『群雄割拠(5)』

瓢箪型のメカ鉄獣は、止まると何とも剽軽な印象がした。
だが、止まるのは方向転換をする一瞬の事で、そこへ地上からジャンプするには無理があり過ぎた。
「ゴッドフェニックスがあればね…」
ジュンは呟いたが、ジョーはまたアイディアを捻っていた。
メカ鉄獣は街中を縦横無尽に飛んでいる。
「あそこの街の一番高いピルの屋上に出よう。
 俺達が囮になれば、近づいて来るさ。
 街の人々の避難は済んでいるんだろ?」
「ええ」
「あのビルの所有者には申し訳ねぇが、そんな事を言っている場合じゃねぇ。
 あそこから球形爆弾を投下する瞬間に入り込むんだ」
「そんな事、出来るかしら?」
「俺が相手をした装甲車型メカではそれが出来た。
 武器が同じと言う事は、同様に出来ている可能性は高い」
『そうだ、ジョー。俺が忍び込んだのも、同じ手口だった』
ブレスレットからまだ2人の会話を聴いていたらしい健の声がした。
「よし、行くぞ、ジュン」
「ラジャー」
2人は風のようにビルを目指した。
エレベーターは何故か壊れていた。
60階建てのビルの階段を2人は屋上を目指して駆け上った。
果てしなく続く階段だったが、さすがに2人共息を切らす事もなく、登り切った。
屋上は鍵が閉まっていた。
「此処は私に任せておいて」
ジュンがヨーヨーを取り出し、ドアノブを直撃し、勇ましく脚で蹴った。
2人は広い屋上に出た。
科学忍者隊が2人いる事を見て取ったメカ鉄獣がこちらに向かって来る。
元々狙いは科学忍者隊の生命だ。
だから、戦力を分散させたのだ。
彼らが居る処に向かって来るのは道理だった。
「ジュン、油断するなよ。球形爆弾に巻き込まれねぇように気をつけろ」
「解ってるわ」
「全く勝気なお嬢さんだ…」
ジョーはニヤリと笑った。
「だからこそ、忍者隊で務まっているんだがな」
「ジョー、余計な講釈を述べている場合ではないわ」
「解ってるさ!」
ジュンは街を守れなかった事で沈んでいるようには見えなかった。
闘いの最中にまでそんな気持ちを持ち込むような彼女ではない事をジョーは知っていた。
彼はタイミングを計った。
瓢箪型メカ鉄獣は、彼が相対した装甲車型メカ鉄獣と同様に大きい。
近づいて来るとその大きさが良く解った。
「爆弾を落とす準備に入ったぞ!」
ジョーが叫んだ。
「行くぜ!ジュン!」
ジョーは力一杯ジャンプした。
メカの中心部分に穴が空いた瞬間、2人は中に潜入する事に成功した。
その瞬間、彼らが居たピルが周囲の建物を巻き込みながら、崩れ落ちた。
「さて、ジュン。こいつはどっちが前だか解らねぇ。
 動力室と司令室が逆にあるんじゃねぇかと思うが…」
「そうね。私はこっちへ行くわ。どっちがどっちに当たるかは賭けよ」
「解ったよ…。行け、ジュン!」
ジョーは踵を返して、ジュンが言った方向とは反対方面に素早く走り出した。
敵兵は予期していたのか、すぐに登場して来た。
もう既に2体がやられているからなのだろう。
ジョーはジュンの事が気になったが、男の自分達と変わらぬ闘い振りをする彼女の事だ。
大丈夫、乗り切るに違いない。
彼はそう思い、気にするのを止めた。
分かれて行動するしかないのだ。
前回自分1人で装甲車型メカ鉄獣に乗り込んだ事を考えれば、やり易さは倍になったと言う訳だ。
ジョーはとにかく前に進む事だけを考えた。
羽根手裏剣が華麗に飛んだ。
全く無駄のない動き。
いつもの事だが、惚れ惚れするような闘い振りで、彼は敵兵を切り拓いて行く。
全身を武器にして闘い、美しいと言っても良い闘い振りを見せる。
羽根手裏剣とエアガン、そして彼の肉体の連携プレーの妙は、筆舌に尽くし難い。
演舞を見ているような錯覚を起こす程、型が綺麗に決まっていた。
ジョーは既に敵を見切り、行動を起こしている。
1人倒した瞬間には、次の攻撃目標を定めているのだ。
だから、転じ方が早い。
敵は意表を突かれ、慌てる事になる。
その『見切りの能力』は、ジョーが生まれ持っていたものだった。
才能と言うしかない。
だから、落ち着いて敵兵に対処出来た。
動きに無駄がないのもそのお陰だった。
敵の行動を先まで読んで行動しているのだ。
頭で考えているのではなく、身体に染み付いた勘だと言っても良かった。
全身の勘を研ぎ澄まして闘っているので、ちょっとした空気の微妙な動きでも、敵の動きを察知する。
特に1人で闘っている時はそうだった。
仲間がいない時こそ、五感を働かせて闘わなければならないのだ。
これまで培って来たチームワークを生かす事は出来ない。
ジョーは敵に長い脚で回し蹴りを入れながら、羽根手裏剣を放った。
別方向にいた敵がギャッと悲鳴を上げた。
その瞬間にはエアガンを発射していた。
身体と武器が一体化している。
体術も優れているから、敵は溜まらない。
ジョーは長い手足を自由に扱った。
自由気まま、解放されたかのように、華麗に舞い、彼が動いた後には、敵兵が山となって倒れている。
重いキックを浴びせた返しに、反対側の敵の首に手刀を与え、倒れる処を潜り抜けて、別の敵の鳩尾にパンチを入れる。
そんな事は朝飯前のいつもの行動だった。
ジョーは生き生きと闘っていた。
まるで闘う為に生まれて来たかのように…。
それは哀しい事だったが、彼の中では当然の事だった。
ギャラクターを斃す事、それしか考えずに生きて来たのだから。
とにかく先を急ごう。
ジョーは敵を払い除けておいて、跳躍した。
行きがけの駄賃に、敵兵を蹴り落として、そのまま疾風のように走った。
「ジュン、そっちはどうだ?」
『まだ辿り着かないわ。敵の数が多くて』
「こっちも同様だ。抜かるなよ」
『解ってるわ!そっちもね!』
落ち込んでいるとは思えない返事が返って来た。
何だかジュンに主導権を握られているようだ。
ジョーはへっ、と笑いながら、眼の前にまた現われた敵を見た。
隊員服の色が違う。
どうやらチーフのようだ。
(ジュンが隊長と当たらなきゃいいんだが…)
ジョーはそう思ったが、今はこの敵を斃す事が肝要だった。
瓢箪型のメカ鉄獣はまだ高速で回転している筈だったが、此処まで来てみて、中は回転していない事が解った。
闘いやすくて有難ぇ、とジョーは思った。
それはそうだろう。
敵兵だって、メカを扱うのに回転しまくっていては、操作しにくくて困る筈だった。
ジョーはその点に関しては凄く納得が行った。
そこで現われたチーフを良く観察した。
水色の色違いの隊員服を着たチーフは、ライフルを武器としていた。
(また射撃自慢の奴か…。俺にはお誂え向きだぜ…)
だが、ただのライフルとは思えない。
弾丸にでも細工してあるに違いなかった。
一体どんな細工がされているのか?
ジョーは慎重になった。
まずは攻撃をさせてみる他ないか、とジョーは思った。
(挑発してみるか?どんな弾丸が出て来るのか…)
危険な賭けだが、敵の動きを見切る為には、そうするしかなかったのである。
ジョーは羽根手裏剣を口に咥えた。
エアガンも抜いている。
そのまま敵のチーフへと向かった。
この場所は通路となっている。
ある程度の広さはあったが、逃げる場所はなかった。
後方に下がるしかなかったが、そこには敵兵が束となって迫っている。
しかし、まずは弾丸を1発でも発射させる事だ。
自分から攻撃を仕掛ける事にして、ジョーは1歩前に出た。
羽根手裏剣を唇からゆっくりと抜いて右手に握った。
「そっちから来ねぇなら俺の方から行かせて貰うぜ!」
ジョーは挑戦的な眼で、チーフを睨みつけた。
チーフがライフルを構えた。
(撃て!手の内を見せてみろ!)
ジョーは羽根手裏剣を放った。
その羽根手裏剣を目掛けて、ライフルが火を吹いた。
ジョーは囮として放ったので、羽根手裏剣にはそれ程スピードがない。
ライフルからどんな弾丸が出るのか、彼は素早く天井へとジャンプして張り付き、じっと見つめた。
動体視力が優れている彼は、しっかりと弾丸を見切った。
あの早い弾丸をどうして見切れるのか不思議なものだが、弾丸は彼の見る限り、普通の形状をしていた。
それは囮の羽根手裏剣を砕いて、仲間の元へと襲い掛かった。
「うわぁ〜!」
と悲鳴を上げた敵兵の1人が、血を喀いて倒れた。
(散弾銃だな…)
ジョーは見極めを付けた。
(ん?それだけじゃねぇっ!)
周りにいる仲間達が苦しみ始めた。
何か微生物が仕込まれているようだった。
胸に穴を空け、血を喀いた者の周囲にいた隊員達は、その胸の穴から出て来た虹色の何かに襲われている。
(あれは何だ!?)
最初に撃たれた隊員は身体が溶け出して消えてしまった。
そして、その後、虹色の物体に包まれた者も同様に悲鳴を上げ、そして身体が溶け始めた。
(散弾銃で身体中に微生物をばら撒いて、感染源とするのか?)
ジョーはその辺りにいる敵兵を一掃する為にペンシル型爆弾を投げつけた。
彼自身まで感染する恐れがあったからだ。
微生物諸共、爆発で消え去った。
しかし、脅威が起こるのはこれからだった。
文字通りの『群雄割拠』。
またしても恐ろしい敵が彼を待っていた。




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