『群雄割拠(4)』

正三角形の中心部に追い込まれたジョーは、進退窮まった。
周囲には特大バズーカ砲を持ったチーフクラスの隊員が3人。
この状態を打破する為には、三角形のバランスを崩すしかない。
彼は1人のチーフに狙いを付けたが、それをどうやって倒せば良いのか、まだ隙を見つける事が出来ない。
三角形の中の2人の姿は見て取る事が出来るが、1人だけはどうしても死角に入る。
1人を攻撃すれば、恐らく死角にいる男がジョーをバズーカ砲で襲って来るに違いない。
ほんの少しのタイミングのズレが、生命取りになり兼ねなかった。
だが、その1人のバズーカ砲を乗っ取る事が出来れば、形勢を逆転する事も可能になる。
ジョーは射撃の名手だ。
これだけ威力のあるバズーカ砲を手に入れれば、即座に2人は倒す事が出来るだろう。
直撃をせず、間を狙うのだ。
今、三方から狙いを定められている状態では、敵の隙を狙いにくい。
陽動作戦に出るしかないだろう。
彼は頭ではなく、身体で考えた。
次の瞬間にはもう動いていた。
ジョーは眼にも留まらぬ速さで、ペンシル型爆弾をあられもない方向に飛ばした。
敵の集中力がそちらを気にした事で一瞬途絶えた。
彼がペンシル型爆弾を飛ばしたその動きを見切れなかったのである。
このチーフ達が如何に優れた射撃の名手とは言え、特別に重いバズーカ砲を肩に担いでいるのだ。
長時間それを担いだまま緊張状態が続いた為に、彼らはジョーのごく僅かな動きにまでは意識が回らなかったのである。
これはジョーの粘り勝ちであるとも言えた。
彼が先方の立場なら、ペンシル型爆弾を放つ前の一瞬にバズーカ砲を発射してしまったに違いない。
そうすれば、彼らには充分勝ち目があった。
何しろ3対1と、数でも武器でも有利な状態だったのだ。
ジョーは一瞬でそれを転換して見せた。
彼は敵がほんの一瞬意識を爆発に向けた瞬間に、眼の前数メートルの処にいる黄色い隊員服を着た1人に喰らい付いた。
羽根手裏剣を飛ばして利き腕を貫き、その隙に跳躍して、長い脚で後ろから首に蹴りを入れた。
蹴りはしこたま敵に喰い込み、黙らせた。
その僅かな間にバズーカ砲を1門、自分の手にしていた。
黄色い隊員服のチーフは完全に気絶している。
ジョーの行動に呆気に取られていた他のチーフ達はバズーカ砲を撃つ事さえ、忘れていた。
彼の度胸に正直言ってたまげたのである。
水色の隊員服を着た男と、他の隊員の服よりも明るい黄緑色の隊員服を着たチーフが、改めて膝を着き、バズーカ砲を構えた。
2門のバズーカ砲に狙われたジョーだが、微動だにしなかった。
焦る事はない。
恐れる事もない。
こちらはもう既に1門を奪い取っている。
膝を着かなければ撃てないようなら、その腕の差は明白だ。
ジョーはこのまま立ったままの体勢で撃つ事が出来る。
敵がバズーカ砲を撃つ直前に、奪ったバズーカ砲を容赦なく、敵のチーフ達の中間の地点に撃ち込んだ。
直撃はしなかったが、チーフ2人は爆風に吹っ飛んだ。
勿論、自分が以前国連軍選抜射撃部隊と共にこれと同程度のバズーカ砲を撃った時の経験に基づくものだった。
チーフ2名は気の毒だが、生命を落としていた。
それだけの威力があるバズーカ砲である。
先程首に蹴りを入れたチーフも恐らく首の骨が折れている事だろう。
手加減する余裕はなかった。
止むを得ない事だ。
ジョーはそれより、ついに照明が暗くなったり明るくなったり、と不安定になって来たのを感じて、作業を急ぐ事にした。
敵兵は恐れを成して及び腰だったが、構わずにペンシル型爆弾と羽根手裏剣で脅しを掛けておき、必死に利かない操縦桿を操作して操縦をしていた敵兵を狙って、エアガンのワイヤーで2人纏めて首を絞め、気絶させた。
ジョーは走り寄って、気を失った敵兵を横にどけ、その席に座って操縦桿を握り締めた。
地上に激突しそうになった処を何とか辛くも上昇し、残りの時間がどの位あるか解らないが、山脈地帯までこのメカ鉄獣を持って行こうと躍起になった。
ジョーは南部博士に通信した。
「俺の正確な位置を教えて下さい!
 山脈地帯でこのメカ鉄獣を爆破します」
『山脈地帯は左45度の方向、距離3kmだ。
 そのスピードなら1分で到着するぞ』
「ラジャー」
ジョーは右足の踵部分に残してあった時限爆弾を取り出して、1分にセットして操縦桿の横に貼り付けた。
そして、慣れない乍らも軌道修正を図った。
何とかなりそうになった時には、爆発まで残り10秒を切っていた。
ジョーは操縦桿から手を離し、爆発と同時に飛び出そうと準備をした。
危険な賭けだが、仕方がなかった。
もう全く余裕がないのだ。
とにかく爆弾から少しでも離れておいて、爆発の瞬間に空いた穴から外へと飛び出した。
まだメカ鉄獣は空中にいた。
ジョーは落ちながらも、マントでバランスを取り、何とか体勢を整えた。
メカ鉄獣が爆発してバラバラになり、自分より先に山脈地帯に落下して行くのが見えた。
マントを拡げてゆらりゆらりとゆっくり降りて行く。
メカ鉄獣はもう跡形もなく、破片が燃え盛っているのみだった。
ジョーはふと落下した破片により崩れた岩山の中に、G−2号機が無事でいるのを発見した。
(良かったっ!無事に待っていてくれたな!)
嬉しそうにニヤリと笑うと、優雅にG−2号機の近くに着地した。
G−2号機はさすがに少し土で汚れてはいたが、無傷だった。
こうしてジョーの大活躍により、イメリア国は何とかこれ以上の被害を受けずに済む事となったのである。

「こちら、G−2号。博士、イメリア国の任務を完遂しました!」
『ジョー、ご苦労だった。
 すまないが、すぐにダルシア国のジュンの応援に行ってくれたまえ。
 苦戦を強いられているようだ』
「健達は?」
『健は任務を終えて、今から甚平と竜の応援に行って貰う処だ』
「ラジャー。ジュンの現在位置を教えて下さい」
G−2号機にデータが送られて来た。
そうして、ジョーは次の敵地へと転戦する事となった。
ダルシア国へと急ぎながら、南部博士からメカ鉄獣の情報を得た。
それによると、瓢箪型で鋭く回転するメカ鉄獣らしい。
その回転が凄まじく、ジュンはまだメカ鉄獣に潜入出来ずにいるのだ。
地上からのジュンロケットでは全く歯が立たず、回転する瓢箪に弾き飛ばされてしまい、逆に二次災害を招いてしまうのだと言う。
『ジュンは自信を失くしている。何とかしてやって欲しい』
「解りました。それは当人の問題だとは思いますが、任務の遂行については速やかに応援に当たります」
ジョーはジュンの問題はジュンの問題として、処理するべきだと思った。
それが彼女の為なのである。
決して冷たい気持ちで言った訳ではなかった。
自分の事は自分で解決するのがベストなのだ。
彼がそう言った思いでその言葉を告げたのだと言う事を、南部博士も正確に理解した。
教育者としては、それでいいだろうと思った。
博士が「何とかしてやって欲しい」と言ったのは、言葉の綾であり、メンタル面をどうこうしろと言ったつもりはなかった。
まあ、そう言った言葉の行き違いは良くある事だ。
任務の内容さえ、しっかりと把握しておいてくれればそれでいい。
博士はそれで何も言わずに通信を切った。

ジョーはダルシア国へと急いだ。
先程と同様、通り道の国に南部博士が手配を掛けてくれていたので、順調に現地まで進む事が出来た。
「ジュン、応援に来てやったぜ!」
ジョーがブレスレットに向かって叫ぶと、ジュンは嬉しそうに応答した。
『ジョー、助かったわ。私1人ではどうしようもなくて…』
数分後にはジョーが華麗にG−2号機で駆けつけて、2人は合流した。
回転する瓢箪は回っていると、大きな手裏剣のようにも見える。
「ジュン、回転する物の中心は動いていないんじゃねえのか?」
「あ!……そうよね!」
ジュンはジョーの閃きにハッとしたように言った。
やっぱり仲間がいると心強い。
彼女がそう思った瞬間だった。
「私、冷静に考えれば解る筈の事を何で気付かなかったのかしら?」
「おめぇの頭の回転はあの瓢箪よりも早いだろうによ」
ジョーは笑った。
「冗談なんて言ってる場合じゃなくってよ!」
ジュンが赤くなって怒った。
「そうだ。冗談のつもりは全くねぇ。
 あの瓢箪の中心を良く観察してみようぜ」
ジョーはG−2号機の中から双眼鏡を2つ取り出して、ジュンにも渡した。
「ブーメランのように自由自在に飛んでやがるが、やはりあの中心部から爆弾を投下するんだな」
「やはり、ってそっちもそうだったの?」
「ああ。球形の爆弾をな」
「じゃあ、全部のメカ鉄獣がそう言うシステムなのかもしれないわね」
「健に訊いてみれば解る事だ。訊いてみろ」
ジョーが促して、ジュンが健にブレスレットで通信をした。
その結果、健が相対したメカ鉄獣も、今、彼が応援に駆けつけたと言う、甚平と竜が対応していたメカ鉄獣も同じように本体の中央から球形の爆弾を投下するメカだったと言う事が解った。
「何だ、俺達『も』横の連絡が悪かったのかもしれねぇな。
 それぞれの任務に夢中で仕方がなかったとは言ってもよ」
ジョーは健にそう言った。
「ようし、お互いに頑張ろうじゃねぇか」
『ああ!』
リーダーとサブリーダーの2人は頼もしく言い合って通信を切り、それぞれの敵に向かった。




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