『大型拠点(3)』

甚平とコンビを組んだジョーは、甚平を見守りながら進んだ。
この子は遅れを取るような事はしない。
誰よりもすばしこくて、燕のような子供だ。
だが、ジョーは甚平を買っている。
子供ならではの視線で、意表を突くような作戦を成功させる。
立派に科学忍者隊の一員として、働きを見せていた。
今回も冴えを見せてくれる事に期待した。
勿論、自分自身も八面六臂の活躍をするぜ、と張り切っていた。
もしかしたらギャラクターの本部かもしれないのた。
そう思うと気が逸った。
しかし、それでは行かぬと自身を戒めている。
一緒に行動している甚平までを巻き込むような短慮は出来ない。
その位、ジョーにも解っている。
とにかく通路をひた走った。
甚平は遅れる事無く、着いて来る。
科学忍者隊の中では、ジョーが一番足が速いのだが、それにピッタリと着いて来る。
(甚平、頑張ってやがるぜ)
ジョーは何故だか嬉しくなった。
弟分は明らかに科学忍者隊として成長しているのだ。
子供のままでいて欲しいと言う勝手な願いもあったが、いずれは自分達だってやがて成人する。
年齢を重ねる事は誰にとってもいつだって平等だ。
「甚平。余りにも静か過ぎる。
 罠の類に気をつけろ」
「ラジャー」
ジョーが前を走っているから大丈夫だとは思うが、甚平1人では心配だ。
やがてまだ赤外線装置が現われた。
「甚平、匍匐前進だ」
「またか…。ギャラクターの奴ら、まだおいら達の潜入に気付かないのかね?」
「見張りを置いていねぇって事は、この基地のセキュリティーに自信があると言う事さ」
2人は話しながら進んだ。
やがて赤外線の装置が途切れる。
「警戒は厳重だ。見ろ、赤外線を潜っている間に、監視カメラが横切った。
 俺達の姿も捉えられたかもしれねぇ」
「…となると、そろそろお出ましかもね」
「油断をするなよ」
「解ってらいっ!」
甚平が威勢良い言葉を発した時、についに、敵兵がわらわらと現われた。
「良く此処まで侵入して来たものだ」
「他のルートの2人も引っ掛かりやがった。
 覚悟するがいい」
そうか、健達も発見されたんだな。
ジョーは思った。
連絡して来る余裕がない修羅場を演じているのかもしれない。
「覚悟などとうに出来てるぜ。
 俺達は貴様らを斃す為なら、いつでも生命を捨てる覚悟をしている。
 但し、無駄死にはしねぇぜ」
ジョーが啖呵を切った。
「俺様だって同じさ」
「何をこのガキが!」
敵兵は言い放ったが、ジョーは、
「この甚平って奴はおめぇらなんかよりずっと肝が据わっているんだぜ」
と擁護した。
「おめえらを相手にしている程暇じゃねぇ。
 さっさと片付けさせて貰うぜ」
ジョーはすぐさま戦闘体勢に入った。
羽根手裏剣が舞い、エアガンが敵の顎を砕く。
甚平のアメリカンクラッカーで敵を翻弄しながら、効果的に敵を叩きのめして行く。
いよいよ、これからから基地として本格的に機能する地域なのだろう。
敵もこれ以上の侵入はさせたくないようだった。
「甚平!容赦なくアメリカンクラッカーに爆弾を仕掛けてやれ」
「ラジャー」
甚平が敵を煙に巻いたのは、それから数分後の事である。
「よし、甚平。このまま進むぞ」
ジョーは武器を仕舞って、再び走り始めた。
通路の右側に部屋があるのが見える。
「甚平。あの部屋に突っ込むぜ」
「ラジャー」
「此処はまだ中枢部じゃねぇ。
 研究室とかそんな物かもしれねぇな。
 とにかく慎重にな、行くぜ!」
ジョーは扉を体当たりで開け、転がり込んだ。
中は牢屋のようになっていた。
ギャラクターの隊員服を着ているが、マスクを取り外された連中がいた。
「何だろ?ジョー」
「どうやら脱走者か戦犯者を入れる牢獄らしい。
 他に行くぜ」
「うん!」
甚平は音を立てて、ドアをバシンと閉めた。
「甚平、着いて来いよ!」
ジョーは走るスピードを上げた。
これまでは甚平に合わせてくれていたのだが、ジョーが本気を出すと言う事だ。
甚平はキッと鋭い顔になって、ジョーにどこまでも着いて行こうと必死で走った。
ジョーは行く先々に出て来る敵兵を羽根手裏剣で襲っていたが、ある地点でピタリと止まった。
「ジョーの兄貴、どうしたの?行き止まり?」
「いや……」
ジョーが見下ろしたのは、床に棘がある通路だった。
床だけではない。
天井にもある。
天井が落ちて来て侵入者を串刺しにすると言った物だろう。
「甚平。こいつの動力を探せ」
「ラジャー」
2人は眼を皿のようにして、動力源を探した。
「ジョー、あそこがスイッチじゃないかな?」
甚平は左右に渡る通路の左側の、棘が途切れる場所を指差した。
「ようし、待っていろ」
ジョーは羽根手裏剣を取り出した。
「棘を避けてあのスイッチを壊すのは至難の業だよ」
「解ってる。だかやらなきゃならねぇ。
 きっとこの先には重要な部分があるに違いねぇんだ」
「解ってるけどさぁ」
「甚平。集中させろ」
ジョーは間合いを計った。
一瞬で決めなければならなかった。
羽根手裏剣を弧を描くように放った。
見事スイッチは破壊され、床と天井から出ていた棘が引っ込んで行った。
「やったね。ジョー」
「さあ、もたもたしてねぇで行くぜ」
右手は行き止まりになっていた。
自然左手に行くしかなかった。
だが、行き掛けてジョーはふと止まった。
甚平がジョーの背中にバイザーをぶつけた。
「ジョー、急に止まらないでよ」
「甚平、ちょっと待っていろ」
ジョーは行き止まりの筈の右側へと戻った。
壁に耳を付けて耳を澄ます。
「機械音と人の声がする」
と言った。
「じゃあ、そこに隠し部屋があるって事!?」
「そうだ」
ジョーはエアガンの先にバーナーを付けた。
焼き切るつもりだ。
丸く円を描いて、穴を空け、踵にある磁石でそっとそれを音を立てずに、脇に置いた。
「甚平、行くぜ。ちびるなよ」
「解ってらいっ!」
2人はそっと穴から侵入した。
「メカ鉄獣製造工場だな。
 ついでだ。全部爆破しておこう」
「おいら達の所在が解っちゃうよ」
「もうさっきの時点で解っている筈だ。それによ…」
ジョーが睨んだ先には、既に敵兵が並んでいた。
「甚平、やるしかあるめぇ」
「あいよ」
2人は散った。
そして、ジョーは闘いの最中にも、敵の未完成のメカ鉄獣にペンシル型爆弾を放って、華麗に爆破させた。
甚平も頑張った。
「ジョーの兄貴、爆弾の方は任せといて!
 闘いに集中してよ」
「解った!頼んだぞ」
爆弾に関する知識はジュンから得たのだろう。
この子はなかなかやる。
ジョーは安心して任せる事にした。
その代わり、敵兵が甚平を襲わないように、と出来る限りの援護をした。
羽根手裏剣を縦横無尽に操り、無駄のない動きで敵兵の戦力をこそぎ取って行く。
マシンガンさえ使えなくすれば、肉弾戦に持ち込んだ時は有利だ。
ジョーの技が冴え渡った。
エアガンの三日月型のキットで顎を割り、長い脚で回転して、敵兵を薙ぎ払う。
いつ見てもうっとりするような演舞のような舞いだった。
彼がひとたび舞う度に敵兵が倒れ込んで行く。
先の見えない闘いだが、ギャラクターの本部を潰してやると言う気持ちが、彼を此処まで強くしていた。
これから何が起こるかはまだ解らないが、今はこの場を片付けるしかなかった。




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