『彼の使命』に違いない。
先に進んで行けば行く程、敵兵がまたぞろ登場して来る。
一体この巨大なメカ鉄獣にはどれだけの隊員が搭乗しているのか…?
しかし、ジョーは雑魚隊員など恐れてはいなかった。
どこかに精鋭部隊が隠れているかもしれない。
その事にさえ気を配っていれば、後は自分の任務を黙々とこなすのみだ。
中には骨のある隊長もいる。
そう言った人間がいると、敵兵の士気も違うものだ。
今の処、そんな気配はないが、中枢部に近づくに従って、精鋭部隊が出て来る事は間違いないだろう。
科学忍者隊の戦力を分散したからには、そう言った人間を乗せている筈だ。
皆殺しにしようと、虎視眈々と狙っているのだから。
とにかく油断は禁物だ。
ジョーは改めて意識を集中した。
羽根手裏剣をばら撒くかのように、瞬速で飛ばした。
1本たりとも無駄にしていない処が素晴らしい。
適当にばら撒いているのではなく、それぞれ指の微妙な角度で敵兵にきっちり狙いを付けている。
それには細かい計算が働いているのだが、ジョーは意識をしてそうしている訳ではない。
無意識に五感を研ぎ澄まし、敵の居場所とその動きを読んでいるのだ。
動きを読めていなければ、こう言った投擲武器は当たらない。
エアガンにしても同様だった。
天才的な戦闘の才能がある。
これは訓練で引き出したものだが、元々は生まれ持っていた優れた才能でもあったのだろう。
科学忍者隊の5人のそう言った潜在能力を早い時点で見抜いた南部博士も大したものである。
もしかしたら、レッドインパルスの力を借りたのかもしれない。
恐らくは強力なブレーンがいた物と思われる。
科学忍者隊の5人はそのブレーンによって、隠密裡に訓練された。
ジョーは持って生まれた身体能力を余す処なく利用し、更にはブレーンから離れてからも、自己訓練をストイックなまでに行なって、自身の戦闘能力を高めて来た。
彼だけではなく、科学忍者隊はそうしてチームワークを育てながら、個人個人で各自の力も精一杯伸ばして行ったのである。
今、持てるその能力を全て使い果たすかのように、無駄のないシャープな動きでジョーは敵に攻撃を仕掛けていた。
そして、身体の全てを武器にしてぶつかって行く。
長い脚で入れたキックは鉛のように重い。
これを喰らった敵兵は当分起きられまい。
科学忍者隊の、その肉体と武器との連係プレイには素晴らしいものがある。
全てが自然で、武器は身体の一部に、身体は武器の一部に、と完全に一体化しているのだ。
その中で、2つの武器を同時に使いこなすのはジョーだけだった。
健はマキビシ爆弾を持ってはいるが、同時に使う訳ではない。
が、ジョーは肉弾戦とエアガン・羽根手裏剣の連携動作を自然過ぎる程自然に行なっていた。
身体に身に付いたものだから、もう嫌と言う程刷り込まれている。
構わずに前に進んで行くと、前方にかなり広い部屋があるのが解った。
このメカ鉄獣の大きさを改めて感じさせられる。
ご丁寧に『Engine Room』と書かれたその部屋の扉を、ジョーは体当たりで破り、もんどり打って転がり込んだ。
中でのんびりしていた敵兵があっ、と驚く。
本当にギャラクターは横の連絡が悪い。
ジョーの潜入を、この動力室の連中は知らなかったのだ。
ジョーは呆れた。
そして、また壮絶な戦闘を繰り広げた。
さすがに此処には今までとは違う少しマシな闘い方をする敵が待っていた。
「へっ、ちっとは遣り甲斐のある相手が出て来たようだな」
ジョーはニヤリと笑って、跳躍した。
チーフ級の隊員と、それに順ずる者のようだ。
1人は一般隊員と同じデザインの服だが、色が少し違っていた。
これがチーフだ。
ジョーはその男が油断ならぬ相手と見た。
周りの奴らよりも、まず、その男を倒さなければ、任務は遂行出来まい。
持っている武器が違っていた。
マシンガンではなく、鎖鎌だ。
隊長になる寸前の段階であるこの男は、手柄を上げれば確実に隊長に昇格出来るので、必死になって闘いを挑んで来る筈だ。
ジョーにとっては望むところだったが、任務を一刻も早く進めなければならない、と言う時間のハンデが彼にはあった。
今、この瞬間にもイメリア国は痛め付けられ、国連軍にも犠牲が出ているに違いない。
ジョーにはその事が我慢ならなかった。
「てめぇら、人の生命を何だと思っていやがるっ!」
そう叫ぶと、チーフ隊員に向かって行った。
鎖鎌は振り回す時に胴に隙が出来る筈だった。
ジョーはチーフを挑発しつつも、鎖鎌の直撃を避け、敵の隙を見つけようと眼を皿のようにしてそれを探した。
動き回り乍ら探すのだから、本当に彼の動体視力は並外れている。
レーサーとしてやって行けるのもこの動体視力があるからに違いない。
大体、最高時速1000kmのG−2号機を自由自在に操れる時点で、どんなレーサーよりも彼は優れていた。
そんな彼の能力を、プロのスポーツ選手よりも優れているのではないか、と南部博士は思っていた。
そして、まさに科学忍者隊はその通りの能力を有しているのである。

鎖鎌の直撃を受ければ、さすがのバードスーツでも、斬られるに違いない。
ジョーは慎重に避けながら、一瞬の隙を見逃さなかった。
エアガンでチーフの胴に向かって一撃を加え、その上で羽根手裏剣で両手を射抜いた。
これで鎖鎌は振り回せない筈だ。
チーフは気を失ってその場に崩れ落ちた。
離れて周りを取り囲んでいた隊員達が竦み上がった。
ジョーは構わずに攻撃を仕掛けた。
早い処、この部屋に爆弾を仕掛け、まずはメカ鉄獣の動きを封じなければならない。
彼はまずペンシル型爆弾を羽根手裏剣を投げる要領で、カッっと音をさせながら、各方面に投げ付けた。
それを抜こうと必死になっている敵の隊員を尻目に、ジョーは左脚の踵から時限爆弾を取り出して、動力室の中枢装置と見られる、平らに置かれた大きな扇風機のような装置の中央に飛び乗って、そこに設置した。
そのまま跳躍して戻って来たジョーを見て、敵兵は後ずさった。
彼らが格闘していたペンシル型爆弾は簡単に抜けるような代物ではなかったのだ。
「時限爆弾は後1分で爆発するぜ。
 逃げなくていいのかい?
 弱腰のギャラクターさんよ」
ジョーはへっぴり腰になっている敵を揶揄した。
『弱腰』と言う言葉に刺激をされたのか、何人かの隊員がマシンガンを手にジョーを囲んだ。
「それで囲んでいるつもりなのかい?」
ジョーは嘲笑った。
「上が丸空きなんだよ!」
彼は強い脚力で弾みを付ける事もなく、気軽にタンっと飛ぶような感じで、天井のパイプに掴まった。
マシンガンが彼に向かって一斉に咆哮した時には、その場に彼の姿は無く、既に部屋の外に出ていた。
通路を駆け抜けている内に爆発が起き、動力室の破壊に成功した。
動力室が機能を停止した途端に、メカ鉄獣は操縦不能に陥った。
だが、すぐに非常電源に切り替わって操縦機能は保たれたようだ。
しかし、それも長くは持つまい。
取り敢えず飛行能力だけは保っているが、球形爆弾を落とす事は出来なくなった。
それだけでも、ジョーにとっては大きな収穫だ。
残念乍ら、補助電源を探して破壊している暇はなかった。
司令室を探して爆破し、脱出するしかない。
問題は、この装甲車型メカ鉄獣をどこで爆破するかと言う事だった。
街の上では被害が大きくなる。
山脈地帯に落とすしかないだろう、とジョーは考えた。
このイメリア国には海がなかった。
海がある他国の空域まで移動させる事は難しいだろう。
せめてメカ鉄獣の爆発した破片は、さっきの山脈に激突させるしかあるまい。
自然を破壊してしまう事になるが、止むを得ない事だった。
ジョーは少し胸が痛んだが、任務遂行の為にそれ以上考えない事にした。
計画を実行するには自分が時限爆弾を仕掛けた後、メカ鉄獣を自ら操縦して行くしかないだろうと考えた。
そう都合良く山脈の方面に流れてくれるとは思えない。
と言う事は、非常用電源が切れる前には片を着けなければならない。
また面倒な事になったものだ、とジョーは思った。
自分の戦略ミスだったか、とも考えたが、どう考えてもこれまでして来た行動以外に確実な方法はないと思われた。
やるしかねぇっ…!
そう決意して、ジョーは通路を走り抜けた。
最初に狙いを付けたのは、動力室の真上だったのだが、どうやら司令室はもう1箇所彼の考えの中にあった、装甲車の天辺の出っ張った部分にあるようだ。
上に上がる階段を見つけて、彼は駆け上がった。
そこにもわらわらと敵兵が現われたが、ジョーは構わずに攻撃を仕掛けた。
ジョーにやられてダダダダと階段落ちする敵兵の姿は、見ている方には痛々しくもあった。
勿論、ジョーはそんな事に構ってはいない。
上へ向かう事だけを考えて行動していた。
だが、上から来る敵だけではなく、下から向かって来る敵にも配慮しなければならなかった。
挟み撃ち状態になる危険性は、確実に、単独行動をしているジョーの方にあったからだ。
ただ、有難いのは此処が階段である事。
左右からの攻撃には殆ど気を配る必要がない。
全身の戦闘時の勘を全開にしながら、ジョーは強いオーラを張り巡らせた。
それは敵兵が一瞬動きを停める程だった。
ジョーは険しい眼をして、敵に迫った。
鬼気迫る迫力で、敵の戦闘意欲を剥奪した。
しかし、そこに軍隊の指揮官のような姿をした隊長がついに登場した。
鞭を持ち、ヒットラーのような姿をしている。
ジョーは冷静にその姿を見た。
(こいつは手強そうだぞ……)
場合によっては、ブラックバードよりもずっと手強いかもしれない。
ジョーの額から汗が一筋流れ落ちた。




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