『大型拠点(6)』

ジョーは傷口の痛みなど殆ど感じる事もなく、闘いだけに専念していた。
闘いが終わってから、痛みに気付くのだろう。
それ程までに闘う事だけに集中していたのだ。
通路はまだ続いていた。
『ジョー、そっちはどうだ?』
健からの通信が入った。
『今、こっちも1つ電力室を破壊した処だ。
 これで基地の機能が停止してくれればいいんだが』
「どうかは解らねぇが、とにかくだだっ広くて、行けども行けども司令室に辿り着けねぇ」
『諦めるな。やるしかないんだ』
「俺にそれを言うか?そんな事ぁ解ってるぜ」
『そうだな。じゃあ、2人とも気をつけろよ』
「ラジャー」
それで通信は切れた。
健の方も敵兵がわらわらと出て来るので、話をしてはいられない状況なのだろう。
こちらも同様だ。
ジョーは話しながら、暗闇の中、敵兵に飛び蹴りを入れていた。
健もジョーも闘いの最中に話をしていたのだ。
そうでもしないと話をする余裕がなかった。
それ程までに出て来る隊員達の数が多い。
此処はやはり本部なのだ、と言う気持ちが強くなった。
「半端じゃねぇな。甚平、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
2人は壮絶な闘いの中にいた。
少しでも油断をすればやられる。
生命の遣り取りをしているのだ。
敵兵は目敏くジョーの肩の傷に気付いていて、そこを集中攻撃して来る。
今の処、何でもないのだが、此処をまた攻撃されると痛手を受ける事になる。
ジョーは傷を悪化させないように動いた。
だが、多くの敵兵を相手に活躍している間に、マシンガンでその場所をしこたま叩かれた。
奇襲攻撃だった。
他の敵を相手にしていた為に、対応が一拍遅れたのだ。
マシンガンにはそう言った使い方もある事はジョーも熟知していた。
それによって、傷口が裂けたのが解った。
「ジョーの兄貴っ!」
「俺の事は気にするな。自分の闘いに集中しろっ!」
ジョーは甚平を叱咤した。
最初は掠り傷だったが、それが広がって、血がぽたりと垂れた。
だが、この程度で青菜に塩になるジョーではない。
(これ以上、肩を攻撃されたら使えなくなる。
 くそぅ。同じ攻撃は2度とは受けねぇっ!)
内心でそう叫んで、「うおりゃ〜っ!」と気合を込めて、敵兵の間に突進して行った。
相手の怪我に乗じるのは卑怯者のやる事だ。
だが、こう言った生死を賭けた闘いの時には、止むを得ない。
敵だって必死なのだから。
ジョーはただ、その攻撃を受けた自分が情けないだけだった。
その自分への怒りを、敵に向けた。
羽根手裏剣が冴えた。
唸りを上げて敵兵の中へと飛び込んで行く。
それが全て見事に狙い通りに決まっていた。
ジョーは敵兵に回し蹴りを喰らわせた。
肩の傷が痛んで、血飛沫が飛び散ったが、全く気にはならなかった。
今はとにかくこいつらを倒して、先に進む事だ。
それしかジョーの頭にはなかった。
甚平も、そして、離れて闘っている健やジュンも同様だろう。
そして、ゴッドフェニックスで待機している竜もまだ出番は来ないのか、とハラハラしているに違いない。
焦れる気持ちはあったが、それに押し潰されては負ける。
ジョーは自分にそう言い聞かせた。
このまま走ったら、エメレスト山の南側に出てしまうだろう。
基地の中枢部はそこまで行く前にある筈だ。
恐らくは、北側と南側を結ぶ中心点に。
それを考えると、そろそろ中枢部に入っている事だろう。
敵兵の数がまた増えて来た事からもそれは容易に想像が付く。
ジョーは1人の首を左腕で絞めた。
勿論、殺さない程度にだ。
傷がある方の腕だが、右腕は空けておきたかった。
「司令室はどこだ!言えっ!」
ジョーの低い声には迫力があった。
首を締め付けて『本当に殺される』と言う恐怖感を相手に与えた。
その間、ジョーはエアガンで他の敵兵を威嚇し、動いた者があれば撃つ。
甚平も援護をしてくれた。
「い……言えるものか……」
息も絶え絶えになりながらも、敵兵は拒絶した。
ジョーは更に首を絞めた。
「死にてぇのか?」
「言ったら…、どっちにしろ、カッツェ様に殺される……」
ジョーは右腕で鳩尾に彼としては軽いパンチを入れた。
「次は本気を出すぞ」
「わ……解った……」
敵兵はついにぐうの音を上げた。
周りの仲間達は「言うな!」と口々に叫びながら、戦々恐々としている。
ジョーのエアガンでの威嚇と、甚平の闘い振りが彼らの動きを止めていた。
ジョーは少し首を絞める腕を緩めた。
「こ…此処から100m程行ったら、通路を左に曲がれ……。
 曲がったら、左右に道が拓けているから、右に行くと、突き当たりに司令室がある…」
仲間達が『ついに言ってしまった』、と言う顔つきになった。
だが、本当かどうかはまだ解らない。
ジョーはそのまま柔道の技のように首を絞めて『落とした』。
敵は気絶した。
死んではいない。
ジョーは甚平を連れて、敵兵を薙ぎ払いながら、その言われた通りの通路をひた走った。
「甚平、あいつが本当の事を言っているとは限らねぇ。
 注意しろよ」
「解ってらいっ!でも、あの時の仲間達の顔を見た?」
「ああ。あの顔は『言っちまった』って言う顔だった。
 だから、『本当』である可能性も高い。
 だが、油断はするなと言っている」
「うん。解った。
 ジョー、それよりも突入する前に傷の手当をしないと」
「手当をする材料もねぇし、そんな悠長な事は言ってられねぇっ!
 てぇした事ぁねぇから心配するな」
「でも、血が垂れてるよ…」
ジョーは甚平に言われて初めて気付いた。
バードスーツを伝って、指先から血がポタポタと床に垂れていた。
「これじゃあ、俺の行く先々を道案内しているような物だな」
ジョーは笑った。
それで甚平を安心させたつもりだった。
「ジョーの兄貴ったら、冗談を言っている場合じゃないよ」
「とにかく急げ。
 救急室を探して忍び込んで手当をするなんて時間はねぇんだ。
 此処は本部かもしれねぇんだからな」
「そうだね!急ごう」
2人の心が1つになった。
警備兵がどんどん現われて来る。
これはいよいよ、本格的に司令室が近い証拠だ。
ジョーはブレスレットで健に連絡を取った。
「司令室の位置を敵兵に吐かせた。
 突入したら、バードスクランブルを発信するから、来てくれ!」
『解った!充分注意しろ』
健の返答を確認して、ジョーは甚平の顔を見た。
甚平は闘志が漲った顔をしていた。
「甚平。これでおめぇも普通の子供として暮らせるようになるといいな」
「ジョーったら何言ってるんだよ」
「解ってる!いいか、おめぇは無理をするな。
 俺が健達が来るまで出来るだけ敵を喰い止める」
「何言ってるの?ジョー。
 おいらだって科学忍者隊だよ!?」
「解ってるさ。おめぇは優秀な科学忍者隊のメンバーだ。
 だが、如何せん若過ぎる。
 死なせたくはねぇのさ」
「若いのはジョーだって同じだよ!」
甚平が喰い下がった。
「仕方がねぇな。死ぬかもしれねぇぜ」
「おいらだって、そんな覚悟はとうに出来てる」
「そうだったな…」
ジョーは甚平の頭を撫でた。
「此処まで一緒に来たんだ。
 健じゃねぇが、死ぬ時は一緒だ。
 なあ、甚平」
「うん。でも、お姉ちゃんと逢ってからがいいな」
「こいつぅ〜!」
ジョーはごつんと愛情のある拳を甚平の頭に落とした。
「逢えるさ。健もジュンもすぐにやって来る。
 中に入って、本当に司令室だったら、すぐにバードスクランブルを発信する」
「ラジャー」
「行くぜ、甚平!」
ジョーと甚平はまさに死の覚悟を決めて、臨もうとしていた。
司令室らしき部屋のドアは自動ドアになっていたが、スイッチが切られていた。
ジョー達の進軍に気付いているのかもしれない。
ジョーはスイッチを発見して、エアガンで撃った。
扉が上に向かって開いたまま、停止した。
2人は勢い良く飛び込んだ。
そこにはベルク・カッツェの紫のマントが見えた。
スクリーンには燃え盛る炎のような総裁Xの姿もあった。
この部屋はまた別の電力で賄われているらしい。
自家発電装置が此処にだけは働くようになっているのかもしれない。
(ついにギャラクターの本部の司令室に到達したか!)
ジョーは万感の思いを込めて、ブレスレットを強く押し、バードスクランブルを発信した。




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