『大型拠点(10)/終章』

ジョーはその怒りを敵兵に向けて発散した。
回転・乱舞するかのように、羽根手裏剣が周囲全方向に舞った。
1本も無駄になる事なく、全てがそれぞれの隊員の喉笛や首、手の甲などを貫いていた。
隙が出来た処へ身体1つで飛び込んで行く。
長い脚で脚払いをすると、それだけで敵兵が面白いように倒れた。
しかし、ドリルでの作業はまた再開されている。
それをどうしても止めなければならない。
(こんな奴らを相手にしている暇はねぇんだ!
 竜、早く来てくれっ!)
ジョーは特別なバードミサイルを装備する為に基地に戻っている竜の事を心待ちにしていた。
そのバードミサイルを撃つのは博士から正式にジョーに一任されている。
彼の射撃の腕は、バードミサイルの発射時にも大いに生かされているのだ。
今回の狙い処を今、博士が緻密な計算で割り出している筈だ。
此処から脱出して竜と合流し、博士が導き出した場所にバードミサイルを撃ち込めばいい。
マグマをも凍らせる程の強力なミサイルだ。
恐らくはエメレスト山は氷山になる。
それを国連軍が後で崩して行く事になるのだ。
世界遺産・エメレスト山はついにこの世から消え去ってしまう。
エメレスト山は古代に爆発を繰り返し、周囲100kmの地域にまで被害を及ぼし、1000km先の街までその火山灰を降らせたと言うデータが残っている。
やはり、この方法しか採りようがなかった。
南部博士も時間のない中、アンダーソン長官と充分に協議した上での苦渋の選択だったに違いない。
彼らが任務を遂行している間に、裏ではISO内でも、様々な協議が繰り広げられたのだ。
南部博士は基地にいるようなので、テレビ会議システムで話が進んだのだろう。
ジョーは博士の苦悩も全て自分で背負い、バードミサイルのボタンを押す事になる。
博士の無念をも晴らそうと自分の心に秘めて、ジョーは敵兵に向かって行った。
エアガンと羽根手裏剣、そして自らの身体を余す事なく、使い切る。
敵兵は彼が通り抜けた後をバタバタと倒れて行く。
「ジュン!甚平!雑魚は俺とジョーに任せて、早く作業を止めるんだ!
 爆弾は使用するなよ!」
健が指示を出した。
「ラジャー」
2人は此処の戦闘から外れて、敵の重機の方へと走って行った。
「ジョー、頼むぜ」
「ああ、任せとけ!」
健とジョーは背中合わせになって、互いの背中を守った。
そうしながら、息の合った闘い振りを見せて、多くの敵を倒して行った。
リーダーとサブリーダーは実力が伯仲している。
闘い方は違うが、どちらも見劣りする事はない。
体格も近いせいか、見ていて凄く見栄えがいい。
オリンピックで体操の演技でも見ているのかと思う程だった。
華麗に宙を舞い、それぞれの武器で敵を倒して行く。
そして、自分の前と利き腕の方面だけを守っていれば良かった。
後は相棒が片付けてくれる。
2人の背中合わせには、数々の利点があった。
背中側に気を払わないで済むだけでも、大分闘いが楽になるのだ。
それが解っているからこそ、2人の時はこう言ったフォーメーションを組む事が多い。
阿吽の呼吸だった。
打ち合わせをしなくても、2人は自然にそうした。
それが一番効率的だと言う事が解っているからだった。
互いの投擲武器が相手の背中を守る。
ピタっとくっついている訳ではないが、相手の気配を感じ取りながら、ある程度の距離を保ち、それ以上離れないようにはしていた。
今までこのフォーメーションで数多くの敵兵を倒して来たのだ。
ジュン達も順調に敵の重機を止め始めた。
乗る者を倒せば良いのだから、彼女達にとってもやり易い。
邪魔者を健とジョーが引き受けてくれたからには、2人で任務を遣り遂げなければならない、と意気込んでいた。
敵兵を引き摺り下ろしては、倒す。
そして、重機のエンジンを停める。
それを繰り返して行く内に、10台あった重機は残り3台までに減っていた。
「いいぞ!ジュン、甚平。そのまま続けてくれ」
健はブレスレットで指示を出しながら、闘っている。
「バードランっ!」と心強い叫び声が背中から聴こえる。
ジョーは気合のみ発しては、敵兵を倒し捲っていた。
『健!ゴッドフェニックスは今、基地を発進したぞいっ』
竜からの通信があった。
「解った。出来る限り早く来てくれ!」
『ラジャー!』
これでやっと最終作戦を潰す事が出来る。
健の安堵が背中合わせのジョーにも伝わって来た。
「ジョー、ついに出番だな」
「ああ、やってやるぜ!本部だと思ってやって来たのに、残念だったがよ!」
「そうだな…。お前の気持ちは俺が一番良く解るつもりだ」
「また、本懐を遂げる日が延びたぜ」
「お互い様だ。また頑張るのみだ」
2人は話しながら、まだ闘いを続けていた。
竜が来るまでに、少しでも多くのドリルの回転を停めておかなければならない。
少なくともこれ以上は自分達の見ている前で作業を進行させたくはない。
ジュンと甚平が8台目の重機を停めた。
健とジョーは闘い甲斐を感じていた。
彼らが手足を動かせば、敵兵はバタリバタリと倒れて行く。
とにかく竜が到着するまでにやれるだけの事はやっておきたい。
それが2人に共通する思いだった。
その思いは存分に発揮され、敵兵はどんどんその数を減らして行く。
眼に見えて、敵の数は少なくなっていた。
中には見切りを付けて逃げ出す者もいたかもしれない。
いくらカッツェの命令だからと言って、いつ爆発するか解らないこの場所にいつまでも残っている程馬鹿じゃない、そう思っている隊員もいる筈である。
恐らくはカッツェは、「お前達は絶対に助かる。作業が終わったら撤退が完了してから爆発させる」ぐらいの嘘はついている事だろう。
だが、残念ながら彼には人望がなかった。
その言葉を信じている者がどの位いたのか…。
少なくとも一握りの隊員達はカッツェの本質を見抜いている筈だ。
友がカッツェに見棄てられて死んだ者もいるだろう。
そう言った仲間を持つ者は、カッツェの事を恨んでいるかもしれない。
だが、ギャラクターの鉄の掟から逃げ出せずにいるのだろう。
今、この場から逃げ去った者がいたとしても、恐らくは後で探し出されて処刑される。
(俺の両親のようにな…)
ジョーは内心で呟いた。
そこへ竜からの連絡が入った。
『もうすぐ到着するぞい』
「解った。全員撤退する!」
健が竜に呼応して、他の3人に声を掛けた。
3人にも異存はなかった。
脱出するとは言っても、此処までかなりの距離をやって来た。
そして、此処はその更に地下だ。
どの程度地下まで降りたのかは解らない。
取り敢えず先程のエレベーターが動くかどうか確認する為に乗ってみた。
電源は切られていなかった。
4人はやがて元来た司令室へと戻った。
そこにはブラックバードやら雑魚兵やらが倒れていたが、4人は構わずに脱出した。
彼らは風のように走った。
此処に来るまでとは違い、邪魔をする者がなかっただけ、脱出は早かった。
それでもゴッドフェニックスに戻るまでに、15分を要した。
それだけ広い大型拠点だったのだ。
(本部でなくて残念だ…)
ゴッドフェニックスのトップドームに飛び移る時、ジョーは一瞬振り返って、そう思った。

「ジョー、1発目の超バードミサイルが、特殊ミサイルになっとる。
 博士からのデータはこれじゃ」
竜はそう言って、スクリーンにどこに狙いを定めたら良いかを示した地形図を映し出した。
「この地形図はこの北側から見たものじゃて、狙いやすいじゃろ」
「竜!左90度急速反転!」
健の声が響いた。
竜は慌てて操縦桿を操作した。
先程の戦闘機3機は、まだこの辺りを警戒していたのである。
「油断をするな!」
健が竜を叱りつける。
「す…すまん…」
「いいか、ジョーが狙いやすいようにしてやらなければならないが、あの戦闘機にも注意しなければならない」
「バードミサイルを使う訳には行かねぇしな。
 健、G−2号機のガトリング砲でやっつけよう。
 竜、ノーズコーンを開けてくれ」
ジョーが言ったのを健が制止した。
「いや、俺が行く。飛行機には飛行機だ」
健はG−1号機に乗り込み、ゴッドフェニックスから離れた。
これで暫くの間はバードミサイルを使えなくなった。
ジョーはG−2号機を接続させたままで遣り遂げようとしたのだ。
少しでも早くバードミサイルを撃ち込む為に。
もう残り僅かな作業員は作業を止めて逃げ出しているに違いないが、いつ死火山が爆発してもおかしくはなかった。
「健の野郎…。早くしやがれ」
ジョーは腕を組んで、また指で自分の腕をとんとん、と叩いた。
「ジョー、今の内に傷の手当をしてしまいましょう。
 敵機は健に任せておけばいいわ。
 ガッチャマンファイヤーでさっさと片付けて来る事でしょう」
「もう出血も止まっている。今更手当は必要ねぇだろう」
「でも、傷口の消毒はしないと。
 甚平を庇って銃弾が掠った後、マシンガンで叩かれたって言うじゃない。
 前みたいに破傷風にでもなったら大変よ」
「解ったよ…」
ジョーは投げ出すように言って、ジュンのするがままに任せた。
「これで良し。後は健の帰りを待つだけよ。
 もう、終わったみたいね…」
健が合体して来た。
すぐにコックピットに上がって来る。
「ジョー、出番だぞ」
「おうっ!待ちくたびれたぜ」
ジョーは健の不在の間に地形図を頭に叩き込んでいた。
「いつでも狙えるぜ。地形図は頭の中だ!」
ジョーは勇躍赤いボタンの前に立った。
ボタンカバーが自動的に開かれた。
「くそぅ。これでエメレスト山の終わりだ!ギャラクターのせいだぜ!」
ジョーはそう叫んで、叩くように超バードミサイルのボタンを押した。

エメレスト山は、ついに氷山のようにかちんこちんになり、科学忍者隊には帰還命令が出された。
「今回はギャラクターに踊らされた。気に喰わねぇな」
帰りのゴッドフェニックス内ではジョーがプリプリと怒っている。
「ジョー、みんな思っている事は同じだ。
 お前みたいに言葉にしないだけさ」
健がジョーの右肩を叩いた。
「ふん。俺は直情型だからな。
 この方がストレスが溜まらなくていいんだぜ」
ジョーの言いっぷりにみんなが笑った。
長い任務だった。
『諸君。ご苦労だった。大変な任務を良くこなしてくれた』
「でも、博士。世界遺産のエメレストを俺はこの手で…」
『ジョー、それをさせたのはこの私だ。気にする事はない』
「解ってます。でも、ギャラクターが憎いっ!
 どうしようもねぇ感情が迸って来るんですよっ!」
ジョーは眼の前の計器を叩いた。
『落ち着きたまえ。自然の力は素晴らしい。
 これから何億年も掛けて、きっとエメレストはまた輝きを取り戻すだろう』
「そうでしょうか?」
これは健が訊いた。
「我々には見届けられない、遠い未来ですね。
 余りにも遠過ぎて現実味を感じられません」
『その通りだな、健。
 今回の事は、国際科学技術庁も重く見ている。
 ギャラクターの本部を一刻も早く探し出し、本当に潰してしまわなければ、第二第三のエメレスト山が出て来る事だろう』
博士はそう言うと一瞬、眼を伏せた。
『諸君にはまだまだ頑張って貰うしかない。
 帰って休んでくれたまえ』
博士の姿がスクリーンから消えた。
「今回の事は博士にとっても苦渋の選択だったに違いねぇからな…」
ジョーが驚く程物静かに呟いた。




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