『大型拠点(8)』

科学忍者隊はまずはベルク・カッツェを目指して、全員が心を1つにした。
周りの雑魚兵を倒しつつ、少しずつカッツェの包囲網を狭くしていた。
カッツェの事だ。
いつ逃げ出すか解ったものではない。
此処が本部だとすれば居残るかも知れないが、そうでなければ…。
そう考えると、やはり早く押さえておかなければならない。
しかし、カッツェの周りにはいつになく、兵士が多かった。
特に特別な警護隊が着いている。
そう、ギャラクターの忍者部隊、ブラックバード隊だ。
彼らにはいつも苦戦を強いられて来た。
ギャラクター1の精鋭部隊は、科学忍者隊の倍の人数の10人が揃っていた。
だが、此処には竜がいない。
健とジョーが3人、ジュンと甚平が2人ずつ受け持たなければならないだろう。
まずはこれを倒さない事には、ベルク・カッツェに近づく事も出来ないのだ。
今の処、カッツェは逃げ出す素振りを見せてはいない。
余程自信があるのか、本部から逃げ出すのは彼の沽券に関わるのか、それは解らなかった。
或いは何か目的があるのかもしれない。
この部屋、と言うより、本部と目されるこの基地に科学忍者隊を引き寄せておくべき何かが。
ジョーはふと、別の場所で恐ろしい計画が進められていなければ良いのだが、と思った。
その不安をそっと健に告げた。
「博士に言って、情報部を動かして貰おう」
健はジョーの意見として、その事を博士にブレスレットで告げた。
彼もジョーの勘を買っているし、そう言った事、つまりこれが『陽動作戦』である事も考えられると思ったのだ。
これだけ大規模な基地を建造しておいて、実は水面下で何か起こそうとしている可能性は確かに否定出来ない。
エメレストは死火山だ。
例えばこれを爆発させようとしているのだとしたら…?
ジョーはその事を南部博士に告げた。
『既に情報部が動き出している。
 何か解り次第すぐに知らせる』
「お願いします」
ジョーは急にその事が気掛かりになった。
飽くまでも彼の『憶測』に過ぎないが、南部博士はその事も視野に入れて情報部員を動かしてくれる筈だ。
博士もジョーの勘が当たる事が多い事を知っていたのである。
そして、博士にもその考えには大いに共感出来る部分があった。
だから、特にその点を強化して調査するように、依頼を出していた。
ジョーはカッツェがいつものピンクの口紅を差していない事が、非常に気になっていた。
いつものカッツェと違うような気が、彼にはしていた。
ジョーは闘いの中、健にカッツェに向けて目配せをして見せてから言った。
「まさか、偽者じゃあるめぇな?
 口紅を差してねぇ。
 もし、カッツェが偽者だとすれば、俺の説も有り得るじゃねぇか。
 最初からカッツェはいなかった。
 さっきの『例えば』の話が実際にあるとすれば、カッツェがこの場にいる筈もねぇ…。
 となれば、此処は本部じゃねぇって事になる。
 エメレスト山を大爆発させ、世界中を混乱に陥れる、それが目的だった。
 ……そうは考えられねぇか?」
「メカ鉄獣の製造工場や、戦闘機の格納庫があってもか?」
「それはまだ作戦が途中だったからかもしれねぇ。
 俺達が来るのは奴らの想定外だった……。
 それなら説明が付くじゃねぇか!」
2人は互いにしか聴こえない声で話していた。
まだ背中合わせで闘っていたのだ。
「なる程。納得は行くな。勿論、そうじゃない可能性もまだあるが」
「それは俺も認める。俺の意見が必ずしも当たっているだなんて思ってもいねぇ」
「解った。とにかく早くカッツェの正体を暴こう。
 ジョーの勘が当たっているとすれば、カッツェは偽者、スクリーンの中の総裁XもただのCGだと言う事になる」
「ああ、やってみようぜ」
2人の会話はブレスレットを通じて、仲間達に配信されていた。
それを南部博士も聴いていた。
三日月基地で、ジョーの深慮に驚いていた。
「ジョーも随分成長したものだ…」
と感慨深く思いながら呟いた。
そして、ISOの情報部員に早く情報を掻き集めるよう指示を出した。

「ええい、何をしておる!早くやってしまえ!」
ブラックバード隊に指示を出したカッツェの声が、心なしか本人からではなく、別の場所から聴こえたような気がした。
ジョーは健と顔を見合わせて、頷き合った。
この時、2人はカッツェが偽者であると、確信したのである。
もうこうなれば、『カッツェらしき者』は放っておいてもいい。
とにかくこの手強いブラックバードを倒し、ギャラクターが急いでいると思われる『真の作戦』を阻止しなければならない。
もしジョーの勘が当たっていれば、大変な事になる。
麓の街に住む人々を避難させるのに何日を要するか…。
また、どの位までの範囲の人々を避難させるべきかを、今、南部博士達が必死に計算しているに違いなかった。
勿論、ギャラクターの作戦がそうだと決まった訳ではなかったが、南部博士はありとあらゆる可能性を考えて動く人だった。
ついに雑魚兵が引き、ブラックバード隊が表に出て来た。
「訳は後で話す。カッツェには気を払わなくていい。
 ブラックバードだけに集中しろ。いいな!」
健の檄が飛んだ。
ジュンと甚平が頷いた。
次から次へと難題が飛び出して来る。
ブラックバードはどう言う攻撃をして来るか解らない。
人数からして、数人で組んで来る事だろう。
(ジュンと甚平には危険な敵だ…)
健は冷や汗を流した。
ジョーも同じように思っている。
健は世間話をするかのように、ジョーにボソッと呟いた。
「ジョー、俺は勿論だが、お前もジュンと甚平に気を配ってやってくれ」
「ああ、解ってるぜ」
「出血は止まったな。傷の痛みは?」
「でぇ丈夫さ。行くぜ、健!」
ジョーはそう言うと、いきなり跳躍してブラックバードとの闘いの口火を切った。
ブラックバードの1人がダッシュをして、ジョーに激突して来た。
火花が散ったように見えた。
今回は刺身包丁のような細く長い刃物を両手に持っている。
両腰に鞘があり、自由自在に出し入れが出来るようだ。
ジョーは身体を開いて、その刃物の切先を避けた。
ビュンと音がした。
大胆にもいきなり正確に腹部を狙って来たのだが、勿論それに屈するジョーではない。
刺身包丁のような武器は、敵の腕を長く見せる錯覚を起こさせた。
距離を見誤る可能性がある。
下手に下がり過ぎて、別のブラックバードにやられないように、360度の方向に気を払う必要があった。
ブラックバードもこの攻撃態勢に関しては訓練を積んでいるらしい。
1人ずつ科学忍者隊に付き、残りの人数は遊撃隊として臨機応変に動くフォーメーションらしい。
誰が誰に付くかも決めていたようだ。
竜に付く役目だった男は、あぶれてしまったので、遊撃隊に加わっている筈だ。
(恐らくは担当を決めて来た奴らは科学忍者隊の闘い振りを研究して来たに違いねぇ…。
 こいつは手強いぞ!)
ジョーは直感的に感じた。
彼の左肩の傷に、敵は気付いている事だろう。
そこから斬りつけられる恐れもあった。
ジョーはいざとなったら肉を斬らせて骨を断つ、と言う覚悟を決めた。
肝が据わっているジョーは、決して敵を恐れなかった。
自分から突っ込んで行く、ぐらいの事を平気でこなした。
エアガンで眼を狙ったが、敵もなかなかなもので、撃たせようとしない。
香港のカンフー映画でも観ているかのような、まるで早回しした映像のようにビュンビュンと音を立てながら、立て続けに両手の刃物でジョーを襲って来る。
ジョーは長い脚で、1本の刃物を蹴り飛ばした。
しかし、周りの仲間がすぐに自分の武器をその男に投げ渡す。
ジョーはそれをエアガンの三日月型キットで撃ち落とした。
ジョーの敵の武器は1本になった。
敵は武器を右手に持ち替えた。
その瞬間が一瞬の隙だった。
ジョーは羽根手裏剣を右手に向かって放ち、手の甲に見事に的中させる。
敵がその羽根手裏剣を抜こうとしている内に、彼は華麗な蹴り技を見せた。
ブラックバードはどうっと倒れた。
しかし、左手に武器を持ち直して、立ち上がって来た。
打たれ強い。
そして、訓練しているだけあって、左手だけの攻撃でも相当に早く、ジョーも避けるのがやっと、と形勢が逆転した。
これでは先程健と言い合った、ジュンと甚平を見守る余裕すらなかった。
とにかく眼の前の敵を早く1人でも多く倒し、2人を応援出来る体制にするしかない。
ジョーは前後左右にアンテナを張りつつ、エアガンのワイヤーを伸ばし、敵の左手にある武器を巻き取った。
その瞬間、羽根手裏剣が敵の喉笛を貫いた。
なるべく人命は奪うな、と南部博士から言われてはいるが、この非常時に仕方がなかった。
ジョーは息つく間もなく、別の敵と対峙する事になった。
まだまだ厳しい闘いが繰り広げられる。
ブラックバードは後9人居た。
やがて健が1人を倒し、これで残り1人頭2人ずつとなった。
少しは余裕が出て来るかと思ったが、そうは行かなかった。
ジョーはジュンと甚平の事を視野に入れつつも、なかなか助け舟は出せなかった。
健も同様のようだった。
だが、2人とも、健闘していた。
少なくとも傷は受けていない。
素早さがあるので、敵の攻撃を見切って避ける事は出来ている。
それなりに闘っているようだ。
ジョーはとにかく自分の相対する敵に集中した。
敵は一番手、二番手と順番を決めていたらしい。
ジョーには二番手が付いた。
それが意表を突いて刃物をジョーの羽根手裏剣のように投げつけて来た。
ジョーの肩の傷を狙ったのである。
だが、ジョーはそれを辛くも避けた。
飛んだ武器は反対側の遊撃隊のブラックバードが受け取り、仲間に返した。
ジョーはそれも上手く避けた。
挟み撃ちされているような物だった。
天井は高いので、逃げるとしたら上の空間しかない。
ジョーは跳躍して天井のパイプに脚を引っ掻け、蝙蝠のように逆さにぶら下がった。




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