『大型拠点(9)』

天井に逆さにぶら下がったジョーは、ブラックバードの刃物の恰好の的となる筈だった。
ブラックバード全員の意識がジョーに向いた。
ジョーはそれを覚悟の上でそうしたのだ。
残っているブラックバードは8人。
ジョーは何時の間にかペンシル型爆弾を片手に4本ずつ、指の間に挟んで持っていた。
健はジョーの意図を正確に理解した。
「ジュン、甚平…。ジョーの手を見ろ。
 爆風を避ける準備をしておけ。
 ジョーの狙いは俊敏で正確だぞ!」
「ラジャー」
指の細やかな動きで、ジョーは一振りで4本のペンシル型爆弾を投げつけた。
羽根手裏剣の要領だった。
それはブラックバード隊全員の心臓目掛けて飛んだ。
健達3人がマントで身を守って伏せた。
ジョーは華麗に着地し、健達は起き上がった。
「見事だな。一気に8人を片付けるとは」
健はジョーの右肩を叩いた。
左肩は怪我をしている。
出血が止まっているとは言え、その事は頭の隅にあった。
「しかし、これからどうする? 
 情報部の連絡を待っていたのでは、間に合わねぇかもしれねぇぜ」
ジョーは腕を組んで、左手の人差し指でとんとんと自分の二の腕を叩いた。
彼の焦りがそんな仕草に出ていた。
「ジョーの勘が当たっているとすれば、地下だな」
健も腕を組んだ。
「ねぇ!それより竜は?」
「そうだ!竜、応答しろ!そっちはどうなっている?」
健は慌てて竜に通信をした。
『敵の戦闘機が出て来ているが、どう言う訳か3機しかおらん。
 上空に上がったら、着いて来れなかったようで、下でぐるぐると回っているわい』
「それは良かった。そのまま待機してくれ。
 状況は知っているな?」
『知っとる。ブラックバードは片付いたのかぇ?』
「ああ、ジョーの活躍もあって、全員片付いた。
 だが、問題はこれからだ」
『南部博士の方からはまだ情報が入ってないぞい』
「俺達はこの基地に地下があると睨んでいる。
 これから向かうつもりだ」
『ラジャー。おらが必要になったらすぐに呼んでくれよ』
「解った!」
健は竜との通信を終え、取り敢えず安堵の溜息を吐いた。
「ゴッドフェニックスは竜の機転で無事だった。
 俺達が格納庫を叩いておいたので、3機しか戦闘機が出せなかったんだろう」
「不幸中の幸いだな。
 一時はどうなる事かと思ったから、ホッとしたぜ」
「さて、どうするかな?」
腕を組んだままの健が瞑目した。
「さっき、格納庫に行く奴らが、下へ行くエレベーターを使っていた。
 取り敢えずそれに乗ってみようぜ」
ジョーが提案し、健も乗った。
「よし、早く雑魚を片付けて行ってみよう」
健はマキビシ爆弾を取り出した。
それをばら撒いておいて、敵兵が混乱している間に、科学忍者隊の4人はエレベーターに乗り込んだ。
ジョーはカッツェのマスクを被っていた男を引き摺り出して、マスクを取り去ったが、ただの一般隊員だった。
カッツェの声はその男が持っている拡声マイクから出ていたのだ。
ジョーはそれを捨て置き、最後にエレベーターに乗った。
エレベーターは自動的に下へと降りて行った。
「どんな場所に下りるか解らない。
 みんな注意しろよ」
「ラジャー」
透明な円柱のようなエレベーターは凄い速さで降りていた。
動体視力のある科学忍者隊は基地の中を粒さに見た。
「大きなドリルであちこちにどんどん穴を掘っているな」
「やはりジョーが言ったように死火山を刺激して爆発させる作戦だったか?
 俺達が来た事で作業を急いでいる様子だな」
「大変だわ!早く止めないと!」
「何て事をするんだよ、ギャラクターの奴らは!」
4人は口々に言った。
そして、健は南部博士と連絡を取った。
『死火山の爆発を防ぐのは難しいかもしれん。
 既にある程度掘られているとなれば、ちょっとした何かの刺激で爆発してしまう可能性もある』
「近隣住民の避難は?」
『とても間に合わん』
南部博士の声は沈痛だった。
『至急検討するから、諸君はとにかくその作業を止めてくれたまえ』
「ラジャー」
4人、声を合わせて答え、ジョーが呟いた。
「バードスクランブルを発信して、竜を此処に突っ込ませようぜ」
「駄目だ。ちょっとした刺激で爆発してしまうかもしれない、と博士が言っていただろう?」
「そうか。くそぅ…!」
「とにかく作業員を片っ端から倒そう。
 今はそれしかない」
「解った!」
全員が散った。
大きなドリルは大型の工事用車両で操作されている。
数えた処、その重機は10台あった。
大型の為、それぞれに相当人数が乗り込んでいて、メカを動かしているようだった。
掘り進められてしまった部分はもう取り返しが着かない。
せめて、これ以上の作業の進行を防ぐより他なかった。
竜には活躍の場がなくて、申し訳ないが、もう少し戦闘機を引きつけて遊んでいて貰おう。
その間に4人は粛々と任務を遂行するのみだ。
重機を取り扱っている連中は一般の隊員だった。
ブラックバードでなくて良かった、と言った処だ。
手間はそれ程掛からないだろう。
問題はその後の事だ。
だが、それは博士が考えてくれるに違いない。
4人は敵兵を止め、作業を中断させる事に集中した。
博士は必ず何か方法を突き止めてくれる筈だ。
彼らの信頼は厚かった。
ジョーは敵兵を大きな重機から引き摺り下ろし、重いパンチを浴びせた。
エアガンの三日月型のキットも大活躍だ。
そんな折に博士から連絡が入った。
『以前、キタセン国が作った核兵器を凍らせたバズーカ砲の原理を応用して、バードミサイルを作った。
 今、竜には急ぎ基地へ帰還するように命令した処だ。
 エメレスト山の爆発を防ぐにはそれしか手がない。
 世界遺産を失う事になるが、止むを得ん。
 そのバードミサイルは1弾しか作れなかった。
 発射はジョーの腕を信じて君に任す』
「解りました」
キタセン国の核兵器を凍らせた時には、ジョーがノーズコーンからバズーカ砲を撃って危険な目に遭ったが、今回は壮大なエメレスト山が対象である為に、バードミサイルを使わざるを得なかったのだろう。
博士も熟慮に熟慮を重ねた筈だ。
製作も急がねばならなかったし、眼の回るような忙しさだったに違いない。
そんなバードミサイルを無駄には出来ない。
ジョーの闘志は燃え上がった。
とにかく、マシンガンを手に降りて来た敵兵達を、彼らは一掃し始めた。
別の部署からも応援が駆けつけており、ギャラクターの人数は犇めき合う程にまで膨らんで来ていた。
肉弾戦は科学忍者隊の得意とする処だ。
全員が存分に闘い始めた。
ジョーは羽根手裏剣を周囲に正確に飛ばしつつ、長い脚での蹴り技が冴えていた。
ブーツの踵は結構硬く出来ている。
これで蹴り飛ばされたら、暫くは起き上がれない。
そして、ジョーのカモシカのような脚から繰り出される膝蹴りもその威力を発揮していた。
左肩を負傷しているだけに、肉弾戦での攻撃は蹴り技と武器による物が自然に多くなった。
敵の鳩尾に両腕で繰り返しパンチを入れると、さすがに左肩が悲鳴を上げて、また出血が始まった。
そこで足技に集中したのだ。
エアガンの三日月型キットでの打撃も効果があった。
ジョーは華麗に舞うかのように、見事に敵兵を薙ぎ払って回った。
竜が特別兵器のバードミサイルを積んで来るまで、出来るだけ敵兵の作業を妨害しなければならなかった。
敵兵がわらわらと出て来た事で、妨害が思った程進んでいない。
科学忍者隊には焦りがあった。
もし、1つでも、ドリルがマグマまで突き出したら…。
そう考えると猶予はない、としか思えなかった。
ギャラクターは大分以前からこの作戦を水面下で実行していた。
そして、科学忍者隊が基地に乗り込んで来た事で、その作業を急いだ。
この事実は科学忍者隊に絶望に近いものを与えた。
だが、1つの光は新兵器のバードミサイルである。
それが間に合ってくれれば、どうにか死火山エメレストの爆発は防げる筈だ。
エメレスト山のエメラルドは消えてなくなるかもしれない。
それ処か、山自体が全て凍ってしまうので、後は国連軍が溶けて行く前に少しずつ崩して行く事になるだろう。
世界遺産をこうして自分達の手で1つ潰してしまうのは、後ろめたい気分がした。
でも、それをしなければ…。
誰ががしなければならないのなら、自分がしよう。
ジョーは心に決めたのである。
闘い振りが益々激しくなった。
怒り、哀しみ、複雑な感情が入り乱れていた。
1度は此処を本部かもしれないと思い、ベルク・カッツェを、総裁Xを倒してやる、と意気込んで来たのだから。
これで爆発まで防げなかったら、どうしようもない自己嫌悪に陥る事だろう。
「くそぅ、ギャラクターめ!何処までも俺達を舐めやがって!」
ジョーの怒りが改めて爆発した。




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