『大型拠点(4)』

メカ鉄獣の製造工場を2人して爆破し、ジョーと甚平はさっきの棘の罠の部分をそのまま走り擦り抜けた。
ジョーが羽根手裏剣でスイッチを切ってあったからである。
これからは、反対方向に進むより他なかった。
行き当たりだった今の部屋から、2人は正面に向かって走って行った。
無機質な通路が続いた。
ジョー達はもう赤外線通報装置を気にする事なく走った。
どこからでも敵兵は出て来る。
脇に通路があれば、必ずそこから沸き出て来た。
ジョーも甚平も生き生きと闘った。
持てる力を全て出し切るかのように、敵兵に当たって行った。
雑魚兵は2人の敵ではなかった。
甚平は身体の小ささを利用して、相手を混乱させる。
ジョーは全身を武器にして、身体中で闘う。
敵の動きを見切るのが得意なので、ビシビシと綺麗に技が決まり、敵が崩れ落ちて行く。
何しろ1人の敵と闘っている間に次の敵を見極めているのだから、敵としては堪らない。
ジョーのその能力は天性とも言えるものだった。
甚平が思わず見惚れる程に、無駄のない動きで敵兵を薙ぎ倒して行く。
「甚平、ボーっとするな。早く先に進むぞ」
「待って。おいらこいつらが出て来た通路を確かめてみたいよ」
「解った。行ってみよう」
ジョーは甚平を買っている。
確かに敵兵の『溜まり』があるのかもしれなかった。
尤も今出て来た奴らは彼らが倒した。
あとどの位残っているかは解ったものではないが……。
『控え室』があった。
ジョーか長い脚でドアを蹴破って飛び込んだ。
誰もいない。
ふと、ジョーは不吉な予感を覚えた。
「甚平!逃げろ!」
甚平を突き飛ばし、自分もスライディングするかのように部屋を飛び出した。
辛くも彼が出た後に、鉄格子が降りて来た。
ギリギリセーフだった。
もう少しで脚が引っ掛かる処だった。
「ジョー、ごめん。
 おいらが余計な事を言ったばっかりに…。
 罠が張ってあったなんて」
「気にするなって事よ。
 此処を確かめようとしたおめぇの行動は正しい」
ジョーは甚平のヘルメットに手を置いた。
そして、彼を先導して、元来た通路に戻って、先へと進み始めた。
「これから何が出て来るか解らねぇぜ。
 注意を怠るなよ」
「うん。解った」
甚平が急にキョロキョロし始めたから、ジョーは失笑した。
「それでは挙動不審者だ」
ジョーは甚平の細い肩を叩いて、瞬速で走り始めた。
甚平はそれに一生懸命付いて来た。
これが竜だったら、遅れを取るに違いない。
竜には悪いが、甚平で良かった、とジョーは思った。
竜には竜の分と言う物がある。
彼はゴッドフェニックスの操縦と言う誰にも真似が出来ない力を発揮する。
それだけでも、竜は科学忍者隊にとって必要な人物なのだ。
竜はその事を解ってはいないだろう。
他の4人は良く解っていたのに。
「今頃は落ち込んでいるかもしれねぇな…」
ジョーは主語も言わずに、つい口に出して呟いてしまったが、甚平も同じ事を考えていたのか、
「きっと諦めているよ。自分は留守番なんだって」
「留守番が如何に重要な任務なのか、あいつにもいつか解る日が来るさ」
ジョーはニヤリとした。
竜だって立派な科学忍者隊のメンバーだ。
欠けては行けない存在だ。
これからゴッドフェニックスが必要となれば、彼がこの基地に機首を突っ込ませて来る事になるのだから。
ジョーは解って欲しいとは思わなかったが、竜が自分で勝手にその事に思いを馳せるようになるだろう、と思っていた。
走りながら他事を考えている2人だが、だからと言って、油断をしている訳ではない。
敵が現われれば武器や身体を使って、闘って行く。
ジョーも甚平も全く隙は見せない。
敵兵を薙ぎ倒しながら、走り抜ける。
2人が駆け抜けた後には、敵兵が山となって重なっている。
相変わらずの活躍振りだった。
「馬鹿に広いな。まだ中枢部に辿り着かねぇのか?」
ジョーは闘い乍ら、ブレスレットに向かって健を呼んだ。
『こっちもまだだ。エメレスト山の中は殆ど改造されているのかもしれんぞ』
「世界最高峰の山をそんな風にするなんて、赦せねぇぜ!」
『ああ、俺も同じ気持ちだ。
 ジョー、油断するなよ。
 何が出て来るか解らんぞ』
「解ってる。そっちも気をつけろ。
 さっき甚平とメカ鉄獣の製造工場を破壊しておいたぜ」
『よくやってくれた。それは敵の戦力を大分削いだ事になるぞ』
「他の場所にもなければ、だがな……」
『また何かあったら連絡してくれ』
「ラジャー」
通信を終えると、またジョーの走るスピードが上がった。
甚平も着いて来るのが大変そうになって来ている。
だが、彼は音を上げなかった。
さすがである。
小さくても科学忍者隊の一員なのだ。
ジョーは小さな仲間を頼りにしていた。
なかなか機転の利く子だ。
兄貴分の自分達と大差はない。
それ処か、子供らしい視点から自分らには思いつかないような事を考え付く。
だから、さっきも甚平の言う事をお座成りにはしなかったのだ。
「甚平!」
ジョーは突然脚を止めた。
「また機械音がするな」
「え?おいらには聴こえないけど…」
「黙って静かに耳を澄ませてみろ」
「………あ、ホントだ!」
その音は彼らが走っている通路の左側の部屋から聴こえた。
「此処は電力室か?」
甚平がそれを受けてドアに耳を当てた。
「そうだね。この音はそうだと思うよ」
「ようし。破壊するぜ。
 敵がわんさかいるかもしれねぇ。
 甚平、気をつけろよ!」
「ラジャー!」
ジョーがエアガンを取り出して、ドアノブ部分を撃ち抜いた。
ガランと音を立て、扉がブラブラと開いた。
ジョーはすぐさま飛び込んだ。
機械音がガタガタカタカタと鳴っていた。
中にいた敵兵は監視係程度だった。
甚平がアメリカンクラッカーで意表をついて攻撃をし、もう1人はジョーが羽根手裏剣で倒した。
その物音を聴いて、奥から敵兵が出て来た。
「甚平、機械に巻き込まれねぇように気をつけろよ」
「ラジャー」
2人は生き生きと闘った。
敵兵の中には、機械に巻き込まれてしまった者もいた。
電力に巻き込まれ、ビリビリと感電していた。
(危ねぇな…)
ジョーは内心で呟いた。
あれに甚平を巻き込まれないように気を遣ってやらなければ、とジョーは注意を払った。
電力室の中心にはぐるぐると回る太い芯があった。
「甚平!あれを爆破するんだ。少しの爆弾では破壊出来ねぇぞ!」
「解ったよ、ジョーの兄貴。
 おいらに任せて!」
甚平はブーツの踵から時限爆弾を取り出した。
ジョーはその間に、甚平の援護をした。
敵兵を1人たりとも甚平に近づけまいと奮闘した。
羽根手裏剣が舞い、エアガンの三日月型のキットが敵兵の顎を砕く。
ジョーは演舞を舞うかの如く、美しい動きを決めて行った。
全く無駄がない。
羽根手裏剣をあれだけの数飛ばして、外した物が1本もないのだ。
全てが敵兵の手の甲や首元に当たっている。
数は大量に使うのだが、全く無駄にはしないので、南部博士からクレームが出て来た事はない。
羽根手裏剣を好んで使うのはジョーだけだが、博士は快く羽根手裏剣を箱毎渡してくれる。
1箱には100本入っていた。
ジョーが要求すれば、それだけの数を渡してくれたものだ。
敵兵との闘いの中で、羽根手裏剣がどれだけ役に立っているのか、博士は知っていた。
ジョーは甚平から合図があるまで、羽根手裏剣とエアガン、そして自らの身体を武器として、敵兵と渡り合っていた。
甚平を守る事を最優先していた。
自分が傷を負う可能性もあったが、そんな事を気にしている時ではなかった。
電力室をやれば、敵の基地にかなりの打撃を与えられる筈であった。
ただ、大規模な基地の為、電力室が1つとは限らなかった。
そこがジョーの憂いの1つだった。
「ジョーの兄貴!後1分っ!」
甚平の合図があった。
ジョーは両腕で首を抱えていた2人の敵兵をそのまま頭同士をぶつけさせ、払い落とした。
「ようし。行こう!」
2人はヒラリとドアから外の通路に出て、甚平は丁寧に扉を閉めて、アッカンベーをした。
その瞬間爆発が起きた。
ジョーは甚平を庇うようにマントで覆って、床に伏せた。
「甚平。冷や冷やさせるな。
 油断をするなと言った筈だ」
「ごめん、ジョー」
爆発と共に通路の照明が切れた。
「健、こっちは電力室を破壊して、真っ暗闇になった。
 そっちはどうだ?」
『こっちには影響ない』
「だとすれば、他にも電力室があるってぇ事だな」
『これだけ大規模な基地だ。それは有り得る』
健もそう答えた。
「やれやれ、まだ道は遠そうだな…」
暗闇の中、ジョーは呟いた。




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